政府は18日、防衛力整備の指針となる「防衛計画の大綱」と、来年度から5年間の「中期防衛力整備計画(中期防)」を閣議決定した。予算は現行の計画から約2兆円増額され、27兆4700億円と過去最高を更新。総額を押し上げたのが、F35Bステルス戦闘機の取得費用や、"空母化"として注目される、いずも型護衛艦の改修費用だ。
岩屋防衛大臣は「今回のいずも型護衛艦の改修は、あくまでも多用途に使うためのもの。今後ともヘリコプターの運用能力、あるいは医療機能、指揮中枢機能、人員収容機能、輸送機能等を備えた多機能の護衛艦として運用して参りたい」とした上で、「STOVL機を搭載できるということになれば、太平洋側の防空体制も強化できると考えている」「例えば、戦闘機に緊急事態が発生した時に近くに飛行場がなければ緊急着陸ができない。洋上のいずも型護衛艦に離発着ができれば、近くに飛行場が存在するのと同じ効果が得られるのではないかというふうに考えている」と説明している。
つまり、改修が実現すれば洋上空港としての機能を持つ"空母"としての運用が可能になり、そこに搭載される予定なのが、短距離で離陸し、垂直に着陸可能(=STOVL)なF35Bということになる。
これに対し、野党からは懸念の声が上がっている。立憲民主党の福山幹事長は「まさに空母を持てないという政府見解を覆そうとしている。専守防衛という日本の安全保障上の国是を逸脱する可能性があることについては非常に問題」と指摘。共産党の小池書記局長は「絶対に許すことができない。トランプの言いなりに最新兵器を"爆買い"するというもの」と批判している。
"空母化"について、元海上自衛隊自衛艦隊司令官の香田洋二氏は「日本は攻撃的な空母を持てないが、敵爆撃機の攻撃から艦隊を守る"防空空母"なら認められる。現在の「いずも」をヘリ空母と捉えるなら、一時的にF35Bを搭載するいずもは防空空母だ」との見解を示している。
■「日米一体化」のシンボル。自衛隊には他にやることがあるのではないか
東京新聞論説兼編集委員の半田滋氏は「今まで自衛隊が持っていなかった垂直離着陸のできるF35Bだけでなく、アメリカの飛行機を載せることもできる。日米一体化と米国製武器の購入のシンボルがいずもの空母化だ」と話す。
「もともと海上自衛隊は将来的に空母を持ってもいいようにと艦艇を作ってきたし、それが最終的なゴールだということは少なくとも海上自衛隊の皆さんは全員知っていたと思う。たとえば90年代には艦橋を右舷に寄せて全通甲板を持った輸送艦『おおすみ』を作ってチャレンジをした。それがうまくいったので、今度は2000年代にいずも型よりも一回り小さい『ひゅうが』を作った。こちらは欠点がいくつか出たので、51m甲板を長くして使い勝手をよくした。これが『いずも』だ。乗員が甲板を歩かなくても移動できる導線も用意されているし、自らを守るミサイルを積んでいない初めての護衛艦。そういう意味で、いずも型護衛艦はアメリカをはじめ世界の空母に似た構造をしている。今の甲板はオスプレイの噴射熱には耐えられるが、F35Bは炎が下に出るので、今のままでは耐えられない。逆に言えば、その程度の補強をすればすぐにでも載せて運用することは可能だろう」。
その上で、半田氏は、空母化の根拠となる説明に対し、次のように疑問を呈する。
「そもそも日米での役割分担があったはず。打撃力は米軍に依存するが、それが敵の潜水艦に攻撃されては元も子もないから、自衛隊は日本周辺を守ることを精一杯やろうということだった。本来そのためにつくったのがいずも。今回の大綱では、"太平洋側からの攻撃に弱い"という趣旨のことが書かれているが、北海道の千歳、青森の三沢、そして日本海側には石川の小松、福岡の築城、宮崎の新田原、沖縄の那覇と、航空自衛隊には広い意味での防空網がすでにある。敵の攻撃に対して非常に脆弱な空母の方がこれよりも頼りになるという話はどこから出るのだろうか。例えばアメリカの原子力空母ロナルド・レーガンが動く時には5~8隻の巡洋艦・駆逐艦、さらに潜水艦が護衛する。自衛隊はアメリカ軍よりも限られた資源しかないのだから、他にやることがあるのではないか」。
また、今後について半田氏は「予算が足りず、掃海艇と護衛艦を一緒にしたような安っぽい船を作ってきた海上自衛隊がこの日に備えてきたことは紛れもない事実。ただ、誰が空母化の言い出しっぺかと言えば、それは自民党のみなさん。いわば政治家が武器を選んで、"これで戦争をしなさい"と言っているようなもの。しかも戦い方はこれから考えていきましょうね、お金もこれから計算しましょうね、という状態。F35Bは岩国基地に20機が置いてあり、佐世保にいる強襲揚陸艦「ワスプ」に載せて使うこともできる。これに加えていずもを組み合わせて、インド太平洋構想に基づいて中国にプレゼンスを示していくこともできる。そう考えると日米一体化のシンボルとして使うのが現実的な方法として出てくると思う」と話した。
■日本が"対中国"のコストを負担させられてしまうのではないか
岡崎研究所研究員の村野将氏は「海上自衛隊が全通甲板を持った護衛艦を作ることにしたのは、ヘリコプターを使って潜水艦を探す対潜哨戒をするためだった。アメリカの空母打撃群は敵基地を攻撃することが主力の任務なので、これは日米共同の中でも非常に重要な役割だ。つまり日本がいずもと対潜ヘリコプター、潜水艦部隊を使ってアメリカの空母の脅威となる敵の潜水艦を捕捉し、いざとなったら撃沈するという役割を担う、盾と矛の役割を分担してきた。ここに"多用途化"という任務を付け足すことで、今まで担っていた対潜哨戒能力がどうなるのかがあまり説明されていない。果たしてF35Bと組んで空母のような能力を持たせることで、一体どういう局面でそれを使っていこうとしているのか。そして総合的に考えて日本の安全保障にプラスになるのか。長期的な予算の面も考えて、持続可能性の面も含めて、平時のプレゼンスと有事の脆弱性のバランスの明確化がまだされていないという印象を受けた」と指摘する。
「去年から今年にかけて、いずも型護衛艦が東南アジア諸国を親善訪問した。背景には南シナ海のシーレーンに日本が関心を持っているという意思を示し、中国に対する牽制をする意味があった。そこに航空機の運用能力が加わることをアピールするのには意味がある。また、確かに南西諸島方面からグアム・ハワイ方面に向かう中国軍機の攻撃からアメリカの空母を守ることを想定すると、茨城の百里基地からでは遠い。そこで太平洋から離陸させられる艦船や航空戦力が必要だというのはわかる。ただ、そのためにこれだけのコストをかける必要があるかどうかだ。相手方からすれば空母を撃沈できれば大きな戦果になる一方、それを守るためには大きなコストがかかる。つまり、いずもを守るためのイージス艦が必要にさらに必要になる。平時のプレゼンスと有事の脆弱性をどうバランスさせるかという話だし、中国に対していかに優位に戦えるドメインを選択し、それをいかに低コストでやっていくかが重要なのに、日本がそのコストを負担させられてしまうのではないかという懸念がある」。
その上で村野氏は「これまで日本政府は大陸間弾道ミサイル、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母の保有は許されないとの見解を出してきた。しかし本当に安全保障環境が変わり、軍事的な要請上必要なになったのであれば、必要最小限度の保有すべき装備体系が変わったと訴えた正面から議論した方がいい」との考えを示し、「今まで十分に行われてこなかった、いわゆる"新領域"と言われる宇宙、サイバー、そして電磁波領域に対する投資を確実に行うとしていることも含め、課題が網羅されたのはいいことだと思う。他方で、限りある予算の中で優先順位を付けていくことが重要なポイント。満遍なく何でもやるというのは戦略ではない。確かに"優先事項"ということでのポイント出しはあるが、全部に対して予算を付けるというふうに読める。安全保障戦略を考える文脈から、もう少し明確にしても良かったと思う。大綱の作成にあたっては有識者会議による検討があるが、アメリカのように外部の視点による事後的なレビューも必要だと思う」と訴えた。
反発も広がる中、来年には実写映画『空母いぶき』が公開を控える。描かれるのは、日本の最南端沖で起こった国籍不明の軍事勢力に対し、自衛隊初の空母「いぶき」を中心とする護衛隊群が立ち向かう様子だ。2014年に連載がスタートした、かわぐちかいじ氏による同名の原作漫画は、その未来を予言するような内容が注目され、現在までに累計発行部数400万部を超える人気作品となっている。第1巻は、「世界は再び『空母の時代』に突入しつつある」という言葉から始まる。現実世界も、空母の時代に突入しつつあるのだろうか。
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