2018年度の男性棋士との対戦成績、5勝5敗。伊藤沙恵女流三段(25)が残したものだ。女性で奨励会三段から四段に昇段し「プロ棋士」になった者が1人もいない中、女流枠として男性棋戦に出場し、勝率5割という結果を出したことは、快挙だったと言える。「男性棋士の方と対局できることは本当に貴重なことですので」と、丁寧に語る伊藤女流三段が、実力派ぞろいの超早指し棋戦・AbemaTVトーナメントに女流として初登場する。
そもそも今回の出場は、女流AbemaTVトーナメントで優勝をしたことで得られた権利。決勝で女流棋界の第一人者・里見香奈女流四冠(27)を破り「女流代表」の座を勝ち取った。女流トーナメントは持ち時間7分、1手指すごとに7秒加算だったが、男性トーナメントは5分・5秒。より速度と決断力が求められるだけに、伊藤女流三段にとってはかなりハードな戦いになる。
また、対戦する相手も相当の強者ばかりだ。参加する予選Cブロックは「千駄ヶ谷の受け師」の異名を持つA級棋士・木村一基九段、朝日杯将棋オープン戦優勝の実績を持つ八代弥七段、新人王戦2度優勝の「東の天才」増田康宏六段。この3人に対して三番勝負を2度制することを、現役の男性棋士で何人がクリアできるだろう。「少しでもいい内容の熱戦をお見せできるように頑張りたいと思います」と笑顔も見せたが、待っているのは鬼の道だ。
第1回大会では、極度の集中を求められる超早指しの三番勝負に、疲労困憊となる者が続出した。頭脳だけではなく体力も求められるこの戦いは、女流にとってさらに過酷なものとなる。だからこそ三番勝負を1度、2度と制することがあれば、日本将棋史にとって大きな事件となる。
◆AbemaTVトーナメント 将棋界で初めて7つのタイトルで永世称号の資格を得る「永世七冠」を達成した羽生善治九段の着想から生まれた、独自のルールで行われる超早指しによるトーナメント戦。持ち時間は各5分で、1手指すごとに5秒が加算される。羽生九段が趣味とするチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1回の顔合わせで先に2勝した方が勝ち上がる三番勝負。予選A~Cブロック(各4人)は、三番勝負を2回制した棋士2人が、本戦への出場権を手にする。本戦トーナメントは8人で行われ、前回優勝者の藤井聡太七段、タイトルホルダーとして渡辺明二冠がシードとなっている。
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