「怒りの炎が消えることはない」亀岡暴走事故で妊娠中の娘を奪われ、それでも犯罪加害者の支援に踏み出した父の苦悩
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 京都府亀岡市で2012年、保護者に付き添われ登校中の小学生の列に後ろから来た軽自動車が突っ込み、3人が死亡、7人が重軽傷を負う交通事故が発生した。逮捕されたのは当時18歳の少年で、無免許の上、仲間と夜通し遊んでいたことによる居眠り運転だった。

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 この事故の犠牲者の1人で、妊娠7か月だったのが中江幸姫さん(当時26)の父・美則さん(55)は、この日以来"怒り"を原動力に生きてきた。しかしそんな中江さんは去年、娘の7回忌の日を境に、犯罪加害者の更生を支援する取り組みを始めた。12日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、悩みながらも前例のない活動を始めた被害者遺族の姿を取材した。

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■怒りが原動力だった 

 「大事な娘を殺されたんだから、復讐だ。被害者の名前はどんどんテレビに出るのに、加害者の名前は出てこない。18歳であるからといって」。事故当時は、更生・保護を図るという「少年法」の理念に基づき、原則として加害少年の特定に繋がる情報が公にされることはない現実に対し怒りを露わにしていた中江さん。量刑の重い「危険運転致死傷罪」の適用を求めて署名活動を行い、24万人分の署名が集まった。国会議員を前に「審判の日、手に届くところに犯人がいるわけですね。全く一礼もなく。ボールペンを握りしめて、刺しそうになる瞬間が」と訴えたこともある。

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 ところが検察側は、少年の居眠りによる過失が原因として「危険運転致死傷罪」での起訴を断念した。中江さんは「無免許運転」の厳罰化を求め、谷垣法務大臣(当時)にも直接訴えた。「加害者に対して人権とか更生とかそういうふうな導きがあるんなら、被害者は、僕らはこれからどういうふうに生きていったらいいのかって法務大臣にお伺いした」。

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 この頃の中江さんを動かしていたのは怒りだけだった。「僕らの娘を奪った人間は、お巡りとすれ違う時はシートベルトをちゃんとしていた。悪知恵を働かす技能だけは有る。これが少年法でなぜ守られなあかんねんって…」。しかし少年への判決は、懲役5年以上9年以下の不定期刑。今も納得はいかないというが、その思いは法律を変えることに繋がった。

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 翌年、中江さんは被害者遺族の会「古都の翼」を設立、講演などを通して悪質運転撲滅の啓発を行った。そうした活動が結実し、同年11月には無免許事故の罰則は強化され、自動車運転死傷行為処罰法(最高刑・懲役15年)が成立した。しかし無免許そのものが危険運転致死傷罪の要件に加えられることはなかった。中江さんは「正直、不十分だと思っている。それでもこの子らが犠牲となって法律を動かしたんやなって。"すごいな、幸姫すごいな!、お前らすごいことしたんやで"って」と語っていた。

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■刑務所で講演も「自分は被害者感情が剥き出しやし」

 同時に、「怒り」だけが原動力だった中江さんに、少しずつ変化も訪れていた。

 事故や事件で理不尽に命を奪われた人の写真と遺族の思いを寄せた人型のパネルと人生を象徴する靴、そして犠牲者が今も家族と共に生きて時を刻んでいることを表す時計が針を進めるという展示を並べた「生命のメッセージ展」に参加することにした。

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 当初は"お墓に入れてしまうことになるんじゃないかという気がして"と、参加に抵抗もあったという中江さんだが、「同じ無念の死で苦しんで彷徨っておられる方が、メッセンジャーとして旅立ち活動をしている。そこに混ぜてもらえれば、本人としてもやりがいのある場所になるんじゃないかなと」。少年院で開催されたこのメッセージ展を見た少年たちからは、たくさんの折り紙の鶴も届いた。中江さんは命の尊さを伝えるため、積極的に参加するようになっていった。

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 それ以外にも、中江さんは「古都の翼」の悪質運転撲滅の啓発活動を続けてきた。車の自動運転システムの技術を開発する会社での講演では、「やっとの思いで駆けつけた病院で、医師が脇腹から手を入れて心臓を動かしておられた。足が前に動かなかった。"動いてくれと"握ったこの手の温もりを今も忘れることはできません」と語る中江さん。しかし、「悪魔は何度も何度も無免許を繰り返し」と語気を強めて話すなど、加害少年への怒りは決して消えることがないという事実も印象づけた。

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さらに先週には、主に窃盗や薬物の罪を犯した約1000人の受刑者が収容されている京都刑務所(京都市)でも講演を行った。事前の打ち合わせで中江さんは「自分は被害者感情が剥き出しやし。けど自分の言葉でしか伝えることができひんし」と複雑な胸の内を明かす。首席矯正処遇官の河田武人さんは「被害者遺族の方が受刑者に直接話をするというのは当所としては初めてになる。だから、彼らにとっても響くものがあるのではないかなと」と期待を込めていた。

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■「遺族も社会復帰をしないといけない」元受刑者の社会復帰支援も

 中江さんの活動はそれだけではない。去年、長男の龍生さんと共に、元受刑者などの社会復帰を支える「犯罪更生保護団体ルミナ」を設立した。主に休日を利用し、身体の不自由な人の自宅に手すりをつけるなど、中江さんがもともと働いていた建設業の手助けを行っている。

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 刑務所で習得した技術を活かしているというたつやさん(50代)は、傷害と覚せい剤使用の罪で二度服役した。「犠牲にしてきた家族に対して目を見て話ができるようになりたいやろ?なろうや"って、たつやが苦しくなったら言う」。中江さんはたつやさんに被害者遺族の苦しみを知ることで、犯した罪を憎み、二度と犯罪に手を染めないで欲しいと願っている。「頼られる人間になれたら、ものすごいやりがいもあるしな」と語りかける中江さんに、たつやさんは「中江さんと一緒にいるとブレーキがかかり、悪いことにも手を出さん、守られているっていう感じがする」と話していた。

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 窃盗などで3度服役した過去を持つマサさんは、中江さんとの活動で感じたことを次のように手紙に綴っている。「罪を犯した多くの者が、自分の犯した罪を憎んでいません。気づいていません。いや、気付いていて、自分に甘いだけなのかもしれません。楽だからです。私は思います。罪を犯した者が苦しむのが当たり前の社会になってほしい。そして、犯罪によって被害に遭われた被害者の方々の苦しみが、重荷が、憎しみが、少しでも軽くなってほしい。そのためには罪を犯した者が、変わらなければいけません。それは自分自身がことの重大さに気づき、苦しみ、生涯向き合っていくことである。二度と同じ罪を繰り返さないために、自分のできる最大限の努力をすることです」。

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 「今も身体の中には怒りの炎が消えることなく沸々と燃えている。ルミナを設立することには迷いもあったが、自分たち遺族も社会復帰をしないといけない。それでも犯罪の裏に被害者がおられる。その方に対して、"加害者を更生させる"なんてことは僕には言えない。だから勝手だが、自分の手を伸ばせる範囲で、僕の気持ちを分かってくれるというか、一緒に考えてくれる者なら更生してくれることがあるから」と話す中江さん。「仕事を任せてみると、ものを作ることを楽しんで、キラキラ光っているところがあると思う。刑が軽い子たちではあるが、僕の娘のことで泣いてくれることもある。まだまだ見込みがあるんじゃないかと思う」。

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 そんな父の姿を傍で見てきた龍生さんは「加害者の話はとりあえずタブーやっていうくらいだった人間が、加害者の更生・保護で頑張ろうって。何か変わったなあって、それが嬉しい。でも、そうでもせんとやっぱり生きていけへんのかなって思った。憎しみだけで生きていくのは本人にとってもしんどいことじゃないんかなって思う」と話す。

■7年前に報じた小川アナ「これだけの逡巡があったことを知った」

 浪速少年院の院長などを歴任、37年間にわたって矯正教育に携わっている龍谷大学矯正・保護課程の菱田律子講師は「中江さんの活動に心から敬意を評しますし、なかなかできないことをなさっているなと思う。被害者の方が置かれた現実をしっかりと理解した上で加害者の支援をしていかないといけないことは、少年院や刑務所の現場にいる者もよく分かっている。ただ、それが十分じゃないと言われたらその通りだと思う。一人ひとり違うので、積み重ねていかないといけないと思う」と話す。

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 その上で、「どうしても重大事件の被害者が注目されるが、重大事件以外の被害者の方もいらっしゃる。たとえば強盗の被害者の方が、盗まれた財布の中身でなく財布自体が捨てられたことで大事なものを無くして本当に辛いんだということを伝えてくださった。それを聞いた少年が"今までお金を盗ったことは悪かったと思っていたけれど、その人の思い出も盗ったんだと気づけた"と言っていた。やはり重大事件とその他の事件、とりわけ軽微な事件は分けて考えてほしいし、少年院には万引きなどの罪でも来てしまう子もいる。そして背景をみてみると、司法としてもそれしか手立てがなかったというケースもある。そういう少年たちの家庭の約3割が貧困家庭で、虐待の被害者だったりする」と訴えた。

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 事故発生当時、『報道ステーション』で報じたという小川彩佳アナは「連日のようにお伝えしたのを覚えている。当時、古舘伊知郎さんが"これは事故ではなく、事件だと言おう"とおっしゃって、必ず事件と伝えるようにはしていたが、やはり判決という一つの節目で報道というのは一旦収まったし、中江さんがその後どういう気持でいたのかをお伝えする機会がなかった。7年間、これだけの逡巡があったことも含めて事件・事故なんだということを感じた」と涙ながらにコメントした。

■「ようやく笑えるようになった」

 事故からまもなく7年。今も月命日の23日の夜中には事故現場を訪れる。「夜中に一人で行く方が、娘の声を聞けると思う。一番怖かった瞬間に駆けつけてあげられなかった、叫んでる時に手を握ってやれなかった父親として悔しいし、それを自分の中で感じ取りたい。娘の怖さ、痛さ、苦しさ、悲しさ、絶望、悔しさ。そういったものを忘れないために、自分の身に刻み込みにいく。加害者に対しての憎悪が蘇ってくる。でも、僕はそれを力に変えて生きている。手が届く範囲でしかできないが、ひっそりとでも僕と対話をしたいという方がいればサポートができると思う。これからは色々な方のサポートも必要だし、アイデアも欲しい。専門家の方々にも力を貸してもらいたい」。

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 幸姫さんの遺骨を肌身離さず持ち歩く。「裁判所に行く前に骨をむしゃぶって、自分の血に変えて、幸姫と一緒に闘うんやっていうような思いで法廷に臨んでいた」。そして、ようやく笑えるようになったという中江さんは、「残された孫たちは、幼くして母親を亡くしているので、"お母さんはどんな人やった?"と聞いてくる。"お前らのお母さんは、誰にも愛されてきたんや、誇らしいお母さんやったんやで"ということをホンマに伝えてやりたい。車の免許を取る年齢になった時、社会人になった時、"おじいちゃんが精いっぱいお前らの分も悔しい思いをぶつけたよ、悔いなく闘ったよ"っていう記録を残したい。それが僕の今やっていることの証かなと思っている」と話していた。

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