11月3日のK-1(さいたまスーパーアリーナ・コミュニティアリーナ)で最もドラマティックだった試合は、卜部弘嵩vs芦澤竜誠の一戦だろう。
(逆転勝利で復活と王座挑戦をアピールした卜部)
卜部はKrush、K-1の元スーパー・フェザー級(-60kg)チャンピオン。アグレッシブであると同時に技巧や駆け引きにも優れ、弟の功也とともに両イベントを牽引してきた。
K-1王座は功也との兄弟対決に勝って獲得したものだったが、一昨年から昨年にかけて3連敗、ベルトも失っている。今年3月の新王者決定トーナメントでも初戦敗退。今回はフェザー級(-57.5kg)に階級を下げての再出発だ。
そこに立ちはだかったのが、現在絶好調の芦澤竜誠。対戦相手を挑発しまくり、会見で乱闘騒ぎまで起こす“悪童”タイプだがポテンシャルも高い。9月には元Krush王者の小澤海斗からダウンを奪って勝利している。
卜部のことは「認めてる」としながらも「ズルズル落ちていくのは見たくないから俺が終わらせる」と語っていた芦澤。戦前から卜部戦の後を見据えて皇治を挑発してもいた。
試合は卜部が圧力をかけながらも、芦澤が要所でいい攻撃をヒットさせるという展開。攻防のテンポが上がってきた3ラウンドには、芦澤が挑発しながら手足の長さを活かした攻めを見せる。
蹴りを突き刺すとバックブロー、さらに畳み掛けてダウンを奪取。しかしここで、卜部本来の闘志に火がついた。
「ここでいかなかったら男じゃない」
一つ間違えれば“自爆”にもなりかねない反撃だったが、これが功を奏した。芦澤がパンチでフラついたところを見逃さず、ラッシュをかけて2度のダウンを奪う。そしてこの2度目のダウンでレフェリーが試合を止めた。劇的な逆転KOだ。
階級を下げたこともあってかコンディションがよかったという卜部だが、それにしても見事な勝利だった。テレビ番組でタレント・高橋ユウに「公開プロポーズ」したことも話題になった卜部。今回は入籍後の初戦だった。だからこそ話題だけで終わらず、結果を残せたのが大きい。
「(卜部は)しっかり倒しきったんで、凄い選手。試合に対する気持ちから変えていかないといけない」
試合後の芦澤はそう語っている。一方の卜部は芦澤のポテンシャルを称え、「向こうのボスが(梶原)龍児さんなので。試合で語り合えた気がして楽しかった」とも。芦澤を指導する梶原は卜部と元同門の先輩。梶原のラストマッチの相手を務めたのも、自ら立候補した卜部だった。
そして今度は卜部と梶原の愛弟子・芦澤が対戦。鼻っ柱の強い芦澤がファイターとしてもう一段階レベルアップするきっかけを、卜部が作ったとも言える。
「弘嵩選手にはチャンピオンになってほしい。それに俺が挑戦するんで。弘嵩選手が持ってるベルトならほしいです」(芦澤)
もちろん、卜部が狙うのはベルトのみ。試合直後に「(挑戦者は)俺しかいないでしょう」と語り、一夜明け会見でもあらためて挑戦表明。来年3月にはさいたまスーパーアリーナ・メインアリーナでのビッグイベントもあり、王者・村越優汰に挑むタイミングとしては完璧だ。あらためてその底力をアピールした卜部。覚悟の大逆転KOが、ファイター人生を切り拓いた。
文・橋本宗洋