２回目となる米朝首脳会談がベトナムの首都ハノイの高級ホテルで始まった。
トランプ大統領と金正恩委員長が対面した際の映像を見た北海道大学大学院の鈴木一人教授は「金正恩氏は前回よりも落ち着いてはいるが、決意のようなものは感じず、迷いを感じている印象だ。強気に出る気がないのではないか」と話す。
共同通信社の磐村和哉氏も「割と率直に語っていたと思うし、それは"悩んでいるから背中を押してくれ"という、トランプ大統領の心を掴むためのシグナルかもしれない」と分析。「列車で中国を縦断してベトナムに入った。中国の改革開放の成果を車窓からだけでも見るためではなかったか。そしてベトナムでドイモイ政策の成果も見て、自分たちの身の丈にあった政策とはどういうものかを考える機会にしたと思う。そこにトランプ大統領から背中を押されるような発言があるというのは、金正恩委員長にとってのシナリオかもしれない」と推測した。
今回の会談では前回同様、通訳を交えた２人きりの時間も設けられているという。鈴木氏は「トランプ大統領はプーチン大統領との会談でも同様の時間を作っている。そこでの会話は２人しか知らず、記録にも残らないため、言ってしまえばトランプ大統領が"こんな話をした"という作り話もできる余地を与える政治的な演出だ。プーチン大統領との会談の場合、アメリカの情報機関はロシア側に話を聞いてトランプ大統領の発言を知ったとされている」と解説した。
午後９時から始まった夕食会では、アメリカ側からトランプ大統領に加えポンペオ国務長官、マルバニー大統領首席補佐官代行、北朝鮮側からは金正恩委員長に加え金英哲副委員長、李容浩外相が顔を揃えた。
鈴木氏は「シンガポールの時も１対１の次に４対４だったが、ちょっと違和感があるのは、マルバニー大統領首席補佐官代行の相手が李容浩外相という点だ。最初は金正恩氏の首席補佐官的な役割である妹の与正氏が入るという話もあったが、こういう顔ぶれになったのはどういう意図なのか分かりにくい」、磐村氏は「李容浩外相は核問題の専門家としてアメリカと長年にわたる交渉を行ってきた人物。かたやアメリカ側は過去のことはあまり知らない人たちだ。北朝鮮側には歴史を踏まえ、会談で良い成果を出そうという思惑があり、そのための手堅さを狙っているのではないか」とコメントした。
今日の会談で、両者はそれぞれどこまで譲歩し、現時点でどのようなシナリオを描いているのだろうか。
磐村氏は「去年の南北首脳会談でも出たし、今年の新年の演説でも金委員長は言及したが、『ミサイル施設解体』『寧辺核施設の凍結』の二点を持って臨むと思う。これらにプラスして『寧辺の査察受け入れ』のカードを出す可能性もある。ただ、その先の『寧辺の破棄』『ICBM段階的破棄』『核リスト申告と検証受け入れ』は難しいだろう。一方のアメリカは『人道支援・連絡事務所開設』『朝鮮戦争終戦宣言』、そして『金剛山観光』『開城工業団地』『鉄道・道路連結』といった事業を含む『南北経済協力』の承認がある。北朝鮮としてもトランプ大統領が非核化するまでは制裁を緩めないと言っていることも了解した上で、ここまでは取りたいと思っている。加えて、北朝鮮と交易・貿易した第三国の企業に対してアメリカが制裁をかける"セカンダリーボイコット"の対象から韓国企業を外すということも求めてくると思う。北朝鮮にとって終戦宣言はあるに越したことはないが、それほど重要な要素ではないと思う」と推測。
「会談は北朝鮮ペースで動いているように見える。国に帰れば様々な問題があってトランプ大統領は火の車だ。来年秋には大統領選挙があって、下半期は国内遊説で国内を回らないといけないし、外交的な政治日程はタイトになる。そうなると、外交的な成果を作るための時間はわずか。北朝鮮の非核化、世界が安全になったとアピールする必要性に迫られている。それを北朝鮮は足元を見て、交渉しようとしている」。
北朝鮮のメディアに詳しい日本大学の川口智彦准教授は、北朝鮮メディアは今回の首脳会談について頻繁に報じており、その盛り上がりをみると、すでにある程度の合意形成が行われている可能性もあると指摘している。磐村氏も「その可能性はある。韓国は明日にでも経済交流事業を進めようと準備を進めているし、それはアメリカにも伝わっている。アメリカとしても自分の財布の紐をゆるめずに北朝鮮を非核化へ誘導することができるからだ」とした。
鈴木氏は「北朝鮮にとっては、最終的には在韓米軍の撤退が重要だ。双方の非核化というのは、朝鮮半島の地理的な空間にアメリカの核が入っていないこと、つまり在韓米軍に核の配備がないことを指している。グアムに配備されている戦略爆撃機があれば北朝鮮には対応できるので、グアムからの核の撤退、ということになる。ただ、検証ができないので、あくまで核を積んだ船が朝鮮半島に近寄らないようにするというのが朝鮮半島の非核化になるだろう」と説明した。
その上で鈴木氏は「アメリカは非核化をしなければ制裁緩和をしないということになっているので、最もやりやすいのは『人道支援・連絡事務所開設』だろう。ただ、セカンダリーボイコットがかかっているので、人道支援が制裁になってしまう人たちもいるので、そのために連絡事務所を設置するということにもなる。これは将来的な外交関係の樹立にまでつながる話になる。『朝鮮戦争終戦宣言』については韓国も求めているので、象徴的なことだがそれなりに重要。一方、北朝鮮の実質的な経済発展につながるのは『南北経済協力』。中でも『金剛山観光』『開城工業団地』は昨年の板門店宣言、平壌宣言の中に入っていて、これらは韓国も積極的にやりたいと思っている。アメリカからしても、制裁は緩和しないが北朝鮮も韓国もハッピーになるので、ありだろう。ただ『鉄道・道路連結』といったインフラの話は、もし対立が厳しくなった時にややこしくなる可能性があるので、躊躇するだろう。『安保理制裁の緩和』については、アメリカがイエスと言えば中国もロシアも賛成するだろう。しかし、安保理制裁は北朝鮮の外貨獲得をターゲットにしているので、踏み込む可能性は低い。また、今回の目的はあくまで非核化なので、拉致問題といった人権問題が入る可能性は低い。ただ、今は"CVID"という言葉も使われなくなり、何をもって非核化とするかが曖昧になっているので、交渉が難しくなっている」と話した。
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