6つある将棋の女流タイトルのうち、4つを保持する里見香奈女流四冠が「盤を挟むのが夢のよう」と憧れる人がいる。唯一の「七冠独占」「永世七冠」を達成した羽生善治竜王だ。今や里見女流四冠自体が、女流棋界においては似たような存在になりつつあるが、「羽生先生の対局で私が聞き手をさせていただいた時は、同じ場所にいらっしゃっても自分が強くなれたような気になる」と目を輝かせて話す。最強女流棋士は、そんな夢の対局に思い焦がれている。
兄が指す将棋に興味を持ち、小学生時代から活躍。12歳で女流棋士になると16歳8カ月で初タイトル。18歳7カ月で史上最年少の女流三冠を達成するなど、一気に女流棋界を駆け上がった。その後、男女の区別がないプロ棋士となるべく奨励会に入会し、三段まで昇段。惜しくも四段昇段はならなかったが、勢いと実力を持つ三段リーグでもまれたこともあってか、今年から「女流枠」で復帰した男性棋戦でも結果を残している。
何度となく聞かれているだろう「将棋とは?」という質問に、「勝った時に特に何も思うことはないんですけど」と切り出した後、こう続けた。「負けた時にすごく悔しくて、離れたくなる時もあるんですが、やっぱり時間が経つとすごく将棋に触れたくなるというか…。結局戻ってきてしまう、というのが将棋なのかなと思います。本当に好きなんだなと思いますね」。勝利ではなく敗北をした時ほど、将棋が好きであることを実感する。常勝する者だけが持つ感覚かもしれない。
12月2日からスタートする、超早指し棋戦の女流版「女流AbemaTVトーナメント」では、当然ながら8人の中でも優勝候補の筆頭。全員から狙われる立場になる。「(早指しは)得意ではないですけど、指すのは好きですかね。自信はあまりないです」とほほ笑んだが、未体験の将棋には興味がある。男性棋士による「AbemaTVトーナメント」では聞き手を務め、短時間に全力を出し切り、疲労困憊する棋士たちも目の当たりにした。「私もそういう、ほどよい疲労感っていうのを感じてみたいです」と、話し続けるほどにテンションが上がった様子だ。
この大会で里見女流四冠が楽しみにしているのが、優勝者に与えられるAbemaTVトーナメントへの出場権だ。もともと、フィッシャールールを採用しようと発案したのは羽生竜王。今回の女流トーナメントを勝ち抜き、第2回AbemaTVトーナメントに出場すれば、もしかすると羽生竜王と対局できるかもしれない。そんな想像をするだけで、急に心がときめいた。「私が子どもの時から今まで、ずっとトップで走られている先生。(対局したら)空気感を感じたいと思うんですよね。将棋ももちろんなんですが」と、長きに渡り頂点に君臨し続ける羽生竜王と盤を挟む、その空間に身を置いてみたいのだという。
憧れの対局にたどり着くには、まずこの大会を優勝しなくてはいけない。初戦は女流ではトップクラスの実力を誇る香川愛生女流三段だ。「香川さんは女流の中でも早指しで、自分の好きな手というか、奇抜な手も多いタイプ。なので持ち時間が少ない中で、そういった展開になった時にしっかり対応できるのかなっていうのが、問われると思っています」と、対局のイメージはつかんだ。思いを遂げるために、最強女流棋士は力強く、そしてしなやかに指す。
◆女流AbemaTVトーナメント 持ち時間各7分、1手指すごとに7秒が加算される、チェスでも用いられる「フィッシャールール」を採用した女流棋士による超早指し棋戦。推薦枠の女流棋士、予選を勝ち抜いた女流棋士、計8人がトーナメント形式で戦い、1回の対戦は三番勝負。優勝者は、第1回大会で藤井聡太七段が優勝した持ち時間各5分、1手指すごとに5秒加算の「AbemaTVトーナメント」に、女流枠として出場権を得る。
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