お中元の季節はもう少し先だが、角界では毎年夏場所の時期になるとお中元代わりに、力士や親方衆、贔屓筋といった方々に「粗布」というのし紙をつけて反物を贈る粋な習慣がある。

 意匠を凝らしたデザインに四股名や部屋の名前を施した柄は、時代とともにカラフルで派手になる傾向にあるが、基本的に自分以外の人に着てもらうのを前提としているので、染め抜かれた四股名は大き過ぎず、さりげなく描かれているのが普通だ。自分で自分の四股名が入った浴衣を着るのは、野暮というもの。しかし、昨今はそういった力士をたまに見かけることもチラホラ。

 反物を贈ることができるのは、関取でも幕内以上の力士に与えられた特権だ。幕内から十両に陥落し、再び幕内復帰を果たした力士から「また反物が作れるのがうれしい」という声を聞くことも少なくない。どれくらいの人に贈るのかは、力士の地位や予算によってまちまちだが、概ね300~500くらいか。

 相撲ファン初心者が浴衣地にある四股名を見て、お目当ての力士と勘違いしてサインを求めるというのも、たまに見受けられる“大相撲あるある”ネタだ。余った生地で巾着やテッシュケースを作るのも最近のトレンドのようだ。

 古くなった浴衣は稽古廻しの上から羽織る「泥着」として使うことになり、出稽古先へ行くときなどに着用する。支度部屋では反物を贈ったり、贈られたりしながら、いくつもの反物をバッグに詰めて持ち帰る光景も、この時期の風物詩と言えるかもしれない。取組を終えたお相撲さんが場所を後にするときに着ている浴衣を見比べていると、贈り主の力士のセンスがうかがい知れて楽しいが、くれぐれもサインをもらうときは四股名を間違えないように。

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