大手化学メーカー「カネカ」の男性社員が育児休業からの復帰直後に引っ越しを伴う異動を言い渡され、最終的に退職を決意したことが注目を集めている。
都内で開かれた男性の育休を推進するイベント「さんきゅーパパ緊急フォーラム」を取材すると、千葉銀行や日本生命が行動計画書を提出してもらった上で育児休業を100%取得できる取り組み、ユニリーバ・ジャパンやサイボウズは半日の時短勤務にすれことで育休期間が倍になる取り組みを紹介していた。主催したNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の安藤哲也代表は、男性育休の制度を設けることが、企業側のメリットにもなると指摘する。「経営戦略として男性の育休や多様性の推進をやっているところが結果的に働きやすく、良い人材が採れる会社になっていると思う」。
厚生労働省では男性の育児参加を後押しすべく、2010年に「イクメンプロジェクト」を発足。当時の長妻昭厚生労働大臣は「日本中でイクメンという方が増えて、そういう社会になっていけば本当にありがたいと」と話していた。その甲斐もあってか、男性が1日あたりで育児にかける時間は30年前と比べると30分ほど伸びているという。
しかし街で聞いてみると、「私の周りには育児休暇を取得した男性はいない」「あまり聞かない。あるんだと思うが、正直聞かない」との声が聞かれるが、子育て中のママたちからは本音は「やっぱり普通の生活と違う。全く寝れないし、自分のこともできないし、家事もできないし 、体もボロボロな状態、取れるものなら取って欲しい」「取れるんだったら1週間でも2週間でもいてもらったほうが」と、切実な本音が。
実際、厚生労働省による育児休業取得率のデータを見てみると、働くママの80%以上が育児休業を取得しているのに対し、パパはおよそ6%と少数派なのが実態だ。
今年3月、ライターの村橋ゴローさんの「『子育てやめます』妻に宛てたいつの手紙。ボクはあの時、育児うつになっていた」という記事が注目を集めた。ライターという、自宅で作業ができ、時間の自由もききやすい職業であることから、結婚以来、家事を担ってきたという村橋さん。妻がフルタイムで働いているということもあり、子どもが生まれてからは育児全般も担ってきたという。
「四六時中、子どもと一緒にいて思ったのが、世の中で"イクメン"という言葉がもてはやされているが、それは自分の旦那にイクメンであって欲しいだけで、街中にいる子育て中のおっさんには結構冷たいと思う。公園でもママ友の輪に入れず、すごく悩んだ。例えば砂場では子ども同士の道具の貸し借りのケンカが起きるので、まず保護者同士が仲良くする必要がある。でも、若いママに"こんにちは"と挨拶すると、"何このおじさん、なんで昼間の3時に公園にいるの"という感じで、ギョッとされたりする。挨拶はできても、話はできなかった」。
そしてある日、村橋さんは"爆発"してしまう。「始まった新しい連載が軌道に乗らなくて、寝る間もないくらい忙しかった。それでも2か月、3か月と踏ん張って、家事も育児も全部やってたら、ある日…。非常に辛い状況になり、子どもに対しても睨みつけたり、怒ってしまったり。それで妻に対し"しばらく子育てをやめる"と宣言した。このぐらい自分でやんなきゃいけない、できるはずだという義務感と意地があった。奥さんも何か溜まっているんだろうな、くらいには思っていたようだが、相談しようという発想がが湧かなかった」。
妻や子どものことが"憎い"とすら思うようになってしまった村橋さんは、仕事部屋に籠もるようになっていった。「仕事部屋に布団を持ってきて、"家庭内引きこもり"。自分が怖くなって引き下がっていた状態で、会話も一切なかった。奥さんはいつものように"おはよう"とか"行ってきます"と言ってくれていたし、文句も言わず家事をこなしてくれ、いつも通り明るい感じでいてくれたので、それがすごく楽だった。(奥さんが)"待ってますとも言ってくれたので、それで初めて"逃げていいんだ"と。2、3週間経つと、やっぱり子どもと遊びたいっていう思いがふつふつと湧いてきた。同じタイミングで子どもが部屋に入ってきて、"パパ遊ぼう"と言ってきてくれた。"ごめんね"と言うと、"いいよ、遊ぼう"と。それで本当に救われた。今は本当に子どもと遊ぶのが毎日楽しくて、保育園が終わって4時、5時から一緒に遊んで、銭湯に行っている。そうすると、奥さんは自分1人の時間が2時間半くらい作れる。それもあって、お互いにいいかなと。今は家事を7~8割くらい自分がやっている。追い詰められたら奥さんにちゃんと手伝ってもらうようにしている。世の育児うつ一歩手前のママも、僕のように抱え込んでいる人がいるのかなと思う」と語った。
自身も2歳児の子育て中で、育休などの労働問題に詳しい鮫島唯弁護士は「弁護士の夫は働いていて、私は育休だった。しかも"お前は育児をするために休暇をとっているのだから、育児はお前の仕事だろ。俺は働いているぞ"と言われた。そもそも育児"休暇"という名前がダメだと思う。こっちは休んでいるわけではなく、24時間働いている。休暇じゃなくて育児労働だ。ママ友からも育児うつとか、子どもをかわいいと思えない、笑えないといった相談を受けることは多い。弁護士として、というよりも人生相談という感じになっている。私の周りでも育児をしている男性は少ないが、村橋さんのように1人でやらなきゃ、頑張らなきゃ、完璧にやらなきゃダメなんだ、という思いがどうしてもあると思う。でも、それだと本当に辛くなるし、子どもが元気で生きていればいいやくらいにハードルを下げてしまえばいいと思う。レトルト食品をあげても死なないし、笑顔でいればそれでいい、くらいの気持ちでいいのではないか」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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