“日本代表の左サイドバック”といえば、真っ先に思い浮かぶのは長友佑都だろう。
2008年に日本代表デビューすると、1対1の強さと無尽蔵のスタミナを武器に不動の地位を築き、南アフリカ、ブラジル、ロシアとW杯3大会連続出場。32歳とベテランの域に入ったものの、4年後のカタール大会にも意欲を燃やしている。
そんな偉大な先輩の牙城を崩そうとしている次世代のサイドバックがいる。
山中亮輔。横浜F・マリノスに所属する25歳だ。初めてA代表に選出された山中は、森保一監督が「ベネズエラ戦から大幅にメンバーを入れ替える」と示唆した11月20日のキルギス代表戦で代表デビューを果たす可能性が高い。
トレードマークは鮮やかに染め抜かれた金髪。7対3にぴっちりと分けたオシャレな髪型は、スタンドからでもひときわ目立つ。
これまで23歳以下の選手による五輪代表には名を連ねてきた山中だったが、25歳になるまでA代表には縁がなかった。そんな山中に転機が訪れたのが2018シーズン。横浜F・マリノスの新監督にオーストラリア人のアンジェ・ポステコグルーが就任したことだった。
オーストラリア代表を率いていたポステコグルー監督は、就任会見で「アタッキングフットボールを構築したい」と宣言。ボールを支配して、90分間を通して攻め続ける。そんな攻撃的スタイルの申し子となったのが山中だった。
3月2日、セレッソ大阪とのJリーグ開幕戦。山中が見せた衝撃的なプレーは、サッカーファンの間で一気に話題になった。
それまでの山中は左足の強烈なキックを武器に、サイドを駆け上がってクロスを上げるプレーを得意としていた。しかし、ポステコグルー監督は山中に新たな役割を与えていた。
攻撃時にはサイドではなく、中央に入り込んでパスを受けて、攻撃の組み立て役となる。さらに、前方にスペースがあれば、果敢に仕掛けてゴールを狙っていく。
通称、「偽サイドバック」。世界一の名将と呼ばれるマンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督が発明した最先端の戦術だ。
前半17分、ペナルティーエリアの手前でパスを受けた山中が左足を振り抜く。地を這うようなミドルシュートは、横浜F・マリノスの2018シーズンの1stゴールとなった。
「今年はサイドバックに求められる役割が普通ではないので、新しいことにチャレンジしています。ああやって中に入っていったからこそ生まれたゴールだし、もっと監督を信じて、しっかり要求に応えたい」
世界的にはトレンドになっている「偽サイドバック」だが、Jリーグでは本格的に導入しているところはなく、山中も当初は難しさを口にしていた。しかし、攻撃的なプレーが大好きな山中には合っていたのだろう。2018シーズンはここまで4ゴール8アシストと、サイドバックとしては異例ともいえるほどゴールに絡んでいる。
そして、今回のキリンチャレンジカップでは肺気胸で離脱中の長友の代役として白羽の矢が立った。森保監督は「攻撃的なもの、左利きを生かしたクロス、攻撃に絡むプレーはスペシャルなものを持っている」と山中の攻撃力を高く評価した。
1月に行われるアジアカップでは、日本に対して守備を固めてくる国が多くなると予想される。ガチガチに引いてくる相手をどうやって崩すのか――。そんな時、「偽サイドバック」として攻撃に絡んでいける山中が貴重なオプションになるのは間違いない。
とはいえ、森保監督から「パフォーマンスに波がある」と言われたように、日本代表でしっかりとプレーできるところを見せつける必要がある。アジアカップ本番までに残されたテストマッチは1試合のみ。山中は“ワンチャン”でアジアカップ行きをつかみとれるのか。
予想サイトの『SUPERCHOICE』では、今回の日本代表戦で「日本代表対キルギス代表に勝利するのは?」、「この試合で日本代表のファーストゴールを決めるのは?」という投票を開催中。日本代表の勝利(1.27倍)に対して、キルギス代表の勝利は8.36倍と大穴になっている(※20日16時時点)。
文・北健一郎(SAL編集部)
写真・JFA/アフロ