新元号・令和になったばかりの5月1日、いきなり「千駄ヶ谷の受け師」が長く“令和史”に残るような大熱戦を繰り広げた。粘り強い受けが特徴の木村一基九段(45)が、菅井竜也七段(27)と王位戦挑戦者決定リーグ戦で繰り広げた激闘、実に317手。200手を超えればかなりの長手数と言われる中で、お互いに入玉し、持将棋寸前の勝負になったが、これを制したのは木村九段だった。どんな攻撃も受けつぶす。ベテランはまだまだ健在だ。
解説では、ジョークを挟んだ軽快なトークと的確な指摘で人気でもある。ただ、いざ自分が盤に向かえば、悩ましい表情を浮かべつつも、相手の攻撃を次々と受け切っていく。攻めあぐねて息切れを起こしたと見るや、溜め込んだ力を使って逆襲。そうやってこれまでも多くの白星をつかんできた。20代どころか藤井聡太七段(16)のような棋士も誕生する中で45歳はベテランの域だが、竜王戦1組、順位戦A級というトップランカー。「受け師健在」は誰も疑うところではない。
1997年4月に四段昇段しプロ入り。2001年度には61勝12敗、勝率は歴代5位タイとなる0.8356をたたき出したこともある。年間60勝も羽生善治九段(48)、森内俊之九段(48)、藤井七段と4人しか達成したことがない快記録だ。タイトル戦は6回出場し獲得経験はないが、一般棋戦は2度優勝。全棋士参加の早指し棋戦・朝日杯将棋オープン戦でも優勝歴がある。
今回初登場となった持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算の超早指し棋戦・AbemaTVトーナメントは、どうしても瞬発力に勝る若手有利と言われがちだが「やはり出るからには、優勝するために出る。みなさんそうかなという風に思うのですが、私もその一人です」と、盛り上げ役に回るどころか主役になる気持ちは十分にある。ただ「不安な自分がいまして、1勝できればいいな、というのは本心でもあります(苦笑)」と、コメントでもしっかりと受けの一手を忘れなかった。
過去、同棋戦ではしっかりと玉を囲うという戦型が、持ち時間が少なくなった終盤戦でも慌てずに指せるということもあって、有利に働いている傾向がある。頑強な木村九段の受けが攻めを跳ね返し続ければ、時間に追われる若手棋士もたまったものではない。超早指しだからこそ活きる受け将棋。それが木村九段の見せる世界だ。
◆AbemaTVトーナメント 将棋界で初めて7つのタイトルで永世称号の資格を得る「永世七冠」を達成した羽生善治九段の着想から生まれた、独自のルールで行われる超早指しによるトーナメント戦。持ち時間は各5分で、1手指すごとに5秒が加算される。羽生九段が趣味とするチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1回の顔合わせで先に2勝した方が勝ち上がる三番勝負。予選A~Cブロック(各4人)は、三番勝負を2回制した棋士2人が、本戦への出場権を手にする。本戦トーナメントは8人で行われ、前回優勝者の藤井聡太七段、タイトルホルダーとして渡辺明二冠がシードとなっている。
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