東京都葛飾区・立石。"せんべろ"の居酒屋が立ち並ぶ、のんべえの聖地として若者にも人気の街並みが、再開発の波で消えようとしている。京成線の立体交差化工事に合わせ、この一帯で駅前高層化計画が進められているのだ。
「のんべえの聖地を守る会」は再開発の反対署名をネットで集めているが「立石駅北口地区市街地再開発準備組合」では駅北口には消防車も救急車も入れない狭い路地が多く、老朽化した木造家屋が密集していることから地震や火災に脆弱だとしている。そこで防災性・安全性が高く、安心して住み続けられる街作りを目指しており、2棟の高層ビルが建設される予定だ。
26日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、"昭和感"、"ノスタルジックな雰囲気"を愛する紗倉まなが再開発地域の中にある「呑んべ横丁」を取材した。
開店から45年あまり続くお店のママは「やっぱりこのまま残したい」、18年来の常連客は「俺、なくなったら引っ越す」とまで話す。別の店でも「だってもう決まったことだからしょうがない」「寂しいなんてもんじゃないと思う。そのくらい思い入れがある。立石のこのディープ感はピカピカのビルじゃ出ない。やっぱり残してほしいが、しょうがない。新旧交代」などの声が聞こえてきた。
3か月前に駅前から少し離れた場所に移転・再開した居酒屋「人生のスパイス」の店主は「駅前でハシゴしたい方は来なくなった。昔ながらの街並みを残しながらやってくれればいいが、一回全部潰しちゃってからやるので珍しくも何ともなくなる。お客さん減っちゃう。再開発なんてしてほしくない」と訴えていた。
「街ゆく人たちがすごくフレンドリーだった。人見知りであることを忘れるくらい惹きつけられて、気づいたら隣に座って盃を交わしていたというくらい距離感が近かった。一人ひとりが明るくて、楽しく呑んでいる方がたくさんいらっしゃった」と取材を振り返る紗倉。
葛飾区在住で、立石にもよく足を運ぶというフードジャーナリストのはんつ遠藤氏は「外から来る方向けに、地元の方はちょっと混んできたら避ける、というすみ分けみたいなものもある。立石は葛飾の中でも特別な存在だ。高架になれば今の雰囲気が無くなってしまい、必然的にイメージダウンしてしまう」と話す。
全国の横丁を研究している社会学者の新雅史氏は「戦争未亡人たちが戦後に作った店で、工場労働者たちがつながりを求めて呑んでいた。そういう横丁が全国各地にあった。六本木もそういった場所だったが、再開発されて六本木ヒルズ、ミッドタウンができた。ハードルが高そうに思えるかもしれないが、元々は単身者のためにあるようなもの。孤独な人たちが寄り添える場所なのがいいところ。結婚していない方々が家族的なつながりを持てる場所として、本当は横丁的なものが増えないといけない」と話す。
そんな立石の再開発については、ネットでも「街から独自の色や手触りを消しちゃダメだっつーの!もう一度作ろうったって簡単に作れるもんじゃないからね」「残して欲しいという気持ちが強いが、他方で防災面などの配慮など、地元でしっかりと話し合って頂きたいところで」と、様々な意見が飛び交う。
新氏は「北口と南口の両方に再開発の話が出てきているが、それでは立石の街の性格を一変させてしまう。"立石らしさ"を考えると、そこまでやらなくてもいいんじゃないかと思う。街の個性は地権者やお店を持っている人だけでなく、お客さんなども含めて決めていくものだと思う。これだけ反対意見があるので、もう少し議論した方がいいと思う」と指摘。
その上で「東京は木造の建物が多いので、一気にハードを全部改修するのは無理だ。ソフトの力で防災を高めていくしかないしそこで"地域力"みたいなものが問われる。僕が知っている街では、自分の店で火が出た時には隣の店を絶対燃やさないというルールを作っていて、毎日バケツの水を確認している。それができないんだったら再開発しましょうと。だから、古い街ほど空き店舗を出してはいけない。再開発が進む背景には跡継ぎ不足がある。僕の知り合いのお惣菜屋さんも、本当は誰かに継いでもらいたいけど、継ぐ人がいない。血の繋がった人に継いでもらいたいと思いながら高齢化して、そのまま再開発の流れに、というお店が立石にはいくつもある。みんなが立石を守りたいと思うなら、どうやって引き継ぐ仕組みを作っていくかが重要な問題だ」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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