先月30日、台風24号直撃の予想を受けて初めて実施されたJR東日本の「計画運休」。その対象路線は首都圏全域に及び、午後8時以降、在来線は全て運休となったことから、多くの人が急いで家路につくことになった。
しかし、中には「アイドルのライブが終わったら止まっていたので、帰る電車がない」という人や、閉園を1時間前倒しして午後9時にした東京ディズニーリゾートの最寄り駅・舞浜では「どうやって帰ろう」「今知った。びっくりした」と戸惑う人たちの姿もみられた。
また、翌朝には倒木や架線に異物が引っかかった影響で、在来線は全てが始発から運転を見合わせたが、JR東日本がそれを発表したのが午前4時だったことで、駅へと来てしまった通勤客でホームや駅の周辺に人が溢れ大混乱を招いてしまった。
計画運休といえば、JR西日本が先月、台風21号の接近を受けて実施したことが記憶に新しい。多くの店舗、会社、百貨店などが休みになるなど、経済的な損失を懸念する声もあったが、JR西日本の来島達夫社長は「こうした自然の猛威に対してどう手を打ち、被害を最小に抑えるか。そうしたことを常に考えて私どもとして今後とも行動していきたいと思っている。広くお客様への告知などを通じて(計画運休への)理解を得ていく。そうしたことで、広くお客様の身の安全を守っていく。そうしたことが定着することが大事ではないかという気がする」と述べている。
3日、会見を開いたJR東日本の深沢祐二社長は「肯定的なご意見もあるし、ご批判もある。私どもとしては、混乱を防止するためにはその判断でよかったというふうには思っている」との認識を示し、「平日であっても必要があればそういう判断(計画運休)はしていきたいと思っている」と、場合によっては今後も計画運休を実施する可能性を示唆した。一方で「午後8時以降の運休」を告知したのが当日の昼ごろだったことについては、テレビ各局の昼のニュースに間に合わせるためだったと説明、「従来からSNSでの情報発信はしていなかったし、準備もしていなかった」と情報提供の方法やタイミングには課題も残る運用だった。
菅官房長官は「被害や混乱、これを避けるために計画的に運休を行ったということはやむを得ない措置だと思っている」と話し、国土交通省も計画運休は適切だったと評価したが、翌朝の混乱について石井国土交通大臣は「旅客への事前の情報提供や翌日の運転再開時の鉄道事業者の対応が適切であったのかしっかり検証し、今後の対応の改善を図ることが重要であると考えている」と述べた。
■JR東日本の判断に肯定的な意見も
今回の計画運休について、街の人たちは
「止めて正解かな。これでけが人とかが出ても嫌だし」
「お仕事とかでもちろん使われる方もいるので全部を止めなくても良いのかなというのは思う。本当に必要な人が乗れないというところはちょっと」
「それに乗っていた当事者だが、(運休する)8時の基準が分からなかったので、どこが最終で8時なのかというのと、もうちょっと情報が分かれば良かった」
と賛否両論。Twitter上でも
「大英断だったと思う。下手に動かして、横転なんてことになったら目も当てられない」
「社会インフラとして動かさないことで責任を果たすことだってあるんだから」
「インフラなんだから公共事業と同様、設備投資して計画運休しないような姿勢を見せないと会社としておかしい」
など、様々な意見が見られた。
AV女優の紗倉まなは「這ってでも会社に行く、というのがまだまだ美徳みたいになっているのも問題ではないか。鉄道会社としても、ちょっとしたことですごく批判を浴びて、犯人探しになっていく時代なので、リスク回避のために、予め広めに対策しておこうとなってしまうのも仕方がなかいと思う」と指摘。
台風が接近する中、東京に戻れるのかわからないまま仕事で大阪に向かったというパンサーの向井慧は、「初めての計画運休だし、トラブルが起こるのは仕方ない。そんなに責めなくても…と思う(笑)。世の中の会社も休みにするとか、変わっていく途中の時期だと思うので、今回のことがきっかけになって、また良くなっていくのではないか。吉本興業も無理なスケジュールを立てないようにならかな(笑)」と話す。
■鉄道業界に残る課題は
いすみ鉄道の鳥塚亮・前社長は「昔に比べて、日本人の災害時の対応や企業への理解が深まったと感じる」とした一方で、今回のJR東日本の判断について鳥塚氏は「私は小さな鉄道しか経験していないし、乱暴な言い方になってしまうが、雨量や風速など安全運転のための基準を超えることが予測された段階で"とりあえず全部止めちゃおう"という部分があったのではないか。航空会社であれば、方面別に順次復旧させていく。半径100キロほどの大規模な範囲を一度に止めるのではなく、徐々に間引いていく、といった方法はなかったのだろうか。また、本来、計画運休なのであれば、運転再開やそのための手順も計画に入っていないといけない。そう考えると、これは本当に計画運休だったと言えるのだろうか」と疑問を呈する。
元経産官僚の宇佐美典也氏は「電力会社の場合、ブロックごとに発送電を管理する機関、広域で全体を管理する機関があって、北海道の地震で起こった停電に関する検証も第三者機関が行うようになっている。鉄道の場合も、第三者的に判断する人や機関があり、報告書を作って社会に共有するなどの対応を取るようにすべきだ。東日本大震災の後、各省庁が業界を指導するようにはなったが、実際の運用面に課題があるし、鉄道事業法などの法律もアップデートされていない。情報伝達の仕組みも、各社でSNSをやるだけではまだまだ伝わりにくい。いわば社会が鉄道会社に対応を丸投げした状態になっている」と指摘。「たとえば病院に行けなくなった人が出ていたら大変なことだっただろうし、今回大丈夫だったから結果オーライではいけないのではないか。国土交通省は対策を講じ、業界団体を作り、地域と協力しながら訓練を行うべきだ」と訴えた。
そこで鳥塚氏は、公的なサービスを提供する企業ほど、BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)を事前に策定しておくことが必要だと主張する。これは自然災害などの緊急事態に遭遇した場合に、損害を最小限にとどめつつ事業の継続、早期復旧の方法や手段を盛り込んだものだ。
JR東日本は取材に対し"利用者の安全確保を最優先にする"といった考え方をまとめた防災業務計画は策定しているというが、具体的な災害対応は部署や駅ごとに状況が違うため、個別にマニュアルや対応策を用意しているとしている。
鳥塚氏は「サービスを止めなければいけないという時に、どの段階で運転再開するのか、その際に業務を回復するやり方などを準備しておく。日本でも2000年問題でコンピューターが止まった時のことを想定して議論されたが、何事も無かったので消えていってしまった。ただテロの脅威もある欧米では普通のこと。航空会社も基本的には導入している。たとえば先日の地震ですぐに営業再開できたコンビニは、店舗ごとにバッテリーのコードが置いてあり、車とつないでレジを動かした。日本の鉄道会社の現場力は素晴らしく、今回も混乱の中、それぞれの職場で一生懸命やって何とか復旧させようとした。しかし、もう少し全体のシステムとして考えておくべきだ。まずは小さくてもきちんとしたBCPを作り、訓練もして、それが徐々に社会に浸透していく中で、では大きいBCPどうしようか、という話になっていくのではと思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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