22日、厚労省が勤労統計の不正について幹部らにヒアリング調査を行った結果を公表。これを受け、24日には国会で閉会中審査が行われた。
審議では、外部の有識者が行っていたと思われていたヒアリングの一部を厚労省職員が行っていたことが判明、さらに根本厚労相が簡単な数字の確認でも事務方とたびたび協議し、審議は何度もストップした。根本厚労相は翌日、調査は十分であったとしながらも、弁護士や有識者による特別監察委員による追加のヒアリングを行う方針を発表した。こうした厚労省の対応に、自民党の小泉進次郎厚生労働部会長は「役所のうろたえぶり、右往左往するあの姿を見ているだけで、国民の皆さんは大きく不安を持つのではないかと。私も、大臣をサポートする体制も含めて大きな不安を覚える」と指摘した。
厚生労働省による勤労統計不正に端を発した、霞が関の統計をめぐる問題は、更に拡大している。総務省が全56種類の「基幹統計」を点検した結果、財務省、国土交通省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、農林水産省、そして総務省自身と、合わせて22の統計で記載ミスや抽出方法に問題があるなど、不適切な事案があったと発表した。総務省はいずれも国民生活に直接影響するものではないとしているが、国の舵取りの基準ともなる基幹統計は五里霧中の状況だ。
25日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、統計業務に携わった経験もある2人の官僚OBを招き、厚生労働省の統計不正の背景にある問題点を探った。
■キャリア官僚は人の人生を何だと思っているのか
元経産官僚でコンサルタントの宇佐美典也氏は「厚労省のキャリア官僚に倫理感の欠如があったせいだ」と断言する。
「報告書を読むと、修正するタイミングが何度もあったことが分かる。"直さないといけないと思ったが、委員会や審議会にかけると問題になるから上げられなかった"とか、"予算を増やして抜本的に問題解決できないか"と予算の担当に提案した管理職が"予算の作業が面倒くさくなるからそれは止めてくれ"と言われて引き下がったといったことが書いてある。そんなめちゃくちゃなことあるか、と思った。ここからは推測になるが、統計情報部の予算を直すと他部署の予算にも響くので、その作業が面倒くさくなると言われて、引き下がったんだと思う。客観的なものでないといけない統計について、政治的な事情で"このままでいい"と判断するというのは、一番やってはいけないこと。この人たちの倫理観は一体どうなっているんだろう。元役人なので役人の悪口はあまり言いたくないが、これは喝だ」。
さらに宇佐美氏は「統計の部署は、他の部局ではないほどキャリアとノンキャリアが分断されている」と指摘する。
「報告書を読んでいるだけで、統計に思い入れのあるノンキャリア職員の姿が思い浮かんだ。キャリアが出世して事務次官を目指すのに対し、彼らが目指すのは統計の世界に貢献した人がもらえる大内賞という名誉だ。何十年もの積み重ねに対し、退職後に認められるということ。しかし、今回のことに巻き込まれた人は全員もらえないだろう。それに対して、キャリアの態度はお気楽すぎる。腰掛けで不正をし、国の統計データをねじ曲げて、この期に及んで黙っている。人の人生を何だと思っているのか。ヒアリングで、あるキャリアは"気づいていた"と言っているが、それで組織的な隠蔽はなかったということがあるだろうか。急遽、経産省で統計をやっていたOBと3人で話したら、やはり"こんなことはあり得ない"ということで一致した。やはり省庁ぐるみの隠蔽があったと確信しているし、何か政治的な力、闇が絶対にあるはずだ。ここれはもう一度、国会で揉んでほしい」
菅官房長官は25日、基幹統計の点検結果について、「多くが単純ミス」「実際の調査方法や復元推計の実施状況に問題が見られた事案はない」「今回の毎月勤労統計の修正によって景気判断が変わることはない」との認識を示し、「統計業務に従事する職員数について、政府としても統計の重要性を認識しており、平成29年度以降、増員しているところだ。再発防止、統計の精度向上のため、政府としてもさらに必要となるリソースの確保に取り組んでいきたい」とコメントしている。
宇佐美氏は「本来、各省内の事情に左右されないよう、第三者として総務省の統計委員会が見張っていて、問題があったら是正しなければならない。それをやってこなかった総務省も共犯だ。"我々は被害者だ。これから不正を調べる"みたいな顔をして逃げ切ろうとしているが、違うだろう。総務省が処分されないことこそ、政治家が統計を分かっていないという証拠だ」と厳しく批判する。
「しかも菅官房長官は、統計法の改正が検討されていた時期に総務大臣だったのに、他人事過ぎる。"お前の責任もあるんだぞ"と思う。当時、統計をやっている部署とそれを監査する部署が両方とも総務省にあるのはまずいので、内閣府に置いて、独立した強い権限をあたえ、どの省庁にも気兼ねなく指摘できるようにすべきだと訴えた。50年ぶりの改正だったので、どの省庁もキャリアとノンキャリアが壁を越えて、夜を徹して統計のあるべき姿を議論して提案した。それでも総務省は"ちゃんとやる"と主張した。しかし結局、そうはならなかった。怒りが湧いてくる。今回わかった22の統計も、大部分はくだらない不正だし、受け取る側の総務省も分かるはず。それなのに、何で今まで分からなかったのか。統計制度の改革を議論すべきだ」。
■「現場にいた人間として、組織ぐるみの隠蔽はなかったと信じたい」
厚生労働省OBで統計業務にも携わっていた田岡春幸氏は、現場の職員目線から「凡ミスによる隠蔽」と推測する。
「本来、日本の基幹統計はこの問題が起こる前は世界的にも信頼性が担保されていた。今回はそれを揺るがす大事件だと思う。隣の課とは言え、統計情報部にいた者としてショックというか、自分の仕事が否定されているような気がする。"統計表1枚、1文を変えるだけでもちゃんと総務省と協議をしてやりなさい"と先輩、上司にさんざん言われてきた。だから統計法を職員が知らないということはあり得ないという前提で考えると、抽出データをパソコンでいじっている際に復元などを間違ってしまって、そのままいってしまったのかなというふうに考えたい。もし隠蔽で省庁ぐるみということになると統計法違反の事例になる。現場にいた人間として、それはなかったと信じたい。ただ、ヒアリングは厚生労働審議会の先生方が本来すべきだった」。
その上で、「役所はどうしても減点主義なところがあるので、一度間違いをしてしまうと、上司も含めて出世に影響してくる。それで少しのミスを隠そう隠そうとする。加えて、言い方は悪いが労働統計の部署は厚労省では閑職的な扱いになっているので、その課長クラス(キャリア)の方々も統計にあまり興味がなかったり、"腰掛け"というか、やる気がなかったという実態もないことはない。お仕えしていて、"本当に興味がないんだな"という方が何人かいたことは事実だ。だから、無能な幹部が揃っていたという可能性もあるかもしれない」と話した。
また、統計に関わる職員の数が少なかったのではないかという見方について、宇佐美氏は「足りないのは政府の統計職員ではなくて、現場の調査員だ。統計調査員はボランティアでやっている。また、専門家が高齢になり過ぎているという問題もある。若い人がやって、中堅がチェックするという仕組みが機能しにくくなってくる」と指摘。田岡氏は「少ないといえば少ないが、総務省が統計調査員の育成をやってこなかったことに尽きると思う。もう少し現場の方を見ていただきたいと思う」と訴えた。
今回の厚生労働省の不正の結果、延べ2015万人に約564億円の過少給付が発生した。また、過去の景気指数の誤りが発覚し、政府機関に対する信頼感も低下し ている。海外に目を向ければ、2009年のギリシャ危機では、財政赤字に関する経済統計の虚偽が発覚、投資家の信頼を失い、政府が資金繰りに行き詰まる銀行を一時休業させ、ATMでお金が引き出せなくなるなどの大混乱が起こった。
宇佐美氏は「各省庁の重要な統計は株価に直結する。私は経済産業省にいた時に鉱工業指数を公表していたが、これが株価に与える影響が大きいので、発表時期になるとゴミ箱を漁りに来る人がいるとまで言われていた」、田岡氏も「厚生労働省は各事業所の賃金の算定基準にもなっていたので、生活にも直結すると思う」とし、改めて正しい統計の重要性を訴えていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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