「大臣になったから家のことはよろしく、ではなくて、大臣になったから家のことをもっと頑張ります、そういう時代だと思う」小泉氏の"育休"発言で注目が集まる男性の育児休暇。しかし、政治家の間でも意見は割れている。
小池百合子東京都知事が13日「堂々とここでとるべきだと思う。取り方が柔軟であることについては大臣自身もお分かりだと思う」と述べたのに対し、国民民主党の泉健太政調会長は9日「まずは国民が先だ。育休を取る前に自民党と交渉して、経団連と交渉して、全ての労働者に対して育児休業給付金100%、原則100%、それを実現してもらえないかと」と指摘。一般企業で育休を取れば当然給与が減るが、国会議員が制度上、満額支給されることを念頭に、松井一郎大阪市長も11日、「国会議員が税金で報酬を得ている中、満額というのは納税者から見たらちょっと違う。内閣の一員になったわけだから、育休と言っている場合ではなくなった」とコメントしている。
■宮崎謙介氏「小泉さん個人のための育休ではダメだ」
議員の育休と言えば、4年前、「これからの日本を考えた時、しっかりと育児をしながら男性が働く女性を支えていくということ。サポートしていきたいと思った」とし、国会会期中の育休取得を宣言した宮崎謙介衆議院議員(当時)が巻き起こした論争が思い出される。
13日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した宮崎氏は「私が宣言した時にも、泉氏、松井氏とまったく同じ反対意見が出た。"お前は税金から歳費をいっぱいもらっているのに"、と。今の法律では返納できないし、選挙区内に寄付をすることもできないので、まったく関係のないところで全額寄付することを検討した。そうすれば批判はかわせるのではないかと。それから私が議員を辞めることになってしまったせいもあるが、男性の育休は永田町ではどこかタブー視されている」とした上で、次のように指摘する。
「衆議院と参議院の規則には、橋本聖子さんが出産する時にできた産休制度はあるが、育休は男女ともにない。今回のことが"小泉進次郎流"とも言われているが、小泉さん個人のための育休ではダメで、社会のために大臣が取る育休であるべきだと思う。つまり、世の中の育休制度のどこに問題があり、それらを解決しなければ育休取得は進まない、ということを国会議員、大臣が体現し、政策に反映させることがゴールであるべきだ。さらに言えば、他の国会議員が育休を取ったとしてもあまり注目されないが、小泉さん取るということになれば、メディアもこうして注目する。実は自転車の前と後ろに子どもを乗せ、保育園に送ってから登院しているという若手の議員は結構いる。宣言すると叩かれるのでこっそりと育児をやっているということだ。それもある意味かっこいいが、国会議員というのはそういうこともできるくらい、裁量の大きな仕事ということでもある。言ってしまえば、小泉さんの育休宣言は社会に対する啓発、パフォーマンス以外のところには意味がない。小泉さんは"そういう時代だから"としか言っていないが、"時代だから"だけではなく、女性活躍社会の推進と少子化対策の両輪を回すためにも、男性が育児をし、女性の負担を軽減する、それが育休を取ることだと、第一声で言ってくれたら反応が違ったはずだ。そうやって社会が理解を深め、法整備が変わり、そして働き方改革が進んでいくことに意味がある」。
■"弾力的な働き方"なら模索できる?
会見の中で小泉氏は「育休の実態を、例えば1年間、完全に休むと思い込んで受け止めている方もいるが、私はそうではないと考えている」とも話している。こうした発言の念頭にあるのが、三重県の鈴木英敬知事のケースだ。鈴木知事は子どもを幼稚園に送る際には出勤を30分遅らせ、「1人目の時も2人目の時も、連続ではないが飛び飛びで合計5日とか、3.5日とかそういう形で休みを取得した」と説明している。
元経産官僚で、現在子育て中の宇佐美典也氏は「泉さんの"国民が先だ"というのも一理あるが、それなら例えば進次郎さんが夕方5時に帰って子どもにご飯を食べさせたり、お風呂に入れたりできるよう、大臣の答弁は副大臣に代わってもらえるようにしますとか、そういう具体策を国民民主党は出すべきではないか。そうすれば育休を取らなくてもいいよね、となるはずだ。そういう議論が出てこない野党は信頼できない。また、時代遅れと言われるもしれないが、やはり子育てのメインは女性になってくるし、初めての子育で父親が現実的にできることとしては、母親の睡眠時間を確保するために何ができるか、という部分が大きいと思う。産後うつや虐待の問題も、そういうところから始まるからだ。その意味では、泉さんや松井さんのような男性議員ではなく、女性側の視点から、男性がこれくらいやるためにはこれくらいの時間が必要だよね、という議論をしてほしい。それを踏まえて、進次郎さんが"こういう働き方を認めてくれ"と言えば、育休を取れる人がまだまだ少ない中、弾力的な働き方に協力していこうという空気も出てくるのではないか」とコメント。
3児を育てるシングルファーザーでもあり、政府の「子ども子育て会議」委員も務める子育てジャーナリストの吉田大樹氏は「松井さんの指摘については、一般の労働者であれば、雇用保険から出る育児休業給付金の制度がある。同じように国会議員も積み立てみたいなことをしておいて、そこから補填するとか、考えられる策はたくさんあると思う。納税者云々みたいな話が必ず出てくるのは、批判的ことを言いたいだけではないか」と指摘した。
「ウツワ」代表のハヤカワ五味氏は「育休に限らず、急病になる可能性はどこにでもあるわけで、それが管理職であったとしても一人が抜けただけで支障が出る組織は見直す必要があるはずだ。ただ、国会議員は国民に選ばれた人でもあるわけで、違う意見を持った人が代わりに入るのは違うという気もする。例えば意思決定のところだけ参加するとか、あるいは休みに入るまでに時間的余裕があれば対応もしやすいはずなので、そもそも宣言しやすい環境を作ることが大切だと思う」と話した。
■「育休」ではなく、育児専業期間、「育専」に
厚生労働省の統計によれば、日本の育休取得率(2018年)は女性が82.2%だったの対し、男性は6.16%と、まだまだ浸透しているとは言い難く、政界に限らず、一般企業でも及び腰だ。そこには「制度が整備されていなかった」「制度があっても取得しづらい雰囲気があった」ということの他に、「収入を減らしたくなかった」「昇格・昇給に悪影響がありそうだと思った」という切実な思いもあるようだ(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調べ)。
街行く人に聞いてみると「(育休は)いいと思う。仕事は替えがきくけど父親はその人しかいないので」「子育てを主体的にできるのであれば賛成だ。ただ単に休暇として終わってしまうのであれば反対だ」「(仕事で)代わりのいないという状況であれば、ちょっとなかなかどんどん取ってくださいと思えないというのが正直な気持ち」と、皆が複雑な思いを抱えているようだ。
これについて作家の乙武洋匡氏が「"育休"という名前そのものがどうなのか。"お前休めて良いな"とならないためにも、別の呼び方を考えるべきではないか」と話すと、吉田氏は「育児専業期間、"育専"が良いと思うし、やはり意味のある期間にしていかないといけないことだと思う。僕の場合、第2子が生まれた時に育休を1か月半取ったが、3kg痩せた。毎日公園や児童館に行って遊びまくって、デスクワークでは消費できないカロリーを消費した。そういうことを体験し、育児も大事なんだと自分の中に落とし込んでていくことが大事だと思う。それぞれの家庭の状況も違うし、何がベストなのか、夫婦で話し合う時間を取って考えるべきだ。そのための余裕も与えてあげないと、生まれた、"取りな、取りな"みたいな慌ただしい話になってしまう。皆が納得した形で、いかに取らせてあげるかだと思う」
テレビ朝日の平石直之アナウンサーは「これは言い過ぎになってしまうかもしれないが、あえて言うとすれば、育休取得後も同じポジションを保障すべきだというのは、権利を主張しすぎている部分があると思う。代わりがきかない場合はわかるが、そうでなければ"ランクダウン"してもいいと思うし、その間に働いている人たちのことを見るべきだと思う。私も子どもが生まれて、仕事のペースがダウンした。しかしそれでもやむなしと思った。そうしなければ、子どもと向き合う時間を作ることができないからだ。その意味では、やはり人生の中では仕事を取るか、子育てを取るかという選択が出てくる」と感想を述べていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)