約20兆円ともいわれるパチンコ産業で、ダイナム、マルハンなどパチンコホール大手5社がタッグを組み、依存症対策に乗り出した。 ダイナムの藤本達司社長は「遊戯を提供する立場として、真に依存対策となる予防のためのアプローチに注力し、安心して楽しめるパチンコを提供していく」と話し、今後は予防のための勉強会を開催、その様子をYouTubeに公開するなどの啓発活動を行っていくという。
背景にあるとみられているのが、去年成立した、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法と、それに伴う依存症対策への意識の高まりだ。2017年に厚生労働省が発表したデータによると、全国で約320万人がパチンコを含むギャンブル依存の疑いがあると言われている。主な症状としては、次のようなものが挙げられる。
- やめたくてもやめられない
- したいという衝動を抑えられない
- ギャンブルが原因で借金など社会生活上の問題が生じている
- 身体的、心理的、社会的信用が害される
- 苦痛の気分のときにギャンブルをしたくなる
- ギャンブルでの負けをギャンブルで取り戻そうとする
- 数万の負けは負けと思わない
進化するパチンコ台に煽られる射幸心。お金をつぎ込みすぎ生活が破綻してしまう人の問題、親などが幼い子を車や自宅に放置したまま長時間遊び、熱中症などで死亡させる問題などもたびたび報じられてきた。
会見でダイナムの藤本社長は「(パチンコが)根付いていくためには、この依存・のめり込みの問題については避けて通れない問題だとは自覚している。前向きに考えていきたい」と話していた。
依存症対策の専門家や脳科学者によると、パチンコに当たると脳内に快楽物質が分泌され、一度でも当たるとその快感を忘れられなくなり、何度も足を運んでしまうようになるという。また、依存状態になるとパチンコを連想させる何かを見たり聞いたりするだけで脳が強く反応し、強い欲求に襲われるのだという。
毎週末、"軍資金は10万円まで"と決めてパチンコに通うというKさんは「朝から並んで閉店までやる時もあるが、1回も当たらないということはなかなかない。当たりを引いて盛り上がって続けてしまう。その繰り返し。ユーザーを楽しませるためにメーカーも力を入れていて、当たりを引くと独特の音が鳴ったり、ボタンがバイブ機能を備えていて大当たりを引くとものすごい振動がきたりして、それが忘れられなくなる。パチンコ店にはもう行かないと決めても、街中でドアがたまたま開いたところを通りがかった時に、当たりの音を聞いてしまうとつい覗いてしまう本当はやめたいが、やめられない」と話す。
また、自身もパチンコ依存になっていた経験があるというお笑い芸人の古坂大魔王は「どんなに頑張っても1日1万円しか稼げないような時期、1日で5万円稼げてしまうこともあるので、つい行ってしまっていた。1000円が25万円になったこともある。常に当たり続ける時期、毎日勝つ時期があってすごく楽しい。公営ギャンブルは遠いが、パチンコはどの駅前にもあって行きやすい」と振り返った。
パチンコ雑誌『パチンコ攻略マガジン』を編集しているパチマガ攻略軍団軍団長・ドテチン氏は「座っているだけで上がり下がりするので、勝ってしまうと簡単だと思ってしまう。実際はそうではなく、どのギャンブルも胴元が勝つ仕組みになっているので、その辺りは理解しないといけないし、他の人に迷惑がかからない範囲であればいいと思う。また、パチンコは1日やっていれば大抵は大当たりするので、どんなに負けても1日20万円以上は負けない。逆に言えば、最悪20万円の損失で済む。一方、競馬など公営ギャンブルは上限がない。ギャンブル依存の問題の話になるといつもパチンコが槍玉に挙げられるが、この問題はゲームなど、さまざまな業界にある」と指摘する。
週刊東洋経済編集長の山田俊浩氏は「つぎ込んだお金は"サンクコスト"=沈んだお金と言われるもので、本来は取り返そうと思ってはいけないはずなのに、"これだけ時間かけたんだから、取り返せるまでやろう。いつか得するはずだ"と感じる。そういう人間の心理をうまく使っているので、素人ではうまく抜けられない」、慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「スマホゲームのガチャの仕組みも、何回もつぎ込んでいるとたまにレアで人に自慢できるアイテムがきたり、レベルアップする。スマホゲームが儲かっているのは、パチンコと同じような心理を徹底的に研究している」と話した。
そんな中、今回発表されたパチンコホール大手5社による依存症対策では「依存症になった人ではなく、なるかもしれない人へのケア」「リスクがあることをきちんと注意喚起」「ホールでサポーターによる声かけ」「収入が低い人向けへの福祉対策など(ホールに求人広告などのハローワーク機能)」といったものがあがっている。
ドテチン氏は「パチンコ台についても、昔に比べ出玉が抑えられたりと、マイルドになってきていて、業界的には射幸性をどんどん下げていこうという流れになっているし、依存症対策も進められていた。例えばパチンコ店で配布されているパンフレットの裏にはリカバリーサポート・ネットワークの宣伝を入れなければいけないだといった取り組みがされている」と説明する。
参加人口と売上高は年々下がっているパチンコ。ドテチン氏は「仕方がない。ユーザーのニーズは射幸性だし、メーカーもホールもそういう台を設置することによってユーザーが集めるというのが続いていたが、近年は射幸性の低い台が多くなった。最盛期は30兆円産業だったが、どんどん売上も下がってきている。スマホゲームなど、遊びの手段も多様化していて、新規ユーザーはかなり減っている」と説明した。
依存症対策に乗り出したパチンコ業界は今後どうなっていくのだろうか。














