近年のプロレス界における“ヒット作”の一つが、武藤敬司が手がける「プロレスリングマスターズ」だ。これは団体ではなく年数回のペースで開催されているイベント形式の大会で、ネーミング通りベテラン、レジェンドが主役となる。引退した選手がセコンドとして登場することも珍しくない。
2月15日に開催された後楽園ホール大会では、第1試合の高岩竜一vsリッキー・フジから始まりディック東郷&獅龍vsNOSAWA論外&FUJITA、第3試合には越中詩郎&青柳政司&齋藤彰俊の平成維新軍が登場。しかも相手はグレート小鹿&タイガー戸口&将軍KYワカマツである。藤波辰爾&長州力&獣神サンダー・ライガーvs藤原喜明&長井満也&冨宅飛駈という“新日本系vsU系”6人タッグ戦には、U系チームのセコンドとして前田日明まで登場した。
そしてメインはBATTvsTEAM2000のユニット対決。ドン・フライ&太陽ケア&新崎人生&大谷晋二郎with武藤敬司に対するは、天山広吉&小島聡&ヒロ斎藤&スーパーJwith蝶野正洋。もう、このマッチメイクだけで「たまらん!」というアラフォー世代以上のプロレスファンも多いだろう。実際、会場は超満員。チケットは前売りの段階で完売していた。長くプロレスを見続けてきたファンはもちろん、「今はプロレス見てないけど、この大会だけは」という人もいたはずだ。「プロレスリングマスターズ」にはタイトルが制定されているわけではない。メインではドン・フライがTEAM2000に寝返ってフィニッシュにつながったが、そこから“因縁の抗争”が始まるわけでもないだろう。
選手たちの動きも、さすがに全盛期と同じとは言い難い(トップ戦線で闘う40代の選手たちも出場しているが)。ただ50代、60代、あるいはそれ以上になって、レジェンドたちが元気な姿を見せてくれるのがファンには嬉しい。必殺技、得意ムーブも出し惜しみなしだ。“顔面襲撃事件”を知るものなら、長州と前田が後楽園のリングで向かい合っているだけでグッとくるというもの。さらに試合後には、長州がロープに走って前田にラリアットのフェイントをかけるという場面も。
選手たちにとっても、ファンの歓声、それにリングに上がることそのものが喜びなのだろう。武藤曰く「毎回思うのは、選手が本当に楽しそうにやってくれてるなと。お客さんもそれに反応してるんじゃないかな」。大会を締めた蝶野も絶好調で、“黒のカリスマ”として観客を煽りつつ「かつて新日本プロレスには神がいた。今、ここにはキング・武藤がいる。キングって何か分かるか? 詐欺だよ。我々はプロレス界で防犯をしていく。この素晴らしい大会を守るために、武藤をしっかりチェックしていくぞ」。
さらにインタビュースペースでも「高齢者の先輩方を巧みに使って。たぶん記憶がしっかりしてないのをいいことにね。半分くらい、去年出たの覚えてないでしょ。お客さんもマスコミも騙されてる」と、絶妙なトークを展開したのだった。蝶野の喋りに、TEAM2000の面々もおもわず笑顔に。かつて様々な遺恨、激しい闘いを展開してきた選手たちも、それを見てきたファンもみんなが笑顔になれるのが「プロレスリングマスターズ」。そんな興行があってもいい。
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