今や格闘技イベントの盛り上がり、知名度獲得に欠かせないと言ってもいいのが女子ファイターだ。かつてUFCでロンダ・ラウジーが女子MMAの人気を爆発させ、RIZINではRENAがイベントそのものの人気を牽引する代表選手となった。プロレスではWWEで女子の特番が開催、年間最大のイベント『レッスルマニア』でも女子マッチがメインイベントとなっている。マット界は“女子の時代”を迎えていると言ってもいいだろう。
キックボクシングイベントKNOCK OUTでも、女子エース候補として期待される選手がいる。今年デビューしたばかりのぱんちゃん璃奈だ。KNOCK OUTはプロデューサーが替わり、新たな運営体制に。8月18日の大田区総合体育館大会は、その第1弾となる重要なイベントだった。そんな大会で唯一の女子マッチとして、ぱんちゃんはキャリアで上回る祥子と対戦。判定勝ちを収め、デビューから4連勝となった。しかし試合後のコメントは「今までで一番ダメな試合でした」。内容に関してはまったく満足していないという。4戦目、ビッグイベントで初のKO勝ちを狙っていたからなおさらだ。
手足が長く、距離を支配することで優位に試合を進めるのがぱんちゃんの持ち味と思われたが、今回は「身長が同じくらいの選手とは初めて」でもあり手こずった。試合中、何度もバックステップで距離を仕切り直そうとしていたが「先に打たれてしまってペースが握れませんでした。自分からアグレッシブにいかなきゃいけなかったのに。狙いすぎでした」。組んで相手をコントロールし、ヒザ蹴りを打ち込む場面も目立ったが「もっと顔に当てて倒せるように練習してきたはずなんですけど、祥子選手に反撃されてしまって」。
インタビューしてみると攻防の内容をよく覚えており、反省点も理解していた。実際、初の大舞台にも「落ち着いて試合することはできました」と言う。落ち着いているからこそ、うまく試合を進めることができない自分への落胆を強く感じることにもなったわけだ。
しかし自分の長所、短所を冷静に受け止めるのも才能といえば才能だ。今までと違うタイプの相手に戸惑い、軌道修正できないまま試合を終えてしまったのは、単純に経験値の問題というしかないだろう。言ってみれば“ルーキーあるある”だ。
「練習だけじゃなく試合でいいものを出せるようにしないと」とぱんちゃん。そのために必要なのはやはり経験だ。すでに次の試合も決定している。10月4日、後楽園ホールで開催される『K.O×REBELS』。対戦相手のMIREYは女子キック団体J-GIRLSのチャンピオンだ。タイトル戦ではぱんちゃんが苦戦した祥子に勝っている。今回はノンタイトル戦ながら他団体王者との闘い。ぱんちゃんにとっては大きな試練となる。
「強い相手なので、今のままでは勝てない可能性もあると思います。練習も考え方も、もっと根本的なところから頑張らなきゃいけない」
今回、試合に満足できなかったのは「ただ勝てばいいとは思っていない」からだ。キャリア4戦はまだまだ新人。エース候補として期待されること自体が重圧でもあるはずだが、本人はこう語っている。
「まだ(期待を)背負いきれてないですけど、大きなチャンスをいただいているんだから結果で返したいです。期待されると力んじゃうこともあるんですけど、パワーにもなるので」
大田区での経験が次にどう生きるか。今年デビューして次が5試合目。ハイペースで試合をしている分、成長も早いのではないか。
文・橋本宗洋