トランプ大統領の日米同盟に対する言及が波紋を広げている。25日、ブルームバーグが「日米安保条約の破棄の可能性を側近に漏らした」と報じたのを皮切りに、G20出席のために来日する直前にはトランプ大統領自らFOXニュースのインタビューに「日本が攻撃されたら、我々は命とコストをかけて第3次世界大戦を戦うことになる。だがアメリカが攻撃されても、日本はアメリカを助ける必要がない。彼らはソニーのテレビで、その様子を見ているだけだ」と不満を漏らした。
さらにトランプ大統領は29日の記者会見で、同盟からの離脱は考えていないものの「不公平な合意だ」と発言、改定について安倍総理に伝えたことを明らかにしている。
元アメリカ外交官で在沖縄総領事、そして国務省の東太平洋局・日本部長などを歴任したケビン・メア氏は28日放送のAbemaTV『AbemaPrime』で「日米同盟は不公平であるというというイメージは何十年も前からあったが、先日のトランプ大統領の発言は80年代くらいの、すごく古い考え方だ。トランプ大統領はTwitterで色々な発言をするので、そんなに真剣に受け取らない方がいいと思う。日本には憲法9条、専守防衛の基本政策があるし、日米安全保障条約の6条で、アメリカの役割は日本の防衛に寄与し、日本の役割はただ一つ、基地を提供することと定められているし、安倍政権の下では脅威への対処の仕方も現実的になってきている。特に集団的自衛権を行使できるようになったことは、多くの専門家や政府関係者も高く評価している。両政府は明らかに日米同盟を支持しているし、もちろんトランプ大統領も両国にとって不可欠なものあることはよく分かっていると思う。ブルームバーグの記事は、貿易交渉に参加している人がそれを利用して圧力に使おうと考えたのではないか。80年代にもアメリカ政府内で同じような議論があった。米軍が撤退すべきとは思っていないが、交渉のカードとして使うべきだという意見に対し、国務省、国防総省が抑えた。今回の首脳会談でも取り上げる必要はなかった」と話す。
今後についてメア氏は「日米安保、日米同盟がなくなるわけがないし、むしろ強化するしかないと思う。日米両政府は、特に中国の脅威にそれぞれ独自に対処できるとは考えていないからだ。中国の狙いは、はっきり言えば南シナ海と東シナ海での覇権だ。鳩山由紀夫氏は"日米中が正三角関係であるべき"と言ったが、ありえないことだと思う。だからアメリカ政府から見れば安倍政権がやろうとしている独自の防衛能力の向上はいいことだし、"日本が再び軍事化する"とか、"アメリカが必要ではなくなる"というのは馬鹿らしい見方だ。集団的自衛権を行使していくような政策になったため憲法を改正する必要はないと思う。ただ、子どもたちの教育を考えた時、憲法第9条の言葉と現実にすごく矛盾がある。"日本は平和国で軍がない"と言われるが、実際は護衛艦、戦闘機ももっているし、自衛隊は強い。政治的に難しいというのは分かるが、矛盾の解消のためには改正が必要だ。また、日本の防衛予算はGDPの何%か、ということが良く議論されるが、それは間違っていると思う。まず、どういう脅威があり、それに対処するためには何が必要であるかを考え、それに対して適当な予算をつける、ということ。"思いやり予算"という言葉も私は大嫌いだ。確かにアメリカの同盟国の中で日本の予算が最も大きいが、憲法9条があってできないことのある日本が国際安全保障にいかに貢献できるかを考えたときに、駐留経費を円立て負担する、"接受国支援"だ。具体的には、在日米軍基地で働いている日本人の従業員の給料や、基地内の建設経費や光熱水費などだ。来年から、その特別協定の5年に一度の更新の交渉が始まるが、トランプ大統領の"今の150%は払うべきだ"というような発言は意味がない議論だ」と指摘した。
前東京都知事で国際政治学者の舛添要一氏は「日本が湾岸戦争の時に1兆円近く金を払ったのに、誰も感謝しなかったということがあった。やはり血と汗を流すということがアメリカ人の心情にとっては大事だということだ。しかし、(ケビン氏の発言に)付け加えれば、第2次大戦直後の考え方を引きずっていると思う。つまり、連合国と戦った日独伊3か国が軍事的脅威にならないよう、自分のところの同盟に引き入れ、不公平な状況を作った。"お前らがやられたらウチの兵隊が行って血が流れる。ウチがやられて何でお前来ないんだ"という話は心情的には分からないこともないが、日本国憲法を知らないと思うし、ちょっと複雑な思考に耐えられないのではと思う。普通ならブルームバーグの記事が出たときにトーンダウンするはずが、FOXテレビで同じことを言ってしまった。菅官房長官は"何も聞いていない"と言っていたので、日本政府は恥をかいた。しかもG20でオーストラリアの首相にも同じような発言をした。3連発だ」とした上で、「トランプ流の乱暴な分かりやすい言葉でいうと、"世界最強の軍隊を傭兵として6000億円弱で雇えるというのは、こんな安いものはない"という考え方もできる。しかし、いくら仲が良くても、それがいつまでも永遠に続くものではないという認識がないといけないと、外交の先輩たちに教えられたことがある。歴史を振り返ると、日本は1902年に、当時は今のアメリカみたいな地位にあったイギリスと日英同盟を結んだ。おかげで日露戦争にも勝てたし、小学校ではイギリス国歌を歌っていたくらいだった。しかし第一次大戦後、ワシントン条約の体制ができると、日英同盟はなくなってしまった。今回のトランプ発言が良かったのは、そういうことを考えるきっかけになった」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶放送済み『AbemaPrime』は期間限定で無料配信中
■Pick Up