(左右田を下しタイトル初防衛に成功した鈴木。セコンドと記念撮影)
K-1 KRUSH FIGHTスーパー・ライト級王者の鈴木勇人が、8月31日の後楽園ホール大会で初防衛戦を行った。
その対戦相手は左右田泰臣。K-1 WORLD GPで数々の強豪と対戦してきた選手で、チャンピオンの鈴木よりも“格上”と言っていい。鈴木自身も、今回の試合について「挑戦者の気持ちで闘う」と語っていた。
試合中以外、公の場では常にオリジナルのプロレスマスクを着用している左右田は、この試合をランバージャック・デスマッチにしたいと要求。リングを両陣営のセコンドが囲み、場外に落ちた選手を強引に押し戻すという試合形式だ。これはもちろん却下されたが、そのマイペースぶりは王者にとって脅威かもしれないと思わせるものがあった。
試合は1ラウンドから蹴りの打ち合い。鈴木が得意とするミドルを左右田も蹴り返し、ローキックでもダメージを与え合う。テンポよく左ミドルを当てていく鈴木に対し、左右田は右ストレートを狙い始める。2ラウンドには左右田がボディブローから左フック。しかし鈴木も左ミドル、右ローでペースを渡さない。
最終3ラウンドには左右田の右のパンチが何度もヒット。ロープを背負う場面が目立った鈴木だが、接近戦でヒザを返していく。白熱の攻防はジャッジ3名の採点がすべてドロー。延長戦にもつれ込む。 手数も重要となるラスト3分間、両者は接近戦でノンストップの打ち合い。その中でも鈴木はミドル、ヒザと攻撃の幅も見せる。場内沸きっぱなしの闘いの末、判定結果は3-0で鈴木に。お互い退かない闘いであり、まるで逃げ場がないかのようなぶつかり合い。事実上のランバージャック・デスマッチだったとさえ思える。
(「スッキリしました」と試合後の左右田)
試練の初防衛戦をクリアした鈴木は「左右田選手に挑戦する気持ちが大きすぎて、試合後のコメントは何も考えてませんでした。今まで闘った選手とは全然ちがいました」。
一方、左右田は試合を終えるとすぐにマスクを被ったが、判定結果を聞いてリングを降りる際にはマスクを脱いでいた。インタビュースペースでも同様。コスチュームも脱いで“素”の状態だった。
「もう終わりですね。終わりました」
落ち着いた口調で、左右田は言った。負けるつもりはないから「負けたら引退」と決めていたわけではない。しかし「この試合が組まれたということは、そういうことなのかなと勝手に解釈してました」とも。KRUSHのベルトを巻いて上昇気流に乗るか、新世代の王者に引導を渡されるか。そういう試合だったのだ。
試合後、左右田は以前から鈴木と個人的な親交があったことを明かした。
「俺は鈴木勇人という人間が凄い好きなんですよ。だから(負けて)こんなスッキリした気持ちなのかなと。悔しいというよりスッキリしてます。出し切ったというか」
最高の思い出ができた、中身の濃い10年だったと左右田。ファンには、これからもK-1を楽しんでほしいとメッセージを送った。
鈴木としては、左右田に勝っただけでなく“最後の対戦相手”になったことになる。王者としての決意は、さらに強いものになった。
「左右田さんにはアドバイスももらったし、本当に尊敬する人。左右田さんの気持ちも受け継いで、自分がK-1のベルトを獲りにいかなきゃいけない。今日で自信がつきました。胸を張って自分はファイターだって言えます」
ファイティングスピリットを燃やし尽くすような闘い、その背景にも忘れられないドラマがあった。左右田は燃え尽き、鈴木はさらに燃える。そうしてK-1の物語は紡がれていく。
文・橋本宗洋