“史上最強”は誰でも得られる称号ではない。とにかく強くなければならない。時に獰猛で、時にしなやかで、誰からも畏れられる存在。史上最強とは、アスリートにとって最高の賛辞に違いない。
日本フットサルにおける史上最強とは誰か?
それはこの男以外に考えられない。ペスカドーラ町田のエース・森岡薫だ。
相手が強ければ強いほど燃える男
Fリーグの11年の歴史において、最優秀選手賞4回、得点王4回、ベスト5は6回。もちろん最多記録だ。王者・名古屋オーシャンズの絶対的なエースとして9年間プレーして、2016シーズンからはその王者を脅かすライバル・町田へと移籍。2012年にペルーから日本国籍に帰化してからは、日本代表のエースとしても君臨してきた。日本フットサルのアイコンであり「フットサルのことはよく知らないけど、あの金髪の人、森岡薫は知ってる」という人も多い。彼はこれまで、名実ともに“キング・オブ・Fリーグ”だった。
クリスティアーノ・ロナウドやリオネル・メッシは、いつでもチームを救うゴールを決めてきた。それと同じように、前線でプレーする森岡薫の最大の魅力は得点力と勝負強さである。圧倒的なオーラをまといながら、チームが不利に立たされていても“何かしてくれるはず”という期待感を抱かせる存在だ。
しかし今、森岡薫のポジションに陰りが見え始めている。
今シーズンは主将として開幕を迎えたが、チームの成績不振の責任を背負う形で、キャプテンマークをダニエル・サカイに託した。「本来のプレーをしたい」というのが、森岡の心底の思いだった。
それ以降も、森岡がかつての輝きを取り戻したとはいえない。ここまで21試合に出場して13得点。1位と15点差の14位に甘んじている。途中ケガで出遅れたことを考えても、十分な数字とはいえないだろう。
39歳。普通に考えれば、チームの大エースでい続けることは難しい。周囲もそれほど期待しなくなるだろう。しかし、森岡は普通じゃない。これまで数えきれないほどのタイトルを獲得して、何度もチームのピンチを救い、ピッチでいつでも最大級の注目を集めてきた。周囲はやはり期待してしまう。
今シーズンのリーグ戦は残り7試合。森岡は最後にどんな輝きを放つのか――。
彼の活躍は、イコールでチームの救世主となることを意味する。町田は現在、3位以内に与えられるプレーオフ圏内に入れず4位。直近の5試合で4連続引き分けを含む未勝利で順位を落とし、3位の立川・府中アスレティックFCとは勝ち点で7ポイントも離されてしまった。この窮地こそ、森岡の出番だろう。
もともと、相手が強ければ強いほど燃え、ピンチであればあるほどキレが増すタイプである。それは、2016シーズンに名古屋から移籍して以来、対名古屋戦で見せてきた勝負強さが物語っている。
2016シーズンはプレーオフを含めて3試合、2017シーズンはプレーオフを含めて5試合、2018シーズンはカップ戦とリーグ戦で2試合、合計10試合、名古屋と相対してきた。3勝1分6敗とチームとしては分が悪いものの、森岡自身は1回のハットトリックを含む9得点を挙げて、古巣に食らいついてきたのだ。
26日に、延期となっていた今シーズン2回目の名古屋との対戦と、1月に3回目の対戦がある。2位・シュライカー大阪との一戦もある。町田の逆転プレーオフは、森岡にかかっているといっても過言ではない。
Fリーグ史上最強の男・森岡薫のプライドを懸けた最後の戦いが、幕を開ける。
文・本田好伸(SAL編集部)
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