「藤井七段に勝つ!」。これだけ明確に、名前を挙げて目標とする棋士も珍しいかもしれない。新世代のエース候補として期待される増田康宏六段(21)に、前回に続けて出場するAbemaTVトーナメントの目標を聞くと、こう答えた。16歳にして将棋界の話題の中心にいる藤井聡太七段を強烈に意識し、前回大会でのリベンジを目指す。5歳離れているとはいえ、これから何十年と戦い続けるだけに、どんな対局であっても負けられない相手だからだ。
東の天才・増田康宏、西の天才・藤井聡太。プロ入りの時期は2年違うが、藤井七段が史上5人目となる中学生棋士となった際、どちらも10代だったことから、そう呼ばれた。日本中の将棋ファンが熱狂した、藤井七段(当時四段)の公式戦29連勝の相手も増田六段(当時四段)。各種メディアでも大々的に取り上げられた対局が10代対決だったということも、新たな時代の到来を象徴するものだった。
公式戦で2人は計3回対戦。増田六段が1勝2敗と1つ負け越している。さらに、藤井七段のデビューまもなく企画されたAbemaTV「炎の七番勝負」で敗戦、第1回AbemaTVトーナメントでは三番勝負で2連敗と、ここでも敗れた。才能と才能、研究と研究がぶつかる好勝負を繰り広げながら、結果としてはあと一歩及ばず、という状況が続いている。一般棋戦では増田六段が新人王戦を2度制覇したのに対し、藤井七段は新人王戦1回、そして全棋士参加の朝日杯将棋オープン戦を連覇と、後輩棋士の後を追う状況になっている。
いずれはタイトル戦でぶつかることもあろう2人の若手棋士。持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算という局地戦においても、公式戦さながらに真正面からぶつかりあう。増田六段は「藤井七段は今、最年少で本当に頭の回転も早いので、このルールで勝つっていうのは、かなり難しいことなんですよね」と、素直にライバルの実力を認めた。その上で「そこを勝つということを、目標にしたいなという風に思っています」と、下から突き上げられるどころか、一気に大きな壁にもなった16歳に勝つことが、この棋戦に出場する意義とすら考えている。
ベテラン、若手、女流とバラエティに富んだ予選Cブロックに登場するが、目標とする藤井七段は本戦トーナメントで待ち構えている。予選で脱落しているようでは、その差は縮まるどころか、開く一方だ。ライバルへの“挑戦権”獲得を目指し、初戦から気迫を込めて盤に向かう。
◆AbemaTVトーナメント 将棋界で初めて7つのタイトルで永世称号の資格を得る「永世七冠」を達成した羽生善治九段の着想から生まれた、独自のルールで行われる超早指しによるトーナメント戦。持ち時間は各5分で、1手指すごとに5秒が加算される。羽生九段が趣味とするチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1回の顔合わせで先に2勝した方が勝ち上がる三番勝負。予選A~Cブロック(各4人)は、三番勝負を2回制した棋士2人が、本戦への出場権を手にする。本戦トーナメントは8人で行われ、前回優勝者の藤井聡太七段、タイトルホルダーとして渡辺明二冠がシードとなっている。
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