「極端な事例を一緒くたに」「すぐ原発推進か反対かの議論に」福島第一原発事故の低線量被曝をめぐるメディアの伝え方に苦言
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 被曝により甲状腺がんに罹るなど身体的・精神的及び経済的損害を受けたとして、東日本大震災の発災直後に支援活動「トモダチ作戦」に参加していた米兵らが東電などを相手取り約1120億円の損害賠償を求めた訴訟で、米国の連邦裁判所が今月までに「審理する管轄と権限を有しない」として訴えを却下した。 

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 この問題をめぐっては小泉純一郎元総理が支援基金を設立するなどしているが、被曝の影響でがんになったと主張する兵士の割合が統計学上、自然にがんを発症する人の割合より少ないという指摘もあり、東京電力側も「米兵たちが受けた被曝量はごくわずかであって、健康被害を受けるほどではない」と主張してきた。

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 11日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した東京工業大学の澤田哲生助教(原子核工学)は、「どういう環境でどういう被曝をしたかについての情報がないのではっきりとしたことは言えないが、通常は"被曝管理"といって、過剰な被曝をしないよう測定しながら作業にあたるはずだ。病気になるような量を浴びているとはちょっと思えない」と話す。

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 また、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「福島第1原発の作業場にもたくさんの作業員がいたが、重篤な病気は一切報告されていない。それなのに、オペレーションに参加した兵士だけが病気になるというはバランスを欠いている気がする」と指摘。「大事なのは、実際にはどんな作業環境で何が行われ、どのくらい被曝したのかというデータをきちんと見た上で議論することだ。話が出てきた瞬間に"やっぱり被曝していたんだ!"と大騒ぎしたり、逆に"絶対に被曝なんてするわけない"と言うのはすごくバランスを欠いていると思う。やはりファクトをベースに話し合わないと、絶対に議論が噛み合わない」と話した。

 ノンフィクションライターの石戸諭氏は「低線量被曝の問題は、よく"はっきりとわからない"と説明される。自然に発生するがんなのか、それとも放射線由来なのかが分からず、議論があるというということ。議論があること自体は確かに大事なことだが、安易なワーディング、言葉の使い方が問題なんだという自覚がメディアにも欲しい。なぜなら、そうした扱い方をすることで、作業に関わった米軍だけでなく、甲状腺がんの検査を受けている福島の子どもたちにも同じようなことが起きるのではないかと考えてしまう人たちもたくさんいるからだ」と指摘した。

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 放射性物質の総放出量はチェルノブイリ原発事故の約7分の1であって、福島の子どもたちの被ばく量についても、胎児に影響が発生すると考えられる放射線量の値よりもはるかに低く、甲状腺がんの発生頻度とも意味のある差は見られないとしている。

 澤田氏は「わずかな放射線量の影響をどういうふうに見て、どう解釈するかというのは、実は専門家の間でも意見が割れているところがある。現時点で我々が最も頼りにしているものとしては、国連科学委員会(UNSCEAR)が何年かおきに出している報告書がある。そこには"福島の18歳以下に関して被曝との明らかな影響のもとに甲状腺がんが発症しているということは認められないが、今後も慎重に見ていく必要がある"という内容の但し書きがしてある。そういう状況だ」と説明する。

 「チェルノブイリの場合、事故直後に規制を厳しくしなかったために、甲状腺にたまりやすいヨウ素が降り注いだ牧草を食べた乳牛から出た牛乳を人間が飲んでしまった。そのため、後に甲状腺の異常やがんが発生した人が多く出たということがわかっている。そういう経験もあって、福島の場合は事故直後から牛乳などを摂取しないよう規制した。もちろんゼロとは言えないが、かなり摂取制限はできたと思う。むしろ、同時に出てきたセシウムという別の元素による影響が問題になっているが、これに関しては今のところまだよくわかっていない。影響はほとんどないはずだという人もいるし、ちゃんと見なければならないという人もいて、意見が分かれるところだ。国連としては、今後もちゃんと見ていくことにしている」。

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 石戸氏は「悲惨な歴史だが、今のところ、チェルノブイリや広島・長崎の被爆者を追いかけた調査が最も信頼に足るデータと言われていて、ものすごい量を被曝した時の人体への影響についてわかったことがたくさんあった。ただ、福島での原発事故後に起きているのはそれとは比にならないくらい低線量。だからこそ余計に議論がこじれてしまっているというのが現状だ。まさに調査を進めている段階ということもあるし、ものすごく細かくチェックをしているので、通常の検査では見つからないようなものまで発見してしまっている可能性も指摘されている。伝え方も含めて非常に難しいが、国連の報告などでは、あくまでも集団的に見ると、がんや遺伝性の疾患、出生時異常の増加を含め、発生率のような形で識別できる変化はないのではないかという予測が立てられるという言い方をしている」と指摘。

 「極端な事例で語ることで、ちゃんとチェックしていこうとか、経過を観察していこうという声がなかなか伝わりにくくなっている。本当に心配しなければいけないことにリソースを割かなければならないのに、極端な意見に対して反論することにばかりリソースを割かなければならないような状況が生まれるという弊害が出ている。議論の設定の仕方を間違えると、おかしな方向にどんどん進んでしまい、結果的に検査を受けている子どもたちが置き去りになっていく。ここが本当に危ないところだ。起きてしまったことに対処しなくてはいけないのは、原発推進か反対か、政治的スタンスに関係なく合意できる話だと思う。それなのに、全く別の議論を原発事故が起きた後の福島の話に持ってきたり、原発推進か反対か分かれるような議論になっているのが不幸だ」。

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 佐々木氏も「"鼻血が出た"というような、急性被曝でしか起きないような極端な事例と、低線量被曝を一緒にしている意見があまりにも多すぎる。それぞれの影響は全然違うのに、鼻血が出たから低線量被曝の悪影響が出ているというような言説が大っぴらに語られ、メディアにも載ってしまっていることに大きな問題があるのではないか。また、科学者からすれば"ゼロリスク"なんて絶対ありえないので、"絶対安全ですか?"と聞けば"いや、そんなことはありません、リスクはあります"と答えるはずだ。それが50%なのか1%なのか、もしくは大きいのか小さいのかという違いもあるのに、"リスクはゼロではない"と言った瞬間に"やっぱりリスクはあるんだ"と思い込んでしまう。そこを悪用したり、変な両論併記に持っていったりしてしまっている問題だもあると思う。今もまたTwitterに"御用学者"と書き込んでいる人がいる」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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