国会で安倍総理や麻生財務大臣も口にした「MMT」。「Modern Monetary Theory」の略で、日本語にすると「現代貨幣理論」。アメリカで大論争を起こし、いま日本にも議論が飛び火している経済理論だ。
これまでの常識を覆すといわれる「MMT」の提唱者の1人、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授。2020年のアメリカ大統領選への出馬を表明した、民主党のバーニー・サンダース上院議員の顧問も務める。ケルトン教授が提唱するのは、「インフレにならない限り財政赤字を拡大しても問題ない」という考え方だ。
これまでの経済学では、借金が増えすぎれば国の信用が低下し、通貨や国債の価値が下がる。借金を続けるためには高い金利を払わなければならず、返済の負担が重くなり、国家の財政は破綻するというのが常識だった。
ところが、「MMT」ではまったく別の考え方をする。独自の通貨を持つ国は、お金をいくらでも発行して、公共事業や借金返済に充てることができる。物価が急上昇しない限り国は破綻せず、長期的に財政赤字を続けても問題ないという理論だ。ケルトン教授の他にも、最年少の29歳で下院議員へ当選したオカシオコルテス議員などを中心に、「MMT」の重要性が主張されている。
日本では、れいわ新選組の山本太郎代表が参院選の街頭演説で「『新規国債の発行?いま以上借金してこの国破綻するんじゃないか』っていう方いますけど、どうして破綻するんですか?」と訴えた。
一方で、「財政赤字は問題にならないという考え方は、まったく間違っていると思う」(FRB・パウエル議長)、「MMTは万能薬ではないと我々は考える」(IMF・ラガルド専務理事)など、経済界のトップたちは急激なインフレが起きる恐れがあるなどと一斉に反論した。
インフレに歯止めが効かなくなると待っているのが、物価が極端に上昇し生活を大きく変えてしまう「ハイパーインフレ」だ。ジンバブエではかつて、一時“2億3000万%以上のインフレ”に見舞われ、数百万人が国外へ逃れたとされている。
はたして、「MMT」は確かな理論なのか。「日本人が知るべきMMT」と題する特集を組んだ『ニューズウィーク日本版』の長岡義博編集長は、そのリスクとMMT派の主張について次のように説明する。
「ひとつ最大のリスクが“財政破綻”だと言われている。借金は国にとっても良くないことと普通は考えるが、MMT派の人はそう考えない。例に出るのがギリシャで、彼らは2004年のアテネオリンピックのために、借金をして贅沢なインフラ投資をした。その借金は国外からしたもので、返せなくなると『国を潰してでも返せ』となる。ただ、日本の場合は、国債を買っている人のほとんどが日本国民で、そこまで厳しくは取り立てない。簡単に言うと、子供が親に借金しているようなもの。親は子供から厳しく取り立てないし、家計全体として見ても、お金の動きはないに等しく安定している。だから大丈夫だというのがMMT派の主張。国債の引受先が海外にある場合はリスクになる」
では、お金を次々と市場に流すことで不安視される、物価の上昇(インフレ)はどう捉えるのか。長岡氏は「MMTにとっても当然インフレはリスクになるが、MMT派の人は税金がインフレを抑える装置だと考える。例えば不動産価格が上昇した時に、不動産購入の税率だけ上げられるという風に考える」と説明。
さらに、借金の分だけ貨幣を刷る国への国際社会からの信用失墜、「円」の価値がなくなってしまわないのかという疑問には、「我々は円で税金を収め、買い物をしており、円と切り離せない生活を送っている。そういう意味では、日本人にとって最低限の円の価値というのは担保されていると言える」とした。
一方で、「日本はすでにMMTなのでは」という指摘もあるといい、長岡氏は「安倍総理は6年前、“輪転機をぐるぐる回してお札を刷れば日本の景気はよくなる”といって当選した。現実に、日銀に黒田総裁が就任してから量的緩和をずっと続けていて、市中にお金を流し続けている状態というのは、ある意味MMTと同じと言える」と指摘する。
日本では10月から消費税が10%に引き上げられるが、物価がそれほど高くない状況での増税はMMTに反しないのか。「そこが日本の現状とMMTの違いになる。仮に本当にMMTを導入して、物価が上がったから消費税を下げる、物価が下がったから消費税を上げるというように税金をインフレとデフレのコントロールに使おうとしても、そもそも税金の法律改正は簡単にはできず、臨機応変に対応できるか分からない」と問題点もあげた。
はたして、MMTは日本経済の救世主となるのか。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)
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