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(鈴木にチョップを叩き込む潮崎。いつもとはタイミングが違ったが強引に放っていった)

 新世代のチャンピオン・清宮海斗の活躍や新体制でのイメージチェンジを含め、プロレスリング・ノアが好調だ。新規ファンが増え、会場の熱気も上々、“名門復興”の過程にある。7月27日には、カルッツかわさきでビッグマッチを開催した。

 ここでメインのGHCヘビー級選手権・清宮vs中嶋勝彦、グローバルリーグ決勝のHAYATAvsタダスケと並んで注目されたのが、潮崎豪vs鈴木秀樹のシングルマッチだ。

 5月の後楽園ホール大会、6人タッグで初対戦したことから機運が高まり、今大会で「一発勝負」のシングルマッチが決まった。

 開戦を告げたのは、鈴木が潮崎にぶつけた「ノアはお前だ」という言葉。これにファンも反応した。潮崎に爆発してほしい、覚醒してほしい。そう感じているノアファンは多いはずだ。

 潮崎は“三沢光晴最後のタッグパートナー”であり、小橋建太からはチョップやラリアットを継承している。ノアの継承者としてこれ以上ない存在だ。誰もがその実力を認めている。

 しかしなぜかここまで“天下を獲った”とは言えなかった。一時期はノアを離脱し全日本プロレスで闘っていたことも。いわば“出戻り”だ。そして今、ノアでは潮崎よりはるかに後輩の清宮がトップに君臨している。

 そんな状況に投入された劇薬が鈴木だった。少し前まで負傷欠場しており、この日もテーピングだらけの潮崎をサブミッション地獄に引きずり込む鈴木。テーピング箇所に蹴りを入れ「悪いな」と言いながらニードロップを落とす。

 負傷箇所を攻めたことについて、鈴木はこう語っている。

「みんな痛いんです。テーピングしていようがいまいが、みんなどこか痛い。リングに上がったら言い訳なし」

 ビル・ロビンソンに指導を受けた関節技とスープレックスの使い手は、言葉もまた鋭いのだった。

 腕攻めからスリーパー、さらにヒザ固めでも潮崎を追い込んだ鈴木は、必殺技ダブルアーム・スープレックスに加えジャーマン、ドラゴンスープレックスも決める。潮崎が得意とするチョップ、ラリアットは、なかなかきれいな形では決まらなかった。

 コーナーでのマシンガンチョップも、鈴木が体をひねったりガードを固めたりしたため、いつものようには打てなかった。試合後の鈴木は「ノアのお客さんにとっては、いい試合じゃなかったかもしれない。僕は楽しかったですけど」と語っている。

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(鈴木のサブミッションはノアマットでも猛威を振るった。異質だからこそ、その存在感が際立ったと言える)

 逆に言えば“いつものノアらしい試合”とは違うスタイルの相手に対しても、潮崎は“いつもの自分”で勝負していったということだ。鈴木にグラウンドで対抗して“引き出し”を誇るような闘いではなく、あくまでチョップにラリアット。強引に“プロレス技”をねじ込んでいくところに武骨な迫力が出た。

 ともにプロレスラーなのだが、スタイルがまったく違うから異種格闘技戦的なせめぎ合いが生まれた。潮崎のチョップが鈴木の胸板だけでなく、目や口を捉える場面もあった。結果は30分フルタイムドロー。刺激だらけの30分だった。

「悔しい。一発勝負だから次なんて分からない。今日、勝てなかった俺の力不足」と潮崎は言った。「明確に勝つことができなかった。それは(相手が)強かったってことでしょう」と語ったのは鈴木だ。ただ、すぐにでも再戦を、とならないのがこのマッチアップの重みだろう。鈴木は言う。

「今すぐやっても同じになっちゃうんで。僕自身も力をつけて、潮崎豪がお客さんも選手たちもフロントもマスコミも認めるノアの顔になった時にもう一回。顔ってことはベルトがあるってことですから。そこでもう一回勝負したい」

 鈴木はノア、とりわけ潮崎の現状に厳しい言葉を放っている。曰く、井の中の蛙。

「大海じゃなく小さな海を移動してただけ。行く道は大きかったのに自分で小さくしてしまった」

 ただ「ノアは潮崎豪」という思いに変化はないという。

「僕がプロになる前に見てたノアっていうのは、三沢さんだったり小橋さんだったり、プロレスラーのタフさを見せる団体だったと思うんですよ、人それぞれいろんな形で。それを一番体現してるし、(相手の攻撃を)受け止めた上で勝つっていう、凄くクラシックなプロレスをしていると思う。僕は潮崎豪がノアだと思います」

 鈴木がノアに、潮崎に投げかけたものは大きかった。闘いを通しての批評であり、批評されることで潮崎の魅力が浮き彫りになったとも言える。次があるかどうかは分からないが、今回に関しては“今”だからこその名勝負だった。

文・橋本宗洋

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