京アニ事件で問われる“実名報道”の是非 若新雄純氏「公表と報道を切り分けるべき」
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 35人の犠牲者を出した京都アニメーション放火事件で27日、京都府警は新たに犠牲者25人の身元を公表した。しかし、公表に反対する遺族もいたことで、実名を報じたメディアなどには批判が相次いでいる。昨今問われている「実名報道」の是非について、28日のAbemaTV『けやきヒルズ』で「『公表』と『報道』を丁寧に切り分けるべき」と意見を述べた慶応大学特任准教授などを務めるプロデューサーの若新雄純氏に、放送後さらに話を聞いた。

 実名報道の意義としては、事件の重大性や命の重さを正確に報じて悲惨さや現実感を伝える、実名を公表しないと憶測を呼びデマが広がる可能性がある、政財界等の不祥事隠蔽の可能性を防ぐことなどが挙げられる。一方で、遺族のプライバシーをなぜメディアの判断で侵害できるのか、遺族の感情を二重に傷つける、メディアスクラムを生むといった反対意見もある。

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 こうした意義について、若新氏は「35人の方が亡くなったと聞いただけで十分に悲惨さは伝わってきたし、名前を出して欲しくない人がいるんだから、わざわざ出す必要はないと思っていた。ただ、死者の情報を正確に出さなくていいという前例を作ると、考えすぎかもしれないが、誰かに都合の悪い事件が起きた時に実態を隠すことができる可能性が出てきてしまうというのも分かる」との見方を示す。

 また、「公表しない方がいいと世論がなった時に、警察しか事件の実態を把握していない状態はよくないと思う」とした上で、「公表と報道を丁寧に切り分けて考えた方がいいのではないか」と指摘。「警察は誰かに求められたら『公表』できる状態にして隠蔽が起きないようにしつつ、メディアはそれをどう『報道』するかを慎重に配慮する。今回、多くのメディアが『警察が公表したから』とまるで足並みを揃えたように25人全員の名前を載せたが、承諾してくれた人以外は報道しないというメディアがあっても良かったのでは。警察に問い合わせれば公表された情報を必要に応じて知れるようにしておくことと、メディアがテレビや新聞で大きく報道することとは、似ているようで大きく違うのではないか。心無いいたずらなども減るはず。事の重大さと状況に合わせて報道のしかたを検討できたはずで、見ている側はそれを疑問に思っているのではないか」とした。

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 実名報道の是非について、長年遺族を支援し、京都府警で被害者支援の講師を務めたこともある龍谷大学短期大学部の黒川雅代子教授は「ご遺族の感情は同じ家族内であっても個別性が高い。今回、個別で対応したことは評価できる」「亡くなられた方それぞれには名前があり、過去、現在、そして本来は未来という人生があった。実名公表されなければ事件が人数で語られてしまう」「遺族が受ける二次的な被害について、メディアだけではなく近しい人からの言葉やSNSの発言も遺族を傷つける。正義や親切のつもりで行っていることが、結果的に傷つけてしまう」との見方を示している。

 また、実名報道の心理的な効果について、臨床心理士で心理カウンセラーも務める明星大学の藤井靖准教授は「国民が本質的かつ事件を共感的に理解し、現実味のあるものとして受け入れて祈りを捧げるためには、AさんやBさんでは難しい面もある。『共感』は人の顔や存在がないと実感できない」「ご遺族にとって被害者が生きた証や社会での業績・成果を実感することにつながって、喪失を受け入れる上での意味もある」としている。

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 これを受けて若新氏は「あえて会見された遺族の方もいらっしゃったように、きちんと取材を受けて、被害者の思いを伝えたいという方も中にはいるはずだ。25人の名前を全て出すことが共感につながるのではなく、取材を受けてもいいという方の協力を得て、そこで丁寧な質の高い報道をメディアがしてくれれば、僕らは十分に事件のリアリティや重大さを感じられると思う」と自身の考えを説明。

 また、メディアの役割は“ネットの声”に迎合することでもないとし、「僕も取材をたくさん受けてきたが、ある記者の取材記事は思い込みで書かれていて、最初からストーリーができていた。一緒に活動している女子高生からも『こう言ってほしいというのがありありと伝わってくるんです』『私が本当に言いたかったことは紹介されていなかった』と。そうではなくて、取材される側が本当に伝えたいことを丁寧に汲み取り、人々のステレオタイプな視点では見えないことを伝えていくことが、『考えることができる社会』をつくるためにマスコミが果たすべき役割だと思う」と述べた。

(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)

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