「ファミリー」「口約束」「不透明なギャラ」吉本会見で浮かび上がった業界の”古い体質”、デーブ・スペクターやカンニング竹山らの見方は
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 宮迫博之さんと田村亮さんによる"告発"を受ける形で22日に開かれた、吉本興業の岡本昭彦社長らによる緊急記者会見。5時間以上に及んだ質疑の中で浮かび上がったのは、発端となった"闇営業問題"に留まらない、芸能界を取り巻く様々な課題だった。同日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、こうしたテーマについて1時間超にわたって議論した。

出演者(50音順)

 池澤あやか(タレント・東宝芸能所属)

 カンニング竹山(お笑い芸人・サンミュージック所属)

 佐藤大和(弁護士・レイ法律事務所)

 瀬沼文彰(西武文理大講師、元吉本興業所属)

 デーブ・スペクター(放送プロデューサー)

 夏野剛(慶應義塾大学特別招聘教授)

 箕輪厚介(編集者・幻冬舎)

 ※司会進行:平石直之テレビ朝日アナウンサー)

■「"ファミリー"というのは上の立場の人に都合がいい言葉」

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 所属芸人たちからも次々と異論が噴出した今回の会見を振り返り、「岡本社長や大崎会長は、過去に所属していた大物芸人さんたちの色んなことも経験している。頭の中で言えることと言えないことの線引きをする中で、もしかしたら今回の会見での発言が、最大限に言えるところだったということなかもしれない」との見方を示したのは夏野氏。

 カンニング竹山も「他の事務所のことについて色々言うのはルール違反というか、あまり首を突っ込むことではないというのが基本だが、客観的に、一企業として見たときに、ちょっと危険な会見だったと感じた」とした上で、「日大アメフト部の問題に似ていると思う。あれもルール違反のタックルがきっかけで、最初は選手を責めていたが、次第に監督のパワハラの話や日大そのものの問題になっていった。吉本の問題も、もはや闇営業からパワハラの問題に移行し、"第2章"に入ってしまった」と指摘する。

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 竹山は「昔の芸能界には上下関係や独特の構造があった。もちろんみんなで助け合えるという良いところもあったが、働き方に対する考えが世界的に変わっていく中、芸能事務所とタレントの関係性もここ数年で対等な方向に変わっていっていた。その矢先に、日本一の芸能事務所が前時代的なやり方をしていたことがわかった。ショックを受けた人も多いのではないか」、池澤も「あくまでもビジネスパートナーなのに、"ファミリー"という言葉が出てきたことに違和感がある。芸能界は他の業界に比べてすごくウェットな文化があって、そういう関係に甘えすぎた結果なのではないかと強く感じた」とコメントした。

 また、箕輪氏が「"お前ら家族だろ"というのは、企業や上の立場の人に都合がいい、傲慢な言葉だ。そして、その中で空気を読む連鎖が起きると、下の方の人にとって上の人は本当に恐ろしい存在になる。極楽とんぼ加藤浩次さんがテレビ番組で言っていたような、社員や芸人さんが上層部を怖がるような空気があるというのは本当なのか」と疑問を投げかけると、瀬沼氏は「空気を読むということが芸人の仕事ではすごく大切。ちょっと上の先輩が空気を読んでいると、僕たちも絶対にそれをしないといけないという感じがあった」と明かした。

 さらに平石アナが「他の企業と違うのは、経営よりも稼いでいる人がいて、その人のマネージャーだった人が社長になっているという構造今回、まさにその意味で発言権のある松本人志さんや明石家さんまさんが登場すると、構図が逆転してしまったようにも思う」と話すと、スペクター氏も「才能のある素晴らしい芸人がいるのは言うまでもないが、こういう上下関係は欧米とは逆だ」と話した。

■「企業が相手なら契約を結んでいるのに、芸人は口約束でいいというのは通用しない」

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 会見では闇営業をめぐるギャラの問題や、宮迫さんへの「契約解除」処分が一転、理由も曖昧なままに撤回が決定されるなど、経緯や判断基準の曖昧さも際立った。背景にあるのは、契約書を締結しないまま芸人たちとの関係が維持されてきた長年の慣習があるとみられる。

 夏野氏が「それこそ辞める時など、その時点では起きていないことについて想定し、予めどうするかを決めておくのが契約を結ぶことの意味だ。吉本は辞めるときのことを想定していなかったのだろうか。それでは弱い立場の人が守られないということを認識しなければ、まずい。処分撤回後のことについても、"テーブルに着く"とか"ミーティングをやる"という説明で、何をするのか、見ていて怖い」と感想を漏らすと、佐藤弁護士も「契約というものは口約束でも成り立つが、それを証明し、内容を明確にするのが契約書。それがないということは、期間も定められていなければ、どちら側からでも解除の申し出ができるということになる。つまり所属芸人たちは不安定な地位にあったということ。私も多くの芸能事務所の案件を手がけてきたが、現在では契約書のない事務所の方が少ないと思う。やはりコンプライアンスも含め、契約締結の段階でも甘さがあったと言わざるを得ないし、これがビジネスだというイメージが足りなかったのだと思う。闇営業の発覚から処分までの経緯にすいても、契約書があれば、もっと早く解決することができたはずだ。同じような問題が起きたワタナベエンターテインメントの場合は、契約書に基づいて処分をし、修正申告や介護ボランティアをさせるといった迅速な危機管理ができていた」と説明した。

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 スペクター氏は「今度こそお互いに録音した方がいい」と半ば冗談を飛ばした上で、「海外の契約書には、犯罪なども含め道徳を破らないということも盛り込まれている。そして、ピースの又吉直樹吉さんの小説『火花』を映像化する際や、タレントをCMに出演させる際などは、全て企業と契約書を結んできたはずだ。事務所についても、ビルの賃貸契約を結んでいるはずだ。それなのに所属芸人については口約束でいいというのは通用しないし、欲張りだと思う」と批判した。

■安いギャラと、育成のための資金をどう考える?

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 そして、芸人たちが闇営業に走らざるを得なかった要因として指摘されるのが、"ギャラの安さ"。岡本社長は「今回の件とギャラの高いか低いかということはちょっと別だと思っている」としつつも、「やはり夢の実現のための世界でもあると思うので、僕らとしてはそれ実現ができる環境を、どれだけ色んなタレントに即した環境を作り続けていけるかということが大事なことだと思う」と回答している。

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 池澤が「正直、これは吉本の問題だけではない。他の事務所でもタレントと事務所の配分が曖昧になっていることはある」と明かす。と、スペクター氏は「例えば航空自衛隊が操縦を教えたパイロットに2、3年で辞めたら困るように、事務所が教育をしてくれて、有名にしてくれている部分もある。アメリカばかりが良いとは言わないが、アメリカには組合があって、エキストラも含め、テレビ番組1回、ロケ1日などの最低賃金が決まっている。ここに至るまでには、職場環境を改善しようという、長年の苦労があった。その一方で、みんな、"ギャラが安い、マネージャーが付かない、何千人もいる"ということを承知で吉本に入っている。それは、吉本ブランドはチャンスがあるし、さんまさんなど国民に愛され、目標にすべき人もいるから。ただ、なんでもいいから"いらっしゃい"、見習いみたいな人からピカイチな人まで、事務所に入れば全てやってくれるという部分が、モデルや役者も含め日本の芸能事務所にはあるが、そのやり方には無理がある。未熟な一発屋が多いのもそれが理由で、事務所の側は"旬の人"になれば1年くらいは売れるとわかっていて、コマーシャルなどをやらせ、その後は知りませんと置き去りにしてしまう。世界中、どこに行っても賃金を保証する事務所なんかないと思うし、面倒を見てあげるというのも日本だけだと思うが、こういう問題をなくすには、安易に人を入れず、厳しく審査し、所属する人を減らすべきだと思う」と説明。

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 カンニング竹山は「岡本社長も言っていたが、みなさんに間違ってほしくないのは、タレント、芸人は社員ではないということ。だから最低雇用賃金のようなものはないし、僕は売れてない子はもらわなくていいと思う。みんな好きでこの世界に入ってきているし、悔しければ頑張ってネタを作り、這い上がろうとする。そして契約のタレントになる。それが嫌なら普通に働けばいい」との姿勢を示した。

 箕輪氏は「ギャラがどんなに低くても、額や事務所の取り分が明確になっている上で入ったのなら良いと思う。ただ、今は安い、満足していない、でも他の事務所に移籍しようとすれば圧力をかけられるかもしれない、だから我慢しなきゃいけないとなっている。普通の企業が転職しようとする社員に圧力をかけたら大問題になるのに、ここがおかしい。ジャニーズの問題も含め、時代の変わり目だ。当たるかどうかわからない人にお金をつぎ込んで育てたのに、と言うのであれば、サッカーの移籍金のように、元の事務所にもインセンティブがあるような制度設計が必要だ」と提言。

 瀬沼氏は「今のテレビの世界では、どういうお笑い芸人が売れるか、予想ができない。だから吉本も多くの芸人を囲っているが、ギャラを払わないので、リスクがないなと感じる」、夏野氏も「だからこそ、最低10年はいなくてはいけないといった契約が必要だ。ただ、吉本というのは、これだけの数のタレントを抱えていても、それを維持するコストはものすごく少なくて済む上に、その中からビッグヒッターがいっぱい出てくるというビジネスモデルで"世界最強"。それをインターネットのない時代からやってきたからこそ、なかなか譲れないのかもしれない」とコメントした。

 佐藤弁護士は「事務所には育成してくれ、守ってくれるというメリットがあるが、自由競争が必要なことも事実。しかし、今の芸能界にはそれができない雰囲気や土壌がある。メディアの忖度もそうだと思うし、新しい地図の方々のテレビ出演の問題もそうだ。投資資金を回収仕組みは当然あってもいいし、当事者たちが立ち上がって、自らの権利を主張しなければ変わらないと思う」と話した。

■テレビ局との資本関係、官民ファンドからの支援に課題は?

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 そしてもう一つ注目を集めたのが、「ネットなどでも見られるように記者会見をしたいと言うと、"在京5社、在阪5社のテレビ局は吉本が株主やから大丈夫やから"と言われた」という亮さんの証言だ。これ対し吉本側は「各局が株主なので、どういった時間帯にするのかを配慮しなければいけないと先方弁護士に話した」と反論している。

 スペクター氏は「テレビ局が記者会見を生放送できるとなれば、うれしくてしょうがない。生放送の時間に番組を合わせるに決まっている。どうにかして説得しようとしただけだと思う」と推測。吉本興業の株主でもあるドワンゴ社長としての顔も持つ夏野氏は「吉本は公開企業でないので、どういう資本政策をやっても問題ないが、一方の放送局は公開企業だし、公共の電波を使う免許事業という立場。そんな中で特定の芸能事務所と資本関係にあるということは公共性を欠くのではないかと懸念されるのは確実だ。ただ、経営者の立場から言えば、20%以上の株を持っていなければ利益連結にはならないし、わずか数%の株のためにということは普通やらない」と説明。

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 また、吉本興業はNTTグループと事業運営会社を設立、今秋から教育分野を中心に新事業を開始、官民ファンドのクールジャパン機構からも段階的に最大100億円の出資を受ける予定となっている。

 カンニング竹山は「パワハラの疑いのある会社が果たして教育のソフトをアジアに売っていいのかという見方もあると思うし、しかも一部には税金が投入されている」、箕輪氏も「上場しているわけではないし、ファミリーだと言って内輪でやるならやるでいいが、免許事業のテレビや国とオフィシャルな仕事するときだけ曖昧にするのは都合がいい」と指摘。

 先月までクールジャパン機構の社外取締役をしていた夏野氏は「日本の芸能界の中でかなり中心にいる存在で、大崎会長は政府の中にも食い込んでいる。新しいことをやるのであれば、政府としても応援できることがあれば応援していこうという雰囲気があるのかもしれない」と示唆した。

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 議論を終え、カンニング竹山は「僕は一流の芸人でもなんでもないが、芸能界の仕組みも変わっていかなければいけない過渡期に入っていると思う。タレント、俳優、歌手、そして各プロダクションの方、各放送局でバラエティや報道番組を作っている方で、これを見ている人もいるかもしれない。みんなテレビが好きで入ってきて、色んな忖度をしながらも一生懸命やってきたと思う。でもみなさん、勇気を出して、声を出して、そろそろ変えていきませんか。我々が変えていかないと、日本の芸能界は前に進まないと思う。昔だったら怒られたり、干されたりしたかもしれないけど、色んな人に可能性があるように変えていくこうと、日本全国の放送に関わっている人たちで今一度考えないか。我々はなんのためにこの仕事をやろうと思ったのか?テレビが好きで、何かを作ることが好きで、この業界に入ってきたと思う。自分の信念を曲げることはおかしい。だから何か変えていこう」と訴えかけた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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