プロジェクト立ち上げ系、自己啓発系、一緒に遊べる系などの「オンラインサロン」が林立する中、ビジネスマンたちから大いに注目を集めるのが『田端大学』(月額9800円)だ。主宰する株式会社ZOZOの田端信太郎執行役員(44)は、昨年出版した自伝的著書『ブランド人になれ!会社の奴隷解放宣言』(NewsPicks Book)の発行部数が2万部を超えるベストセラーにもなった人物だ。
AbemaTV『AbemaPrime』では、この「田端大学」の実態を探るべく、潜入取材を敢行した。
■「単なる"仲良しクラブ"みたいなのはクソ」…参加初日からマジレスの嵐
「自分の本のアフターサポートみたいなつもりで始めたところもあるが、会社で相手にされないような人たちが"お互い会社に評価されてないけど、ここではイケてるよね"みたいに傷を舐め合うような場にはしたくない。そういう、単なる"仲良しクラブ"みたいなのはクソだと思っている。むしろ、"会社がヌルいな"というようなことを感じている人に対して、僕が部活の顧問みたいに、ある種の叱咤激励をしてやろうじゃないかという感じのもの」。
月額9800円という値付けは堀江貴文氏のオンラインサロンを参考にしつつ、スポーツクラブのような感覚で決めたという。「お洒落な、意識高い、嫌な言い方すると、ビジネスマンとしての"脳味噌のスポーツクラブ"みたいな。パーソナルトレーナーに追い込まれ、プルプルしながらギリギリのところまでバーベルを持ち上げるウェイトトレーニング、そういう感じ」。
「田端大学」について、そう説明する田端氏。本の担当編集者でもあり、自身もオンラインサロン『箕輪編集室』を主宰する幻冬舎の箕輪厚介氏は「あらゆるサロンの中で最もコミットメントが高い。会員の成長とか、アウトプットとか、フィードバックをちゃんと見ていて、学校っぽい。箕輪編集室はそういう場所じゃないから、俺のことを支える気があるなら俺の所来い、俺からなんか学びとろうって人は田端大学に行ってくれって感じ(笑)」と評価する。
「スマホがあればどこでもマジレスできるので、1日に2、3時間はやっている。仕事なのかと言われるとよく分からない」。そんな田端氏の会員に対する"コミットメント"は、加入した際に約200名の会員がいるFacebookグループ内で行われる自己紹介の段階から炸裂する。
「初めまして。株式会社美溢る、代表取締役、渡部有未菜こと、ゆるみな。です。"人格を持つビール"をプロデュースしています。人脈とビジネススキルを求めて入りました」。ある女性会員がそう投稿したところ、田端氏はいきなり「"人格を持つクラフトビール"とやらって、誰がどのように、それで喜ぶのですか?1本いくらでお売りになるおつもりですか?」と返信。女性が「女性がパートナーからの愛を感じて喜びます。販売価格は500ml 2160円の予定です。」と答えると、田端氏はさらに「なぜ喜ぶんですかね????なぜ愛を感じるの?マカロンとかもらったほうが嬉しいわ!という女性の方が多そう。ギフト用なら、2160円は中途半端で安い気がします。」と質問を重ねた。
また、「ここに入ってツイッター1000人目指す」と宣言した会員には「あなたに何のメリットがあってフォローするんですか?」、とある会社の「最年少執行役員」ですと名乗った会員には「よく知らん会社の"最年少執行役員"とかどうでもいいんですよ」と返信。他にも「30過ぎて自分探しとか恥ずかしいですよ。」「クソどうでもいい!それ恥ずかしい!」といった"マジレス"に溢れていた。
さらに会員の質問にその場で答えていくライブ配信でも、「自己紹介しくじったとか、全然気にしてない。誰もあなたにそんな興味ないの。はっきり言って。勝手にしくじったとか自意識過剰。しくじったとかもう書いているやつがダメ!」「年収の妥当性なんて、客観的に偏差値が決まるみたいに年収が決まると思っているのは大間違い」など、厳しい言葉をかけ続けた。
サイバーエージェント新卒入社3年目で、今回の取材を担当したAbemaTVの杉田哲也ディレクターがキャリアプランについて「やりがいはあって楽しいんですけど、今AbemaTVが好調なので、自分の市場価値が実力以上に盛られている気がして…」と相談すると、田端氏は「特集してくれたのはありがたいけど、世の中から"あの特集、杉田さんのなの?"と言われるくらいでないと、有利な転職はできないと思うよ」と一刀両断にしていた。
■「リアルでソシャゲをやっているような感じ」…"田端砲"で人生が変わったと話す会員も
こうした"叱咤激励"について、田端氏自身は「SMクラブのS嬢をやっているみたいなもので、"マジレスをしてさしあげる"のが僕の仕事、みたいな(笑)。こういう事を言うと語弊があるかもしれないが、"コンプライアンス"とか"働き方改革"といったものの反作用として、上司や先輩が若い人に本音の意見をぶつけることのリスクが高まっていると思う。優秀な人ほど、上司が自分の顔色をうかがって、本音を言ってくれていないんじゃないかと気づく」と分析する。
では、会員たちはどう感じているのだろうか。月に一度の定例発表会で聞いてみると、「めちゃめちゃ嬉しかった。女性という立場にいると、"頑張っていて偉いね~"と言われてばかりで、否定してくれる人がいなくて。ここに入ったら、自分が見逃している部分を洗い出してもらえるのかなって。だから田端大学に入っている人、皆ドM説がある(笑)」(女性会員)、「会社の中である程度上に行っちゃうと、そんなにマジレスを食らうことがないので。それが続けている理由」(男性会員)と、多くの会員が楽しみながら参加しているようだ。
また、会員同士が横で繋がり、田端氏のいない場所でも成長を感じることができるのも魅力のようだ。ピラティススタジオを経営する会員の関清香氏が案内してくれたのは、六本木某所にある会員制BAR「プラトー」。"田端大学の部室"と呼ばれるほど、客は会員ばかりで、夜な夜な集まり、勝手に情報提供や仕事の紹介をし合う。田端氏はそんな会員たちがタダ飲みできるよう、月20万円をチャージしているという。「原価がないのでほぼそのまま利益になっているが、あまりに利益率が高いので、ちょっとは還元しないといけないなということで始めた飲み代補助制度」。
IT企業で管理職を務める高杉浩平氏は「仕事が生まれた。会員がやっている会社の営業代行をしている」、東京大学を卒業、今秋就職予定だという清原隆志氏は「いま書いている本について"こうすればもっと売れるんじゃないか"とか、作戦会議できる場所みたい。オンラインだとただの意見出しになっちゃうけど、ここ本当に親密に話し合える場所」と話していた。
こうした自然発生的な動きについて田端氏は「嬉しい。ありがたい。有料メルマガの場合、読者同士はほとんど交流しないが、オンラインサロンならそれが自然と生まれる。僕と参加者たちという、1対Nの繋がりだけじゃなくて、参加者同士の横の繋がりが価値を生むので、それを促進するよう、たまり場を作っている。年代も業界も違ったりするのがすごく良いみたいだ」との見方を示す。
さらに「田端大学に入ったことで人生が一変した」と話すのが、会社員の川波佑吉氏だ。2児の父でお小遣いは月1万円、いわゆる普通のサラリーマンだったが、入会早々、何気なく撮影した子どもとの写真を田端氏がリツイートしたところ、瞬く間に8.7万いいね!を獲得した。「"田端砲"といって、田端さんが独断と偏見で面白いと感じた投稿をリツイートする。するとブワーっと広がって、色んな人の注目が集まる」。川波氏のツイートはフォロワー数20万を超える田端氏のリツイートのおかげで様々な業界の人たちの目に止まり、ウェブメディアのライターやプロバスケチームのSNSアドバイザーなどの依頼が舞い込むようになった。今ではフォトグラファーのマッチングサイト「AMI」で副業も行う。「それまではモンストに小遣い1万円をほぼ全て投じていたのが、代わりに面白い遊び場を見つけさせてもらった。リアルでソシャゲをやっているような感じ」。
■「トップ5%くらいの人は中途採用をしていてもなかなか出会えないくらい優秀」
オンラインサロンを1年ほど続けてきた感触について田端氏は「250~300人くらい、1学年というか、顔を覚えられる人数が僕のやり方の限界だろうなという感覚がある。月に10%くらいの人が辞めているので、単純計算すると半年経てば半分入れ替わることになるが、入れ替わる層と、そうではない層の2つに分かれている感覚がある。全会員のうち、見ているだけの人が半分くらい。イベントにも来る人は3分の1くらい。発表する人がそのさらに半分。ただ、お金を払って見ているだけの人たちに対してどう振舞えばいいかが未だに分からない。そういう人たちも一定程度は出てくると思うが、ありがたい、おいしいなという気持ちと、何もしなくていいのかという気持ちで複雑。田端大学では起きていないが、他のサロンではセクハラのようなことがあったと聞いた。何百人という会員がいたら、そういうこともあるかなと思うし、そこはすごく気を遣っっている。コントロールはできないが、結果責任は道義的にはある」と話す。
そんな田端大学は、自身にとって「サードプレイス」なのだという。
「スターバックスに怒られないかな(笑)。会社でも家でもない第三の居場所かしら。最初は"教祖ビジネスお疲れ様"とか"ちやほやされて、金もらって気持ちよくなっているんだろ"とか、嫌味っぽいことも言われた。でも、僕にとっても思いのほか発見がある。会員が返してくれることで得られるものも多いし、トップ5%くらいの人は中途採用をしていてもなかなか出会えないくらい優秀。そういう人も田端大学に入ってくれるのは、今の会社を辞めなくてもいいからだと思う。年収が下がったらどうしようとか、家のローンが、とかを考えずに、面白い人、優秀な人同士が出会う。プロジェクト、お金がマッチングできる、そういうことができるようになってきたという問題意識が底流にある」。
他方、「Twitterが典型だが、拡散されたり、検索で見つかったり、2chのような掲示板に貼られるようなところでの発言が炎上しやすくなっているので、普通の人はほとんど無理。でもオンラインサロンはリンクを貼れないし、Googleが入って来られない。いわばGoogleで得られない知識が得られる場だと思う」と話すが、自身は「誰か、高額納税者党を作ってほしい。少数派を多数派が弾圧する衆愚主義じゃないか」「おーい、ブスども聞いているか?美人の告白ポエムだぞ!」などと挑発的なツイートを繰り返し、『ブランド人になれ!』でも「炎上」することの重要性を訴えてきた。
そこで番組の認知拡大のため日々Twitterに投稿しているテレビ朝日の平石直之アナウンサーが「番組を知ってもらうためにも拡散力を高めたい。Twitter上での存在感を高めたい。番組告知、宣伝が多すぎてダメだなと思う。でも、サラリーマンを20年以上やっていると、勤務時間中にツイートするのに抵抗もあって…」と相談。
すると田端氏は「この手の悩みは100万回くらい聞いてきた。フォロワー3000人くらいというのは、炎上すると会社をクビになるけど、誰も拾ってはくれないという、一番中途半端なゾーン。万を超えると、そうはならない。あなたがフォロワー数を伸ばしたいというのはどうでもよくて、平石さんをフォローする動機は何か?ということ。会社を辞めても持って行けるのがTwitterアカウントの良さ。会社で上司に従っていれば仕事した気になってんのかよっ、ていうのがある。アナウンサーは生身の人間で、腹話術でもロボットでもない。生身の人間としての平石さんがそこにいなかったら、わざわざチャンネルを合わせる理由がないし、ツイッターなんか見ない。特技のエアギターの動画でも載せた方が良い。そうすれば今よりも絶対に増える。真面目なだけじゃだめなんです。僕にとって、会社は看板じゃない。エアギターで言えば、それこそギターアンプであり、ステージ。会社はありがたいものだし貴重だけど、染まるとか、看板を背負うものじゃない。そこに乗っかって暴れるべき場」とアドバイス。平石アナは「田端大学、入ろうかな…」とコメントしていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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