「新聞記者を29年やっているうち、13年は大阪で事件記者をやっていたんですよ。当時は住専問題などばっかりで、付き合っていたのが"闇の紳士"ばっか。そうすると服装が似てきてしまう(笑)」。
産経新聞の前政治部長で、永田町では"黒シャツ"とも呼ばれる政治ジャーナリストの石橋文登氏。
「政治家は全員に一つだけ共通点がある。それはキャラが濃いということ。そうでなければ有権者10万人に名前を書いてもらえないから。右もいれば左もいるし、バカもいるし賢い奴もいる。セコい奴もいれば大らかな奴もいるが、とにかく全員、キャラが濃い。そしてキャラが濃い奴にはキャラが薄い奴は見えない。水木しげるのマンガの背景にいるメガネのおっさんみたいに、全く気付かれない。だから黒いシャツを着ているだけで"なんだこいつ"と思われて得だ(笑)」。
もう一つの異名が、"安倍総理に最も近い記者"だ。これについては「周りが言っているだけではないか」と話す。
「安倍総理が官房副長官時代をやっていた頃からの"番"なので、随分長い。政治家と近いというのは、嫌なことも含めて物事を言えるような関係になるかどうかではないか。安倍総理は私が直言しても賢いので即答はしないし、不愉快なことはムッとしているが、意識に残っていたりはする」。
■”秘密のスイッチ”が入れば解散も
そんな石橋氏は、衆院解散の可能性について「はっきり言うと、本人(安倍総理)にやる気がない。なくなっちゃった」との見方を示す。
「去年11月、シンガポールでプーチン大統領と日露首脳会談をやって、かなり進んだ。ただ、本来だったらG20前のこの時期に日露首脳会談をやっていたし、2島返還・平和条約締結みたいな話になったら国民に問わないといけない。本人も解散について色々とシミュレーションしていたみたいだが、今はトーンが落ちてしまった。年金の2000万円の問題で支持率がちょっと下がっているが、それでも支持率は高い。自民党の極秘の世論調査でも数字はだいぶ良いみたいだ。衆参ダブルで打って参院の議席が上がるんだったらやるメリットがあるがやっても変わらないかもしれないし、むしろ衆院は議席を減らす可能性があるし、大した大義もないのにそのリスクを負うのもどうかなと考えているのではないか。また、解散のカードを残しておきたいという考えもあるだろう。"ポスト安倍"の名前は色々上がるがが、真剣に、政権をかけてまで憲法改正をやろうと考えているのは安倍総理しかいないし、おそらく将来も出てこない。自分の政権の間に憲法改正の決着をつけるためには、衆院選のカードを1枚取っておきたい。憲法改正の国民投票の前に、解散して民意を聞くこと、そして日ロ平和条約、日朝国交正常化でカードを温存したい思いがあると思う」。
一方、石橋氏自身は昨年末、安倍総理に「衆参ダブル選挙をやるべきだ」と進言したのだという。
「立憲民主党の枝野さんが消費増税反対・原発ゼロ・辺野古移設反対の3条件に賛成する人は入党させると言った。あっと思った。民主党政権の経産相として原発を動かそうとしたのは枝野さんだし、民主党政権は消費税率を引き上げも決めた。辺野古移設も今の所にもう一度戻した。つまりこれって枝野さんにすれば自己否定に近い。それなのになぜこの3条件を挙げたかと言えば、参院選の1人区で共産党が候補を出さず、立憲民主党の公認候補を支援してくれるから。つまり、事実上の野党一本化だ。32の一人区で自民党が撃破されたら安倍政権としては大負けだ。それが衆参ダブル選になれば、レゾンデートルを賭けている政党としては衆院の選挙区では野党共闘の候補を立てることはできない。だから自民党にとっては解散した方がメリットが大きいのではないかと。消費増税はやるつもりだろうし、増税した後はもっと衆院選を打ちにくくなる。また、安倍総理にとっては総裁任期が2021年の9月で、衆院の任期が10月だ。ここで衆参ダブル選をしなければ、次の総理・総裁は就任した瞬間に解散をすることになる。衆院の任期が近くなれば、生き残りを図りたい議員たちは与野党ともに平常心を失ってしまう。そうなれば総裁選も"小泉進次郎さんだ"というような"ポピュリズム"になる。党の統制が取れない人気投票になり、崩壊の一歩手前のような状態を避ける意味でも、今のうちに衆参ダブル選をやっておいた方がいい」。
その上で石橋氏は「安倍総理の背中には秘密のスイッチがあって、パチンと入ると暴走し始める」とも話す。
「2年前の秋も、それまで全然解散する気がなかったのに解散した。当時、モリカケで支持率が下がり、とても衆院選をやる時期ではなかった。しかし朝鮮有事もかなりの確率であるぞとなったので、ここで解散を打たないと大変なことになるということで決断した。その前も迷っていたが、消費税10%を延期するということで解散を打った。だからどこかの時点でパチンとスイッチが入ると別人になってしまう。今はやる気ないがもしかしたら入っちゃうかもしれない」。
■党首討論、野党は攻めきれないだろう
そして、今日の党首討論がその「スイッチ」を押す可能性もあるのだという。
「おそらく野党は消えた年金の再燃を狙って2000万円問題を突いてくるだろうが、安倍総理側も準備している。"あなたたちが決めた話でしょ、これは"と。そうなれば野党にとってはマイナスではないかと思うし、悪し様に言って挑発した結果スイッチが入り、"解散だ"と言い出したら困ると考えているだろう。立憲民主党が参院では首相の問責決議案を出すが、衆院では内閣不信任案は出さないというのも、これを大義として解散されたら困るからだ。もし追い詰めるとしたら消費税だ。これは安倍総理も困るだろうが、おそらくその話もやらない。ブチッと切れて解散するかもしれないからだ。結局、党首討論で安倍総理をそこまで追い詰めることができるのだろうかと思う。ただ、野党は政権を取りにいかないと存在意義を問われる。安倍さんにとって年金問題がトラウマであるように、元民主党の人間にとっては政権を取ったことがトラウマになっている。だから野党第1党を維持する意味でもあまり攻め込もうとしないのではないか」。
また、安倍総理の総裁4選について、石橋氏は「考えてはいないと思う」と指摘する。
「安倍総理が辞めた後、自民党もガタガタくると思うが、4選しようとすれば求心力が落ちてしまうと自分でも分かっている。政調会長の岸田さん、経済財政再生担当大臣の茂木さん、令和おじさんとして注目を集めている菅さん。この辺りが候補だ。安倍総理としては、自分が敷いてきた路線を踏みにじられるのが一番嫌なので、野田聖子さん、石破茂さんは違うと思う。最大派閥は清和会、事実上の安倍派だ。安倍さんが次はこの人だ、というので流れが決まる。最後の最後まで黙っていて、求心力を維持するのではないか。ただ、岸田氏が半泣きで安倍さんの3選支持を表明し、自分の不出馬を表明した時、安倍さんは結構怒っていた。"積極的な支持はうれしいけど、消極的な支持はなんの意味もない"と言われた岸田さんはしゅんとなっていた」と明かした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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