“活動休止”とはある意味で、事実上の解散や引退を示唆する常套文句だ。
何年もの時を経て、奇跡的な復活でファンを沸かせるアーティストがいる一方で、そのほとんどの場合が、二度と陽の目を拝むことなく、第一線の舞台から退いてしまう。アスリートの世界ではそもそも、「活動休止」のワードを聞くこと自体が少なく、「現役引退」していってしまうのが普通だろう。
しかし、Fリーグに4カ月もの活動休止から復活を遂げたトップ選手がいる。バサジィ大分の仁部屋和弘だ。チームでも、日本代表でも10番を背負ってきた“日本のエース”は2018年5月、シーズン開幕前に「家庭の事情」を理由にピッチを離れたが、復帰した今は、以前の輝きを取り戻しつつある。
チームでも日本代表でもナンバーワンを目指す
「(復帰して)最初に見たときは素人かと思った」
伊藤雅範監督は昨シーズンの試合後に、そう漏らしたことがあった。実際、復帰後の試合で見せていたパフォーマンスは、日本最高峰のリーグを戦う選手にふさわしいものではなかった。
中学時代に大分トリニータU-15でプレーして、高校時代には10番を背負って柳ヶ浦高校を創設以来初めて全国高校サッカー選手権に導いた。フットサルと出会ってからもその能力が色あせることはなく、ミゲル・ロドリゴ前日本代表監督をして「日本で一番うまい選手」と言わしめたほどだ。圧倒的なテクニックを武器に、決して奪われることのない足元の技術とドリブルのうまさで、日本フットサルをけん引し続けた。
一方で、仁部屋は精神的な弱さを指摘され続けてきた選手でもあった。
日本国内では、唯一のプロクラブである名古屋オーシャンズに続く、プロに近い環境を持つとされる大分のエースとして、打倒・名古屋を期待されながら、あと一歩のところで勝ち切れないシーズンが続いた。日本代表でも、大事な試合で結果を残せないまま、不甲斐ないプレーを見せてしまうこともあった。
そうしたクラブや代表チームでの不振が、仁部屋への「戦う姿勢」を問う流れにつながっていたのだ。
しかし仁部屋は、そんな周囲の声を否定する。
「戦うって、いろんな“戦う”があると思います。声を出すとか、結果を出すとか、1対1で負けないとか。でもとにかく、勝てばいいと思っています。それは(日本代表の)ブルーノ監督にも言われてすごく腑に落ちたのですが、そういう部分では、僕にも強い気持ちがあると思っています」
仁部屋はピッチではあまり気迫を前面に出すようなプレーを見せない。ただそれは、彼の物腰柔らかな性格がそう見せるだけであって、彼自身の胸の中にはいつでも闘争心があった。
今シーズンの彼のプレーを見ていれば、そのことがよく分かる。
第3節の名古屋オーシャンズ戦の2-2で迎えた25分、右サイドで相手の股を抜くドリブル突破から数的有利を作り出し、味方に預けたボールの折り返しを決めて、3-2と勝ち越す決勝弾をもたらした。この勝利は、王者・名古屋に国内リーグ戦で554日ぶりに土をつけた試合でもある。「勝てばいい」と語った仁部屋の真骨頂であり、ゴールへ、チームの勝利へと向かう闘志の表れにほかならなかった。
今シーズン、大分は5試合を終えて唯一の5連勝を飾り、名古屋やシュライカー大阪を抑えて単独首位に立っている。好調のチームを支えるのは、紛れもなく仁部屋だろう。「今シーズンはもう、点を決めて、チームを勝たせることしか考えていない」という言葉通り、ここまで9ゴールを挙げて得点ランキングでも1位に立つなど、目に見える結果でチームを先頭に立って引き上げ続けている。
「正直、2位でプレーオフに行くことは興味がない。リーグ1位でプレーオフを迎えたい。僕たちにはそれができることを示して、引っ張っていけるチームにならないといけない」
活動休止明けのパフォーマンスからすれば「完全復活」といっても差し支えないだろう。有言実行のプレーには、鬼気迫る覚悟を感じ取ることができる。元来、シーズンを追うごとにキレが増していくタイプの選手でもあるからこそ、この先のパフォーマンスに期待が高まるばかりだ。
「個人的には、リーグ優勝して、日本代表でもアジアで一番の選手になる」
そう意気込む姿にもはや、活動休止で戦列を離れていた選手を想像することはできない。
文・本田好伸(SAL編集部)
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