10月28日のDDT後楽園ホール大会に、SKE48の荒井優希が“参戦”することになった。出場する試合はDDT名物・アイアンマンヘビーメタル級王座をかけた時間差入場女子バトルロイヤル。荒井は現チャンピオンである。
（記念撮影では伊藤もアイドルスマイル。得意の「世界一可愛いナックル」を荒井に決められるか。ちなみにこの会見の前日には“女子プロレス界の横綱”里村芽衣子と対戦している）
いつでも、どこでも、誰でも挑戦することができ、不意打ちであろうがレフェリーが3カウントを入れれば王座移動となるアイアンマン王座。中継のゲストを務めた須田亜香里が竹下幸之介から奪取して以降、ベルトは須田から松村香織、そして荒井へと渡ってグループ内抗争が展開されてきた。
とはいえベルト争いが本来行なわれるべきはリングの上。今回は挑戦者として赤井沙希、チェリー、さくらえみ、上福ゆき、瑞希が出場することが10月22日の記者会見で発表された。
今回は「荒井優希」としての参戦だが、荒井はリングネーム「バブリー荒井」として「豆腐プロレス」（48グループのメンバーがレスラーを演じるドラマ）のリアル版興行にも出場しているだけに楽しみだ。
「バレエをやっていて体が柔かいので、かかと落としが得意です」という荒井。本物のプロレス興行で、アイドルファンではなくプロレスファンの前で試合をすることに緊張が隠せない様子だったが「自分なりの全力でベルトを守りたい」とのコメントも。
だがそこに、48グループと聞いて黙っていられない選手が割って入った。“クビドル”伊藤麻希だ。
（会見に乱入した伊藤は「ここでやってもいいんだぞ！」と荒井に掴みかかるが大石が突き飛ばす）
DDTグループの東京女子プロレスを主戦場とする伊藤は、アイドルグループ・LinQの元メンバーであり、卒業（本人曰くクビ）後はパフォーマンスユニット・トキヲイキルに所属。また東京女子でも瑞希とタッグチーム兼アイドルデュオ「伊藤リスペクト軍団」を結成している。
会見場に姿を現した伊藤は、自分もこの試合に出場させろと要求。その理由は「48とやって話題を作りたい」からにほかならない。しかし単に売名行為というだけでもないのだった。
伊藤は荒井に対して「アイドルがプロレスしたくらいでチヤホヤされると思うなよ！ こっちはまったくチヤホヤされてないんだ！」と怒りをぶつける。プロレスラーになるためLinQの活動拠点である地元・福岡から上京し、一から練習を積んで黒星を重ねながら評価を高めてきた伊藤。それだけに、荒井が「48のブランドにすがってるようなヤツ」に見えてしまうのだ。
荒井は“本職”ではないこともあって、プロレス界屈指のアイドル好きである大石真翔が助っ人につくことに。大石はDDTのDD（誰でも大好き）とも言われ、そもそもアップアップガールズ（仮）の新井愛瞳推し。大石によれば「アライという名のアイドルは推さずにいられない」そうだ。
（旧知の大石が敵に回る中、会見中は厳しい表情を崩さなかった伊藤。対する荒井は緊張しつつもあくまで自然体）
伊藤は、そんな大石も含め「（荒井には）守ってくれる人がいるけど、伊藤にはいない」と状況を素直に明かすと、さらに「伊藤は報われない人生を歩んできたんですよ。でもリングでは負けるわけがない。今の時点でかなり悔しい思いをしてるので、絶対にベルトを巻きます」。
アイドルとしては成功できなかったがプロレスに適性を見出し、奮闘に奮闘を重ねてきた伊藤は、いまやDDT総選挙の中間発表で1位をキープし続けるほどの人気を誇るようになった。そんな伊藤の基準からすれば、荒井は新参者に過ぎないのである。
キャリア2年足らずとはいえ、伊藤には“叩き上げ”のプライドがある。ただ荒井もプロレスの練習自体はしたことがあり、まったくの素人ではない。今年の総選挙では28位、前年の58位から大躍進を果たしている。
公開されたばかりのドキュメンタリー映画「アイドル」を見ても分かるように、メジャーアイドルにはメジャーアイドルの悩みや苦しみがある。荒井もまた、伊藤とは違う形の巨大なプレッシャーと闘い、乗り越えてきたはずだ。アイドルとプロレスではジャンルが違うとはいえ「注目されること」に慣れているというのも強みになる。
見方を変えれば、この闘いは伊藤がメジャーアイドルの存在感に挑む“挑戦”でもあるわけだ。ともあれLinQの中でもポジションが端あるいは後列だった伊藤がSKE48の人気メンバーと真っ向から対峙する時点で劇的な展開。荒井は荒井で本物のプロレス団体に参戦するとは思ってもいなかっただろう（しかもチャンピオンとして）。この試合、バラエティ系マッチのようでいて、そこには2人の濃いアイドル人生が透けて見えるのだ。
文・橋本宗洋
この記事の画像一覧
