「剃る自分が許せないというか、そういう思いで剃らずに頑張ってきました」
ヒゲを理由に不当に低い人事評価を受けたとして、大阪メトロ運転士の河野英司さんら2人が2016年に大阪市に慰謝料などを求め提訴した件で16日、その判決が下された。
大阪市交通局では、橋下徹市長時代の2012年に「身だしなみルール」を導入。この中で、ヒゲは「伸ばさず綺麗に剃ること」と禁止された。2人はこれに従わなかったため評価を下げられ、手当ても減らされたという。
「選択の自由として、ヒゲを生やす自由を侵害されない職業を選ぶことは可能」「家族も守らなあかんやん。お前守ろ思たらもうヒゲ剃るしかないぞ」と上司に言われたという原告側の男性。河野さんは会見で「自分の個性を出す表現だと思いますし、数十年(ヒゲを)生やしていて、剃ったら自分ではなくなってしまう」と話した。
大阪地裁は労働者へのヒゲの規律は私生活にも影響が及びうるとして、その形状を問わず一切禁止とすることや人事上の不利益処分の対象とすることは「合理的な限度を超える」と指摘。大阪市に対し、原告2人に慰謝料などあわせて44万円を支払うことを命じた。一方で、「ひげは清潔感を欠くとか威圧的印象を与えるなど、社会に広く肯定的に受け入れられているとは言えない」「公務員の服務を規律するためとして一定の必要性・合理性がある」と、規律そのものは違法ではないとしている。ちなみに市営地下鉄は去年4月に民営化され、ひげを禁止する基準はなくなり、2人は現在ひげを生やして勤務している。
職場での「ヒゲ禁止」について、街でサラリーマンの男性に聞いてみると次のような声があがる。
「(禁止は)個人の自由なのでやめてほしい。(会社からは)きれいにしていたらいいよと」(30代・会計事務所勤務/ヒゲあり)
「アラブの人と交渉するときは、むしろ(ヒゲを)生やしていたほうがよかった」(50代・金融職/ヒゲあり)
「(評価下がるなら)切りますね」(40代・アパレル/ヒゲあり)
「難しいけど、自分がそれに反発しているなら『辞めればいいじゃん』と思う。会社だから」(20代・営業職/ヒゲなし)
今回の判決について、戸籍上は男性の女性弁護士・仲岡しゅん氏は「『身だしなみ基準を設けるだけならまだしも、職務命令で一切禁止にするとか人事で不利益に扱うのはやり過ぎ』という妥当な判断。極端な話『爪の色はこうじゃないと減点』とか『すっぴんだと降格』とか、どんどん没個性でつまらない管理社会になりかねない。ヒゲくらい生やしてもいいのではないか。もう少しおおらかな社会であるべきだと思う」との見方を示す。
また、17日放送のAbemaTV『けやきヒルズ』では今回の判決とは別に、“個性の通し方”についてコメンテーターや慶応大学の特任准教授などを務める一方、茶髪にネイルと個性的なスタイルの若新雄純氏が持論を展開した。
■「対立しても基準を拡大することにはならない」
若新氏は個性の通し方について、「基準からずれるけど今の組織の中で個性的でありたいという人は、めんどくさくても工夫を止めてはいけない。受け入れてもらうためには、対立するのではなく粘り強く交渉する必要がある」「基準から悪気なく外れた時に、『不利益を被った』『迫害された』と対立しても基準を拡大することにはならなくて、その基準を拡げる交渉が大事だと思う」と語る。
また自身の個性的なスタイルについては直感的に「いいな」と思うものを選んできた結果だとし、「『そのままだとまともな仕事につけない』と言われた時に、ケンカしてでもこのままいこうではなく、その社会の中でどうすれば自分の存在が認めてもらえるのかを考えた。うまく交渉しながら、工夫して生きていくということを楽しんできたような感じ。世の中からめんどくさく思われることは織り込み済みで、髪の事をネタにされてもあんなに神妙な顔にはならないと思う」と自身の経験から振り返った。
それを踏まえ、若新氏は「規則がある前からヒゲを伸ばしていたのに規則が後からできて、さらに人事評価を下げられて給料や報酬に影響が出たということで、対立的で強行的な手段になってしまったのだと思う。そういう意味では、基準やそこから外れた個性に対して柔軟に話し合う環境が醸成されていないと思う。基準から外れた時に選択したり交渉したりするのは面倒で大変なわけだが、それは個性が自分のアイデンティティーだと主張する人がかけるべき手間。それが嫌なら基準通りにやるか、迫害されない場を選ぶべきだと思う」との見方を示した。
一方で、テレビ朝日の大木優紀アナウンサーは「自分は基準の中で生きてきた」という立場から「そこまでヒゲを生やしたい気持ち、髪を染めたいという気持ちがわからない」とコメント。これに対し若新氏は「そういうことが大事ではない人からすると、本当にくだらないことだと思う。だからこそ、そのくだらないことにこだわっている側が丁寧に説明しないと理解されるわけがない。ずれた自分を認めてほしいというのであれば、丁寧な交渉をめんどくさがってはいけないと思う」と述べた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)
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