老後の資金として2000万円が必要とする試算などを盛り込んだ金融庁の報告書を巡って国会が紛糾している。麻生太郎財務大臣はこの報告書を受け取らないことを明言、追及の姿勢を見せる野党は19日に開催される党首討論でも、この問題について安倍総理と論争を行う見通しだ。
しかし、AbemaTV『AbemaPrime』に出演した現役世代のコメンテーターからは「もともと年金はあてにはしていなかった」「金だけで生活することが現実的ではない」「金融庁はよく言った、と言うべき」といった意見も相次いだ。出演者の一人、ジャーナリストの堀潤氏は「"抽出"された報道だけで議論するのはもうやめよう」と訴える。
■まさに税金の無駄遣い、知の軽視、ポピュリズム
11日、いわゆる統計不正問題について政府に申し入れる内容を話し合う自民党の行政改革PTのブリーフィングに参加してきました。議論に使われた特別監察委員会による報告書についての報道を見ると、"隠蔽は無かった"、"政府、官邸から指示があったかどうかについては調査対象としていない"といった"抽出"されたワードで報じられていますから、"そんなふうに結論づけたのか!"と心がざわついた人もいると思います。でも全文を読めば、委員会がどんな根拠に基づいてそうした判断をしたのかがわかります。それは当然ながら、新聞やテレビ以上の情報でもあります。
しかも僕たちはそれらにアクセスできないわけではありません。「特別監察委員会 統計問題 報告書」などと検索すれば、数秒でpdfファイルにたどり着くことができるでしょう。文量もそれほど多くないので、スマホで移動中に流し読みしながら、"なるほど、そういう経緯だったのね"とわかるはずです。でも、多くの場合そうしないまま、良い・悪いという話をしてしまう。
「僕は子育て支援に関する厚生労働省のワーキンググループに参加したことがありますが、議論の中では率直に現場の意見を言い合うし、文書については各自で推敲します。そうやって出したものを軽く扱ってほしくはないし、中身を読んで議論をしてほしいと思います。
今回の金融庁の報告書にしても、みなさんちゃんと読んだのでしょうか。麻生大臣は答弁で「冒頭の一部に目を通した。全体を読んでいるわけではない」と答弁した上で、「受け取らない」と言いましたね。ちゃんと読んでよと思います。実務家たちが時間と税金を使って作り上げたものだし、そんなに難しく書いているわけではありません。グラフはもちろん、アメリカの新しい事例の解説も入っています。メディアがよく言う"失われた20年"だとか"政府は対策を急ぐべき"だというテーマについてもファクトで裏付けながら説明しているんですよ。それなのに"2000万円"という抽出され言葉のイメージだけで批判し、すぐに取り下げようとする。本当のことを言っていると思うのであれば。安易な批判には反論してほしいと思います。まさに税金の無駄遣い、知の軽視、ポピュリズムだなと、腹立たしい思いです。
評論家の宇野常寛さんが「遅いインターネット」という考え方を提唱していますが、昨今、インターネットといえばSNS上でのコミュニケーションの話が大半を占めるようになっていますが、時間や空間を超えてアーカイブされた知の倉庫にローコストでアクセスできる。それも魅力だったはずでしょうと。そんなことを思い出しました。
■お金を通して公と個人の関係について語ろう
今回、報告書によって急にクローズアップされた感がありますが、人口減少の話なんて1970年代から始まっていましたし、年金だけでは足りないのではないかという話は総務省の統計でも出ていました。単に先送りしてきただけでしょう、ということを冷静に考えてほしいです。
今は安定政権なんだから、消費税も含めて、本当の話をしてほしいです。それなのに自民党の二階幹事長は「2000万円の話が一人歩きしている状況だ。国民の皆さんに誤解を与え、不安を招いており、大変憂慮している」と語り金融庁に抗議したと話し、「われわれは選挙を控えているので、そうした方々に迷惑を及ぼすことがないように、党として注意しなければならない」と選挙への影響を懸念した。野党はこれが最大の争点だ、という姿勢になっている。与野党は「社会保障と税と一体改革」と言って、ずっと議論してきたはずではないですか。"100年安心"を本当に実現するためには、どんな社会保障政策を実行すべきなのか、今こそきちんと具体策を出すべきです。
一方で、そんな政治家を当選させ、政治の不作為を許してきた有権者の責任の問題もあります。真正面から議論しなければならないことを受け止めてくれる有権者が少ない。言うと負けてしまう。
加えて、格差是正の観点からも、生きる力としての金融教育の必要性がますます高まっていくと思います。お金の話なんて下品、お金だけが幸せじゃないでしょ、なんていうのはこれからの時代、センチメンタルにすぎます。なにも儲けるということだけではなく、税金って、何に使われているの?、なぜ他人を支えることが必要なの?適正に分担されているの?と。公について考える機会にもなります。それなのに、消費税や所得税が上がるという話ばかりで、お金を通して公と個人の関係について語ることが日本人には希薄ですね。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用についてもそうです。知識のない個人が運用するよりも、GPIFに運用してもらったほうがベターなのではないか。ESGといって、環境対策や女性活躍が積極的な企業への投資を積極的に手がけたり、記者クラブをフリーランスに開放するなどの取り組みも行っているんですよ。でも、言われるのは上がった・下がった、いくら溶けた、ということばかり。これも報告書を読んでほしいと思いますね。(12日、談)
■プロフィール
1977年生まれ。ジャーナリスト・キャスター。NPO法人「8bitNews」代表。早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。立教大学卒業後の2001年、アナウンサーとしてNHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て2013 年4月、フリーに。現在、AbemaTV『AbemaPrime』(水曜レギュラー)などに出演中。
■Pick Up
・【Z世代マーケティング】ティーンの日用品お買い物事情「家族で使うものは私が選ぶ」が半数以上 | VISIONS(ビジョンズ)