東京地検特捜部は11日、会社に不正な支出をさせるなどした特別背任の罪と、2018年3月期までの、直近3年分の報酬を有価証券報告書に少なく記載した金融商品取引法違反の罪で、勾留期限を迎えたカルロス・ゴーン被告を追起訴した。
ゴーン被告の弁護人で、元東京地検特捜部長の大鶴基成弁護士は８日の記者会見で「刑事弁護人として我々が感じているのは、もう少し慎重な捜査をしてもらいたい。よく証拠を見て捜査を進めてもらいたかったということだ」と訴え、特捜部との対決姿勢を見せている。しかし、その後も新たな疑惑が次々に浮上している。
日産関係者によると、ゴーン被告は会長を務めていた日産と三菱自動車とは別に2社の統合会社から去年4月から11月の間に約10億円の不透明な報酬を受け取っていた。統合会社からの報酬は開示されておらず、日産の追加社内調査で明らかになった。その舞台となっているのが中東だ。ゴーン被告は個人的な契約の日産への付け替えと、2009年以降、子会社を通じてサウジアラビアの資産家であるハリド・ジュファリ氏に日産の機密費1470万ドルを支払わせるなどして、日産に損害を与えた疑いが持たれている。東京地検特捜部はこの1470万ドルがゴーン被告からの謝礼だとみているが、関係者への取材では、逮捕容疑とは別に2008年にもジュファリ氏に日産から３億円相当が支払われていたという。さらに、中東オマーンにある会社にも機密費35億円相当が支出され、ゴーン被告はこの会社の幹部から約16億円相当を受け取っていた可能性があるという。
ジュファリ氏に対価を支払った理由について、ゴーン被告は８日、東京地裁で行われた勾留理由を明らかにする手続きで「販売代理店の再編成を支援」「競合他社に競り勝てるようにしてくれた」「自動車工場を建設できるように支援」などといった点を挙げ、「私は無実だ。私が捜査機関からかけられている容疑がいわれのないものであることを明らかにしたい」と強調している。
■双方に弱点を抱えたままの起訴
11日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した元検事の高井康行弁護士は「検察側も弁護側も、やや弱点を抱えたまま起訴を迎えているなと思う」と話す。
「ゴーンさんの弁解だが、私が弁護人だったら、もっと具体的に説明しろと言う。ここでジュファリさんにこういう動きをしてもらって、こういう効果が発生し、このくらいの価値が生まれたんだと、だからあれだけの報酬を払ったんだ、と具体的に言わなければ説得力がない。疑問なのは、ゴーンさんの説明に見合うような、ジュファリさんの詳細な宣誓供述書があれば、弁護側にとっては極めて有利になるのに、なぜ取ってこなかったのかということだ。ゴーンさんの言っていることとジュファリさんが認識していることがずれているため、協力するのを拒絶しているのかもしれない。一方、検察側もジュファリさんの供述を取っていないので、その点では捜査を詰めきった上での起訴とは言えないと思う。検察にはその能力もあると思うが、ただ相手が中東の国なので、どこまで協力してくれるのかという問題もある。キーパーソンが向こうの当局の出頭にもなかなか応じないとか、応じてもなかなかと話してくれないとなると、全容解明することは難しくなる」。
ゴーン被告の弁護側は保釈を東京地裁に請求しており、その判断は15日以降に示されるとみられている。高井弁護士は「ケリーさんが早期に保釈されたのは、事実関係そのものについての争いはほとんどなく、支払いが確定しているかいないかという評価の問題が争点だからだろう。ゴーンさんの場合も金商法違反だけならば早期の保釈になったかもしれないが、特別背任容疑のうち、ジュファリさんへの資金提供については事実関係を争っており、ジュファリさんと接触するなど罪証隠滅の恐れがあるため保釈は認められないのだと思う。一番早くて公判前整理手続で争点が明確化され、かつ双方の立証計画が明らかになった時点での保釈で、それがダメであれば、第１回公判が終了してから。それもダメだと、検察側の立証が全部終わった段階。そこまでくれば必ず保釈にはなる。今後、仮に追起訴がないとすると、第１回の公判前整理手続は早ければ２月中、遅くても３月には始まるし、第１回公判は大体９月か10月。となると、早ければ梅雨時から夏には保釈になるだろう。ただし、ゴーンさんは特別な立場の人だということを考えれば、特例で早めの保釈を許可する可能性もゼロではない」と説明した。
■日産には株主代表訴訟の可能性も
一方、日産は「本日、元代表取締役会長カルロス・ゴーンが会社法違反（特別背任罪）により起訴されました。これに先立ち、当社は、カルロス・ゴーン元会長について、同法違反で東京地方検察庁に刑事告訴いたしました」とのコメントを出している。西川廣人社長は11日、「調査はまだ続いている。三菱さんとの共同調査とか、それからルノーとのジョイントベンチャーの調査をこれからやるということになる」と話している。
ゴーン被告を取材した経験もある経済ジャーナリストの井上久男氏は「日産はまだ社内調査をしているが、このオマーンの件は特捜部の押収した資料の中から出てきたようだ。オマーンには日産の工場を作るという話も全然なかったし、サウジアラビアよりも大きな市場ではないので、なぜ35億も払う必要があったのか。そこが非常に不思議だ。あくまでも憶測だが、キックバックが当初から狙いだったと見られても仕方がないと思う」と見方を示した。
日産はすでに釈放されているグレッグ・ケリー被告とともに金融商品取引法違反の罪で法人として起訴されている。その日産は９日、電気自動車「リーフ」の新型モデルの発表会を１か月以上遅れて行った。足元では販売数の減少など悪影響が出始めており、問題が長期化することによる懸念も生じている。
井上氏は「ゴーン被告の特別背任について、弁護側は付け替えることを取締役会で決議したと言っている。会社が認めていたという形になっている以上、他の取締役の責任を株主代表訴訟で追及してくる可能性があると思う。また、オマーンの事件が事実であれば、特捜部が４回目の逮捕に踏み切る可能性もあると思う」と指摘した。
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