再び繰り返される北朝鮮のミサイル発射問題。22日、日本にとっては不安なニュースが報じられた。
共同通信によると、複数の関係者の話として、北朝鮮の発射したミサイルについて日本政府が複数回にわたって軌道を探知することができなかったといい、その理由については、発射後の高度が低く変則的な軌道で飛翔する新型ミサイルだったことから、日本側のレーダーがこれを探知できなかったからだとしている。また、記事では韓国側は探知に成功していたとし、先月に韓国が発表した日韓GSOMIA破棄の影響があったことも示唆している。
自衛艦隊司令官の経験も持つ香田洋二・元海上自衛隊海将は、北朝鮮の通信傍受などによりミサイル発射の場所や時期を特定しているとみられる韓国が情報を日本に提供しなかった可能性があると指摘する。ただ、菅官房長官は「わが国独自の情報収集に加えて、同盟国である米国との情報協力によって万全の体制をとることができている」との認識を示している。
■「驚くべき話だとは思わない」「深刻に捉える必要はない」
この問題について、24日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した東京大学先端科学技術研究センター小泉悠特任助教は「これは特に驚くべき話だとは思わない」と話す。
「いま北朝鮮が撃っている短距離弾道ミサイルは、朝鮮半島から発射されて朝鮮半島付近の海面に落とされているため、日本の排他的経済水域にも届いていない。レーダーの電磁波は光と同様に直進しかしないため、軌道の大部分は日本から見て水平線の向こう側、つまり"地球の影"になっている部分は探知できないので、日本からは見えなかったが、近くの韓国からは見えたということだと思う。ただ、香田先生のお話にもあるように、発射地点に関して事前に情報が分かっていれば探知がしやすかった事は確かだ。また、仮に日本に向かってくるコースで飛んでくるのであれば、水平線から弾頭が出てくるので、それは見えたと思う」。
その上で、今回の弾道ミサイルについて、次のように分析した。
「形状を見る限り、少なくとも巡航ミサイルではないが、ディプレスト軌道、つまり意図的に高度を抑えて飛ばせるタイプの弾道ミサイルかもしれないが、これほど極端に飛行の大部分を隠れていられるような軌道をとるのは難しいのではないか。また、北朝鮮のミサイルが本当にこれほど低い軌道で飛び、さらに途中で頭を持ち上げて高度を上げるといったことができるのかについては、よく分かっていない。韓国軍はポップアップする軌道を観測したと言っているが、固体燃料弾道ミサイルは再着火が難しい。ロシアのミサイル『イスカンデル』、ロシア軍ロケット砲兵総局の分類名で9M723と呼ばれるものによく似ているとも言われているが、イスカンダル自体、こういう風に飛べるという証拠は少なくとも信頼できる形では存在していない。ロシアが本当にこういう能力を持っていて、北朝鮮がそれをコピーすることに成功しているのであれば、確かにテクニカル的に脅威ではある。ただ、ロシア軍はイスカンデルを12のミサイル旅団分持っていて、それをヨーロッパ正面や中国正面に相当数配備しているとみられるが、それによって著しく軍事バランスが変わって困っているという話でもないので、厄介ではあるが対処はできるということだ」。
また、米ハドソン研究所研究員の村野将氏も「小泉さんがおっしゃったように、日本側から探知できなくても仕方がないと思う。どのくらいの速度・方向でどのくらいの距離を飛ぶのかについての最初の予測は、最初の燃焼が何秒くらいで止まるかを見て計算するが、そのための一次的な情報は基本的にはアメリカから提供されているので、韓国から情報が得られなかったから探知できないというはないと思うし、飛距離が伸びてくればこちらで捉えられる確率も上がってくるので、現時点ではそれほど深刻にとらえる必要はない」との見方を示した。
■「必要な防衛力を保っておくことが重要」
現行の日本のミサイル防衛システムは、まず洋上のイージス艦が搭載しているSM-3で撃ち落とすことを試み、これに打ち損じた場合、地上に配備したPAC3で撃ち落とすという"二段構え"を取っている。ただ、これに加えて検討されている陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)も含め、懸念の声も少なくない。
小泉氏は「よほど突拍子もない目標を狙ってこない限り、東京や自衛隊の重要施設など、攻撃対象は見当がつくし、対応はできるはずだ。ただ、あまりにも極端に軌道を変えられると、不意を突かれて打ち漏らす可能性はある。そこにはこちら側がスタンバイできる。残念ながら人間の作るものなので、もちろん100%ということはない。それでも軍事政策を考える者として、10万人が死ぬかもしれないという時に、それを1万人に減らせるのであればやれることはやらざるを得ないと考える。仮に100%のものでなければダメだとなれば、北朝鮮が持つミサイルの価値が上がってしまうことになる。だからこそ、"完璧ではないかもしれないが、一定の迎撃能力はある。我々は屈しない"ということにしておかないと、抑止力は保てないし、現状では性能に対して極端に高いものを買わされているとは思わない」と話す。
「北朝鮮は相当のコストをかけて準中距離弾道ミサイルを開発・保有している。あれを全くのお遊びでやっているとは思えないし、少なくとも北朝鮮の軍人たちは、有事には日本の大都市や在日米軍基地を本気で狙うというつもりで訓練をしていると思う。だからこそ撃ち落とせる体制と、"撃ったら君たちもとんでもないことになりますよ"という体制を作っておくということだ」。
村野氏も「SM-3に限って言えば、これまでの迎撃実験の成功率は80~90%となっているのでそれなりに信頼性のあるシステムだとは思う。もともとミサイル防衛というのは完璧な防御を保障するものではなく、"損害限定"といって、できる限りダメージを減らそうというものだ。これだけの成功率があれば、攻撃する側はより多くのミサイルを撃たなければならないし、その分だけ被るダメージが大きくなるということだ。これはアメリカが言うところの"核の傘"、あるいは"拡大抑止"といった形になる。"日本が攻撃された結果、アメリカが反撃をする。だからそんな攻撃をしてはいけない"というメッセージングを組み合わせることが重要で、必ずしもミサイル防衛単品の技術的な性能で評価するというものではない」と説明。
「北朝鮮がここ数年で作り上げてきた各種ミサイルの能力というものは、日本に届くというだけではなく、性能が上がってきている。朝鮮半島と日本の安全保障的な地政学的な位置関係というのは、1950年の朝鮮戦争の時と基本的には変わっていない。もし北朝鮮が韓国に対して何かをするのであれば、もちろん韓国は米韓同盟で北朝鮮に対応するし、日米同盟が米韓同盟を支援して立ち向かうことになる。つまり、北朝鮮に対する抑止は、半島と日本が一体となったフォーマットで成立しているものだ。逆に言えば、北朝鮮の脅しによって日本が韓国やアメリカを支援しなくなれば、北朝鮮の立場が改善するということだ。北朝鮮はそれを狙って物理的な攻撃能力を示しているということが十分に考えられる。そこに屈しないためにも、必要な防衛力を作ってきたし、これからも作っていくというのが現状だ」。
■文政権によって連携が困難になってしまった日米韓
23日にはアメリカで米韓首脳会談が行われ、トランプ大統領はこれまで容認していた北朝鮮の短距離ミサイルの発射について、今後の北朝鮮との協議で取り上げることを明らかにした。また、アメリカは北朝鮮との実務者協議に向けて、24日以降にアメリカ、日本、韓国の3カ国の間で調整を進めるとみられる。他方、10月14日に相模湾沖で行われる海上自衛隊の観艦式に韓国軍が不参加となることが決定した。北朝鮮との融和を目指す韓国、文在寅政権。そして北朝鮮と対話の姿勢を見せるアメリカ。今後、日米韓はどのように連携していけばよいのだろうか。
小泉氏は「今の事態というのは、文在寅政権の出現によって引き起こされた部分が大きいと思う。それでも日米韓の制服を着た人たちは、好き嫌いは抜きにして情報は共有していくべきだという考え方をしていると思う。軍事の専門知識を持った人であれば、日韓が仲違いをして、良いことは一つもない。アメリカにとっても、日韓の連携はありがたいはずだ。そんな中で、"日本しんどい"ということこそが北朝鮮の狙いだという可能性がある。アメリカについてはトランプ大統領の中で北朝鮮に対する脅威認識が下がってきているし、韓国についても、文大統領は北朝鮮のミサイルはそんなに怖くないと思っている。そこで日本だけが依然として北朝鮮は脅威だと思っていると、これまで連携できていた日米韓の思惑がバラバラになってしまう。日本は同盟国のアメリカに見捨てられたような感じがするし、韓国はどこにいってしまうのか分からないような感じがする。結果的に、北朝鮮は軍事力を使わずしてアメリカの同盟網を分断することができてしまう。脅威認識というのは外交政策や安全保障政策を作る時の本当に基盤になるものだ。表面的に"日米韓で協力をしましょう"と言ってみても、見ているものが違えばアプローチにも違いが出てきてしまう。だから本当はここでもう一度、日米韓が脅威認識のすり合わせをして、GSOMIAのような問題についてもきちんと話をできればいいと思う。しかし、やはり日本にとっては韓国の行動原理が非常に分かりにくく、困惑せざるを得ないところだ」とコメント。
村野氏も「従来のアメリカのスタンスはトランプ大統領の考えとは異なっているし、アメリカで外交安全保障政策を作っている専門家たちは今まで通り日米韓が足並みをそろえて協力をすることが重要なのだと常に言ってきた。だからこそ韓国側がGSOMIA破棄を決定したことについてアメリカの政府高官やシンクタンクコミュニティーの中からも韓国擁護の声は基本的にはなかったし、韓国がリアリスティックな見方ができなくなる中、少なくとも文政権が終わるまで、日米韓協力について次のアジェンダを出すことが非常に難しいというのが共通認識になっている。私は26日にワシントンに戻るが、北朝鮮政策について日米韓の政府関係者とシンクタンカーが集まり、3か国で再び共同歩調を取るにはどうすればいいかと話し合う。私もすごく考えていたが、本当に難しく、苦労しているところだ」とした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶動画:小泉氏、村野氏を交えた議論の模様(期間限定)
この記事の画像一覧■Pick Up
・キー局全落ち!“下剋上“西澤由夏アナの「意外すぎる人生」
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・「ABEMA NEWSチャンネル」知られざる番組制作の舞台裏