11日、"建国を偲び、国を愛する心を養う"建国記念の日を迎え、都内で行われた式典では、自民党の萩生田光一衆議院議員が「これまで幾多の困難を乗り越え、今日の繁栄の礎を築き上げてきた先人の偉業と弛まぬ努力に改めて敬意と感謝を表したいと思う」と挨拶した。
平成最後の建国記念の日、AbemaTV『AbemaPrime』では、日本人が考えなくてはならない数多くの問題の中から、朽ちていく陸軍墓地について考えた。
■「微力ながら追悼の場所を守る活動の力になれれば」
大阪市天王寺区にある、真田山陸軍墓地。およそ140年前の1871年、国内初の「陸軍埋葬地」として設置され、西南戦争から太平洋戦争までの戦死者が眠っている。墓石の数はおよそ5100基と、現存する陸軍墓地の中でも全国最大規模とみられている。しかし長い時を経て、墓石にはひびが入っているものや表面が剥離しているもの、さらには倒壊しているもの少なくない。
大学時代に研究の一環でこの地を調査して以来、「微力ながら追悼の場所を守る活動の力になれれば」と、企業で働きながら墓地の維持に努めてきたのが、「真田山陸軍墓地維持会」の学芸員・永田綾奈さん(29)だ。
遺族の高齢化も進み、無縁仏も増加。終戦から2年で発足した維持会も、今は有志によって運営されている。「私が存じ上げている遺族は10~20組以下。遠方から来られる方もいるが、ご高齢になるとここまで来るのも大変なので、維持会に任せると言われる方もいらっしゃる。普段は参拝される方もほとんど見かけることはない。地域の人たちあまり存在をご存知なく、説明もないので素通りしてしまう。普段は小さな通用門から出入りする状態」。番組にも、視聴者から「40年以上前の話なのですが、真田山陸軍墓地は私たちの遊び場、秘密基地でした。当時もお参りしている人や花・お供えがあるのを見たことはありません」というコメントが寄せられた。
これまで維持会ではボランティアの協力を得ながら清掃活動を続け、寄付金をもとに年間50基ほどの改修に努めてきた。しかし状況を抜本的に改善するまでには至っていない。「やはり数が多いのと、劣化のスピードも速いので追いつかない。中には墓らしい状態で立っていないひどい状態のものもある」。
永田さんによると、昨年9月に大阪地方を襲った台風21号の風によって周囲の木々がなぎ倒され、55基が倒壊した。また、戦時中の金属供出のため、木材で建設された納骨堂も屋根が歪んで瓦は落ち、雨漏りをしている状態。地震が来れば倒壊してしまう可能性があるという。「地震が起きた時に骨壷が落ちてしまわないよう、ベニヤ板を張らせて頂いている」。
荒廃が進んでいるのは真田山に限らない。かつて全国各地に作られ、終戦時には80か所以上が存在した陸軍墓地だが、いずれも維持・管理の問題に直面、現在その数は44か所に減少したとみられている。2005年には震度6弱を記録した福岡県西方沖地震よって、福岡市にある福岡陸軍墓地の墓が横ずれやひび割れ、内部の骨壷が散乱するなどの被害を受けている。
しかし国からの補修費は全てまとめて年間300万円程度と、"雀の涙"にもならない金額だ。それでも真田山の問題が全国的に報じられたこともあり、財務省は今年に入り「補修費」として5年間で5億円程度の予算を計上、新年度予算案にも組み入れる方針を発表した。しかし京都造形芸術大学の伊達仁美教授の試算によれば、専門機関による修理には1基あたり約20万円(人件費含む)がかかるという。劣化が著しい約900基を全て直すとなれば、真田山陸軍墓地だけで約1億8000万円がかかる計算だ。
それでも永田さんは「維持会の発足当時から行政が関わって維持活動をして欲しいという考えだったが、台風の被害が大きかったからこそ注目を浴びたというのもある。今までゼロだったので一歩前進だ。この5億円が足りる、足りないというよりも、私たちとしてはこの予算が続いていくかどうかが大切だ。公的な機関が責任を持って永続的に予算を投じていかないと、維持・存続というのは難しい。国のために亡くなった方に敬意を表そうとおっしゃっている方は、ぜひこの活動に賛成して頂きたい。"目で見てわかる歴史"だと思うので、これだけの人が亡くなったんだということを見て実感して欲しいと思う」と話す。
また、維持会の副理事長を務める花畑暢夫氏も「真田山陸軍墓地に対してどれだけの補修費を頂けるかはわからないが、その中で改修等の費用に順次充てさせて頂けたらありがたい。維持会では墓地のことを知って頂くことによって、二度と戦争をしない、平和な日本になってほしいという願いを、将来の若い人たちにも伝えていけたら考えている」と訴えた。
■”戦争の美化”や”戦争の肯定”につながるのを避ける空気も?
日本の場合、靖国神社や千鳥ヶ淵戦没者墓苑に焦点が当たることは多いが、世界で軍用墓はどのように扱われているのだろうか。アメリカの「アーリントン国立墓地」には主に独立戦争からイラク戦争までに亡くなった兵士が、ドイツの「ノイエ・ヴァッヘ国立中央戦没者追悼所」には主に第1次・第2次世界大戦の犠牲者(軍人・民間人)が、そして韓国の「国立ソウル顕忠院」には主に植民地時代の抗日運動から現在までの犠牲者(軍人・民間人)が眠っている。
埼玉大学の一ノ瀬俊也教授(日本近現代史)は日本の陸軍墓地について「墓地というのはご遺体などが埋められている慰霊の施設で、宗教施設である靖国神社は位置付けとしても異なる。分骨という場合もあるとは思うが、真田山陸軍墓地であれば基本的には大阪にゆかりのある方で、ご遺体の引き取り手がないなどの事情で入っているというケースがほとんどだと思う。墓石は剥がれてしまうと二度と修復ができない。貴重な歴史の情報なので、待ったなしで修復すべきだと思う」と話す。
その上で「日本の場合、太平洋戦争の評価の問題も絡んでくるので、戦争で亡くなった方に敬意を表するという事自体、戦争の美化や戦争の肯定だと受け取られてしまってきた歴史もある。戦後、軍人の方々には経済的な補償があったが、空襲で亡くなった民間の方々は補償を受けられていない。その意味で、戦争で亡くなった方々を軍人と民間人の区別なく、どう追悼、記憶していくのかがすごく大事なことになると思う。戦争に対する評価も大切だが、そことは切り離した形で後世に伝えていくことが大事だと思う。お金のことを考えるとなかなか難しいが、日本の陸軍は地域ごとに部隊が作られていたので、各墓地とつながりが深い。やはり一箇所にまとめるのではなく、それぞれの場所で国立の施設として維持していくのが望ましいのではないか。一つの史跡、文化財として必ず残さなければならない。小学校や中学校の歴史学習で、大勢の人が見学に来て頂けたら」とコメントした。
作家の乙武洋匡氏は「税金を投入するとなったときに、やはり"軍人"というところに引っかかる人もいるのではないか。戦地には行っていないけれども戦争で亡くなった方も大勢いる。そういった方も祀っているということであれば、支持してくれる人の比率は増えるのではないか」、タレントでエッセイストの小島慶子氏は「戦争で亡くなることが尊いのだ、それを利用しようとする人も出てくるかもしれない。軍人だろうが民間だろうが無念のうちに亡くなったというメッセージを強く打ち出さないと同意を得るのは難しいのではないか」と感想を述べていた。
視聴者からは「国会議員は集団で靖国神社に参拝するだけでなく、それぞれの地元にある軍人の墓地に参拝すればいいのではないか。それなら他国に苦情を言われることなく戦争で亡くなった方を追悼し、後世に残すことにも繋がると思う」といったコメントも届いていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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