いよいよ真打ちの登場だ。持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算という、プロ棋士でもほとんど経験がない超早指しルールの中で、圧巻の強さを見せた藤井聡太七段(16)が、連覇を目指してAbemaTVトーナメントに帰ってくる。公式戦でも全棋士参加の朝日杯将棋オープン戦を連覇しているだけに、まさに大本命だ。
将棋界の棋戦は大きく8つあるタイトル戦と、その他の一般棋戦に分けられる。タイトル戦は予選から持ち時間が数時間あるものが多いのに対し、若手棋戦を除く一般棋戦はいわゆる「早指し戦」。タイトル保持者や賞金ランキング上位者などが出場する「将棋日本シリーズ」においては、持ち時間10分(考慮時間5分)だ。
持ち時間が短くなるほど必要と言われるのが瞬発力。この点において、将棋界では若手が有利と言われている。スポーツ界における反射神経のように、限られた少ない時間の中で、無数の選択肢から、これと思う一手を選択し続けるスピード勝負は、若い脳が勝るという理由からだ。長時間対局でも、トップクラスの棋士たちと台頭に戦う藤井七段は、今月で17歳。持ち時間40分の朝日杯連覇、さらに持ち時間5分のAbemaTVトーナメント優勝という結果を見ても「最速最強」といっても過言ではない。
当の本人は、早指し戦について「集中力」「決断力」という言葉を繰り返す。AbemaTVトーナメントの印象には「(前回は)やはり対局を重ねるごとに持ち時間の特性が分かってきて、特に本戦からは決断よく指すことができたかなと思います。本当に集中力と決断力が求められるかなという風に思っています」と答えた。長時間対局であれば、むしろ「集中する・集中を切る」を繰り返し、半日にも及ぶ対局をこなす。ただ、平均20分ほどで終わる同棋戦の対局では集中しっぱなし。まさに息継ぎなしで短距離を泳ぎ切るようなものだ。この状況で、普段の実力を発揮できるからこそ、藤井七段が早指し戦において敵なし状態になっている。
今回はシード棋士として本戦から出場し、初戦の相手は増田康宏六段。前回大会でもぶつかり、この時は2-0のストレート勝ちを収めた。ただ「東の天才」と呼ばれるほどの棋力の持ち主で、年齢も21歳と若い。好勝負必至のカードだ。「増田六段は非常に攻めが鋭い。その攻めを警戒しながら指したいと思います。連覇を目指して一局一局戦いたいと思います」と抱負を述べた。史上5人目、最年少でのプロ入りから、あと3カ月で3年になる。将棋も話しぶりも確実に成長した藤井七段が、再び「最速最強」の頂きに向けて進み出す。
◆AbemaTVトーナメント 将棋界で初めて7つのタイトルで永世称号の資格を得る「永世七冠」を達成した羽生善治九段の着想から生まれた、独自のルールで行われる超早指しによるトーナメント戦。持ち時間は各5分で、1手指すごとに5秒が加算される。羽生九段が趣味とするチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1回の顔合わせで先に2勝した方が勝ち上がる三番勝負。予選A~Cブロック(各4人)は、三番勝負を2回制した棋士2人が、本戦への出場権を手にする。本戦トーナメントは8人で行われ、前回優勝者の藤井聡太七段、タイトルホルダーとして渡辺明二冠がシードとなっている。
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