春場所4日目、序二段の取組が淡々と進む中で一際、大きな歓声と拍手が沸き起こった一番があった。その土俵には5場所ぶりに復帰した元大関照ノ富士と、右膝の大ケガからの再起を目指す幕内経験者の天風が立っていた。
元大関が序二段の土俵に上がるのは前例がないが、天風も右膝の膝蓋骨脱臼で昨年7月に手術。3場所連続全休を経て、今場所は序二段・五十枚目で土俵復帰を果たした。ともに白星発進で迎えたこの日は天風が左四つで寄り立てるが、土俵際で照ノ富士が右からの小手投げで勝ちを収めた。
元幕内力士が序二段の番付に名を連ねるのは、この両者を含めて昭和以降9人いるが、幕内経験者同士が序二段で対戦するのはこの日の取組が史上初のケースだ。
重傷によって番付を急降下させた幕内経験者が再び這い上がるには、体力の回復はもちろん、精神的にも相当なタフさが求められる。関取から陥落すれば給料がゼロになるなど、待遇の違いは歴然。心が折れそうになることも1度や2度ではないだろう。
今場所、16場所ぶりに幕内に返り咲いた元関脇豊ノ島は幕下・三十五枚目から復活した。千代の国も三段目・二十八枚目から幕内復帰を果たした。
前述した9人のうち、実際に序二段の土俵に上がった幕内経験者は今回の両者を除き、過去に4人いるが、いずれも力士生活晩年のことであり幕内に戻ることなく土俵を去っている。照ノ富士や天風はともにまだ20代。序二段の取組にもかかわらず沸き起こった大きな声援は、前例のない大復活に挑む両者への相撲ファンからの温かいエールに他ならない。
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