LGBTなどの性的指向などを本人の了解を得ずに第三者が暴露する「アウティング」。プライバシーの侵害につながる可能性があるだけでなく、暴露された側が差別やいじめによって居場所を失ってしまう可能性も孕む行為だ。
一橋大法科大学院に通っていた男子学生Aさんが、同性愛者であることを同級生に口外されたことに悩み、転落死した事件をめぐり、遺族側が大学を提訴した民事訴訟で、東京地裁は原告敗訴の判決を言い渡した。
Aさんは生前、家族に対して自身がゲイであることを伝えていなかったという。小川彩佳アナウンサーの取材にAさんの母親は「"お嫁さんとお酒を飲んだり、買い物をしたりしたいなぁ"って、よくそういうことを言っていた。悪かったなと。答えようがなかったんだろうなと。今はよく"良いパートナーが見つかった？""今度紹介してね"って息子に声をかけるんです」、また、Aさんの妹は「自分が周りからどういう風に扱われたいか、自分に置き換えて欲しい。それを皆が考えるようになったらこの裁判が人に考えてもらうきっかけになればと思っています」と話していた。
裁判を傍聴した三輪記子弁護士も「私に対して同性愛者であることを告白してくれる人もいたが、親には話せないということだった。なぜかと言えば、親の期待を壊したくないとか、親が受け入れられなかった場合のダメージを受け止められる自信が無いからということだった。つまり、人間関係が長ければ長くなるほど、打ち明けることが難しくなる傾向があるということ。関係が深ければ言えるということでは必ずしもないということを知っていただきたい」と訴える。
愛知県で活動するNPO「ASTA」の松岡成子共同代表理事は４年前、息子からゲイであるとのカミングアウトを受けた。「関係が壊れそうで怖い、心配をかけてしまうと思い、体のあらゆるところから冷や汗が出たと言っていた」（松岡氏）。
一昨年「ASTA」立ち上げ、教育機関や企業などに自身の体験で得た知識を伝えている。「"自分には関係ない""（当事者と）出会ったことないよ"と言われる大人や親の世代がどう答えたか。"産まなきゃ良かった""やめてよ！気のせいよ！気持ち悪い！""死んでくれ"。こういう言葉を当事者は言われている」（松岡氏）。松岡氏は、子どもたちが学校でLGBTについて学ぶだけでなく、まず親が理解を深め、子どもに伝えることが大切だと指摘する。
「ASTA」のメンバーで、トランスジェンダーの田上遥翔氏は戸籍を男性に変更した。「父は猛反対した。"お前みたいな化け物を作った覚えはない！""お前を殺して俺も死んでやる！"って」。田上さんの母・小百合さんもメンバーとして家族でどう向き合ったのか、体験を伝える。出前授業の依頼は県外からもあり、年間90件にのぼっている。
筑波大学では３年前から河野禎之助教と土井裕人助教が中心となり、学生とともにLGBTなどに関するガイドラインを作り始めた。土井氏も、体は男性だが心の性は不明というトランスジェンダーの当事者だ。「カミングアウトとアウティングを巡っては、当事者側と周囲にアウティングをしてしまう側でものすごく意識のズレがある。でもそこの認識のズレがものすごい大きな悲劇を招くことも当然ある」（土井氏）。
一橋大学で起きた事件が一つのきっかけとなり、一昨年３月、大学としての考えをまとめたガイドラインを全国に先駆けて発表した。そこでは制度面でのサポートに加え、アウティングについては自殺などの最悪の結果を招きかねないと指摘、ハラスメントとして対処することを明記している。「たまたま一橋大学で起きただけであって、どこにでも起こり得るという危機意識は当時強く覚えた」（河野氏）。河野氏らは併せて自己評価や考え、気持ちの整理に役立ててもらうためのワークシートも作成。学外の人も利用できるよう、ネットで公開した。
ゲイであることを公表した上でLGBT支援に取り組むドイツ証券の柳沢正和ディレクターは「私も両親も含め、色んな人にカミングアウトして受け入れてもらったが、それが果たして良かったかどうかは正直わからない部分もある。よく、カミングアウトとはバトンを渡す行為だ、という言い方をされる。つまり、本人は自身のセクシュアリティについて何十年もかけて悩んでいるが、カミングアウトされた方は渡されて初めて悩む、そこでヘルプがないのは本当に辛いことだろうと、私も家族や友人を見ていて思った」と話す。
「こういった試みが広まっていく流れにはなっているし、啓発をする人、授業を受ける機会も増えているが、相談を受けて関わりを持つことの出来る人にお金やリソースが回ってないのがLGBTコミュニティーの課題だ。それができれば完全に回っていく。今、そこを考える段階に来ている」。
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