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 反社会勢力との関係、闇営業に端を発する吉本興業の問題は、今や事務所VS芸人という様相を呈している。同社は昨日、第三者を交えた「経営アドバイザリー委員会」を新たに設置し、「1.反社会勢力排除のための体制構築」「2.全タレントとのリレーションシップ強化の方策(契約の在り方などの課題含む)」「3.現コンプライアンス体制の検証とさらなる強化」「4.吉本興業グループ全社のガバナンス強化の方策」といった項目を諮問すると発表。さらに所属タレントたちとも原則として契約書を交わす方針であることも報じられた。

 所属芸人たちからも様々な声が上がっている。経営の刷新を求め大崎洋会長に直談判するなど、進退をかけた行動を取る加藤浩次さんに呼応するように、若手芸人たち処遇や契約、ギャラなどに対し、次々と不満や批判の声を上げている。

 一方、相席スタートの山崎ケイは「配分はさすがに5:5や6:4ということはないと思うが、でも給与明細見て、"こんなにもらっていいの!?"と思うことも正直あるというか…」とコメント。さらにベテランからは異論も。大平サブローはMBSのラジオ番組で「こいつらふぜいでこれを言うか!」「加藤君は腹くくっているが、あんたらそんなに腹くくって言ってんのか?」「気に入らんかったらやめろ」と発言した。オール巨人はブログに「宮迫君と亮君と同じ時代を生きた芸人さん達のツイートはともかく、若手が批判に近いツイ-トするのは…良いとは思いませんね」と投稿。さらに島田洋七は「他のビジネスに手を出し過ぎ。何十と子会社がある、何これっていうのがある。黒字もあれば赤字もある。それを芸人の金で埋めてるってのが吉本の芸人の腹立ちです」としている。

■吉本"伝説のマネージャー"「プロだったら文句を言う前に、どうしたら売れるか自分で考えて」

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 まず、ギャラをめぐる問題について、かつて吉本興業で故・横山やすしなどのマネージャーとして活躍、"伝説のマネージャー"とも呼ばれ、現在は人材活性プロデューサーとして活動している大谷由里子氏は、「売れない芸人のギャラが少ないというのは事実。だけど売れれば20分で一本漫才やって何百万というぐらいまでどんどん上がっていくし、一度上がった取り分の比率も、落ちることはなかった。やすし・きよしさんの絶頂期にはそのうち7、8割は払っていたと思う。芸人からすれば2、3割が抜かれるということだが、年間何十億も稼ぐような芸人さんは、"税金がぎょうさんかかるだけやから"と、文句を言うことはなかった。その代わり、お客さんもシビアで値段は下げないので、仕事量自体は減る。逆に、売れていない芸人は1日がかりのロケなど、良くも悪くも仕事はハードで、1万円とか。ただ、そこから芸人が8割も抜いたら、マネージャーの日当も出せなくなる。プロだったらごちゃごちゃ文句を言う前に、どうしたら売れるか、しっかり自分で考えて、交渉する力を持たないといけないと思う」と話す。

 ライターの松谷創一郎氏は「芸能プロダクションにもよって異なるが、吉本の場合は完全歩合制だが、例えばAKSでは、ライブ配信を切り忘れたHKTメンバーの"1万6000円稼いだ""これが10回やれば給料1か月分に達しちゃうね"というような会話が聴こえてしまったことがあった。まだそれほど売れていないメンバーの発言だったので、逆に言えば、AKSは最低限の給料は出しているということが推測される」とコメント。さらに「芸歴は長いが、芽が出ていないために劇場に呼ばれなくなったという芸人もいる。そういう人たちに吉本を離れる権利を与えるべきだと思うし、ロジックとしては離れられ。ただ、この業界では他の事務所に移ると仕事を当分してはいけないなど、暗黙のルールがある」と指摘した。

■佐々木俊尚氏「”クローズなトライアングル”がリフレッシュされないまま」

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 また、大谷氏は「芸人個人の力量は同じレベルだったとしても、マネージャーの手腕など、プラスアルファの部分のあるほうがチャンスにもつながる」と、大手芸能プロダクションに所属することのメリットを強調する。

 「毎日誰かがテレビ局に行ってるし、そこで"あの枠空きそうやで"、と編成の情報を掴んでくることができる。そして『ダウンタウンDX』などのような冠番組を作るためには、スポンサーも付けられなければダメだ。『M-1グランプリ』も、私たちがスポンサーを見つけてきた、吉本に持って行って、テレビ局と話して作った。また、芸人の稼働は、テレビよりも劇場や余興などの方が多い。例えば巡業だったら、吉本にいるからこそ何組か出る中に全く売れてない芸人をマネージャーが突っ込んで前説させることもできる。所属芸人が1人、2人の事務所では、それはなかなか難しい」。

 その上で、「吉本は学校。私らの頃は芸人になると言ったら親に勘当されるくらいの勢いがあったけど、今は親に仕送りをもらっている人もいるし、めっちゃ金を持ってる人もいる。あるいは奥さんが看護師さんだったり、学校の先生だったりという人もいるので、全員が食べていけないと一括りにすることはできない。辞めることは自由だけど、そもそも売れていない人を引き取る事務所はないし、何より、売れてないけども吉本にいることが好きな人もいる。この世界って、みんな夢を見て来ているので、マネージャーの一番辛い仕事は何年やっても芽が出ない人に"芸人やめた方がいいよ"と言うこと」とした。

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 松谷氏は「抱き合わせ販売のような売り方について、それが悪いことではないと言い切ることは難しい。もしも発注主が断りにくい場合、公正取引委員会としては問題視する可能性はある。そうでなくても、業界全体の競争力が働かなってしまい、個人同士での切磋琢磨もできなくなってしまう。もちろん例外はあるが、事務所の力によって露出のチャンスがどれだけもらえるかは変わってくる」と指摘。ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「結局は芸人さんとプロダクションとテレビ局からなる、クローズなトライアングルがあって、それがリフレッシュされないまま、関係者たちの感性が世の中の流れについていけなくなっているということなのではないか。YouTubeなども含めエンターテインメントの空間が広がっていく中、いつまでもテレビの枠内だけで考えているだけでは、この状況は打破できないと思う。その意味で、吉本が総合エンターテインメント企業になろうと多角的な展開をしていくのは当然のことだと思う」と話した。

 また、慶應義塾大学特任准教授の若新雄純氏は「"売れてる"っていうのは、別にお茶の間にいる僕たちが"買っている"ということではなく、いわばテレビの枠に"売れている"ということなんだと思う。ただ、他の業界の場合、大手企業で閉塞感を抱いている若手社員たちが独立し、ネットの力も使って新しい勢力を立ち上げ、新陳代謝を図ることもできる。それができないということは、マーケットが閉じていて、経済原理が働いていないということ。加藤浩次さんが"辞める"と言ったときに、"見られなくなるのは嫌だ"という声が上がっていたのは、その象徴だと思う。つまり、あれだけ実力がある人でも、事務所を辞めれば出られなくなるということだ」との見方を示した。

■芸人の組合も必要な時代に?

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 他方、吉本が芸人との契約書を締結する方針であることについて、大谷氏は「すごく不安なのは、契約してもらえない芸人さんがいっぱい出てくるのではないかということ。6000人も面倒を見きれないし、下手したら1000人くらいしか契約してもらえないかもしれない。そして、契約した人にはどんどん仕事が来ると思う」、松谷氏も「一部の人だけになってしまう可能性があるので、契約書の内容にグラデーションを付けてあげたほうがいいと思う」とし、「ハリウッドのような組合を作るしかないと思っているし、加藤さんもそのことを頭に入れて交渉されているんだと想像している。プロ野球選手会では2004年、球界再編問題の時には古田敦也さんを中心に団結して交渉した。今後のことは読めないが、加藤さんが1人で背負って頑張っているという印象を受けるので、他の芸人がどれだけ行動を共にして交渉の場につくかということに注目している」とした。

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 若新氏は「組合は必要だと思うけれど、それは守ってくれるものが天から降ってくるわけでなく、交渉力や知識を身に着けて戦わなければならないということでもある」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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