苦しい戦いが続くFC町田ゼルビアに、希望の光が差し込んできた――。躍進のシーズンとなった昨年の象徴ともいえる平戸太貴が、ゼルビアに復帰を果たしたのだ。
「FC町田ゼルビアとともに成長する」
8月1日、ゼルビアの公式HP上に掲載された「平戸太貴選手 加入のお知らせ」。ファンやサポーターにとっては驚きとともに、昨シーズンの躍進を支えたゲームメーカーの復帰に心躍らせたことだろう。
鹿島アントラーズユースからトップチームに昇格したのが2016年。プロ初出場も記録したが、分厚い選手層の前に出場機会を得られず、2017年にゼルビアへと期限付き移籍で加入した。すると相馬直樹監督の下、その才能が開花し、初年度はJ2リーグ戦26試合で3ゴールをマークする活躍を見せた。
そして2018年、期限付き移籍を延長して再びゼルビアの一員としてプレーする平戸は、その正確なキックからアシストを量産。8月にはチームの月間総得点の8ゴールの半数以上となる5ゴールをマーク、チームも一時、首位に立つなどその原動力としての活躍が認められてJ2月間MVPを受賞した。結局そのシーズンは8ゴールをマークし、リーグ1位となる17アシストを記録。チームの4位躍進を支えるなど一気にブレイクした。
平戸の活躍はゼルビア・サポーターにとってうれしい反面、悲しい出来事も引き起こしてしまう。
「FC町田ゼルビアに関わるすべての皆様、2年間ありがとうございました。大きく成長でき、とても充実した時間を過ごすことができたのは、相馬監督はじめ、スタッフ、チームメイト、ファン・サポーター、パートナー企業の皆様のおかげだと思っています。特に、どんな時も熱い応援をしてくれたファン・サポーターの皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。ここで過ごした日々は、僕にとって大きな財産になりました。応援してくださる方の期待に応えられるよう、これからも頑張っていきたいと思っています。2年間、本当にありがとうございました!」
成長させてくれたゼルビアへの感謝の言葉を残して平戸は、鹿島へと復帰したのだ。この辛い別れは、そのままお互いのその後の状況を表しているものでもあった。
平戸が抜けたゼルビアは夢のJ1昇格を目指して今シーズンに入ったが、思うような結果が出ずに残留争いに巻き込まれている。一方の平戸も、J1リーグ戦第6節の名古屋グランパス戦でスタメン出場を果たしたが、その後は出番を与えられなかった。
そうした両者の時間が再び交わり出したのは至極当然だったのかもしれない。
復帰に際して平戸は「FC町田ゼルビアと共に大きくなり、成長し、J1昇格という目標に向かって戦うという覚悟を持って加入を決めました。選手・スタッフ・サポーター、皆で一つになって戦っていきましょう!」とコメント。自分を育ててくれたゼルビアをJ1に連れて行くという強い思いが感じられる。
かくして、平戸の復帰初戦はアウェーでヴァンフォーレ甲府に0-3で完敗した。あらためて、チームを立て直すのは一朝一夕にはいかないと痛感する一方で、次節はホームでツエーゲン金沢と対戦する。昨年、町田市立陸上競技場で行われた金沢戦の決勝ゴールを奪ったのは平戸だ。彼自身、そこから夏場にかけて調子を上げて月間MVPを獲得している。
今度はどんなドラマが待っているのか──。ゼルビアにとっても平戸にとっても、逆襲の夏がはじまる。
文・川嶋正隆(SAL編集部)