国連総会で「イランの指導者たちはシリアとイエメンで悲劇的な戦争をあおっている」と強い言葉で非難したトランプ大統領。その念頭にあるのは、サウジアラビアの石油関連施設が攻撃を受けた事件だ。この攻撃により、サウジアラビアは世界の1日の生産量のおよそ5%にあたる生産能力を失い、石油供給への不安から原油価格は一時高騰、NYダウ平均株価も下落した。
サウジアラビア国防省のマリキ報道官は「今回の攻撃はイエメン側からではない。イランがフーシ派の仕業に見せかけている」と発表。実際、攻撃に使われたものとされるドローンや巡航ミサイルの残骸を見てみると、三角形の翼が特徴的な形をしており「イラン製デルタウィング」との表示もある。また、7月にフーシ派が公開した巡航ミサイルや無人機の中には、これとよく似た機体があったという。
イランが支援するイエメンの反政府組織「フーシ派」の報道官は、「無人機ドローン10機により正確で直接的なダメージを与えた」と犯行声明を出しているが、トランプ大統領は「サウジアラビアの石油関連施設への攻撃がイランによるものだ」「責任ある国の政府は、血に飢えたイランを支援してはならない」と、イランの関与について強調した。
2001年、アメリカがアフガニスタンでの偵察や攻撃に使用して以降、注目を集めるドローンや無人機。パイロットは遠く離れたアメリカの基地で操縦していることから、命の危険を伴わない一方的な攻撃に批判の声も上がった。しかし技術の進歩により機体は小型化・安価となり、多くの国が軍事目的で使用するようになった。特に中東地域では対ドローン、そしてドローンによる作戦が当たり前となっており、イランは6月、ホルムズ海峡でアメリカの無人機を撃墜したと発表している。
今回の事件から見えてくる、戦争の未来とはどのようなものなのだろうか。
■イランによる"デモンストレーション"の可能性
まず、北海道大学大学院教授の鈴木一人氏は「イランはイエメンのフーシ派を支援しており、武器も輸出しているので、フーシ派からイラン製の兵器が飛んでくるは当然。元々イランがこのタイプのドローンを作っているという噂があったが、お披露目されたことはないので、どれだけの能力を持ったものなのかは分からないというのが現状だ。また、イランは他にもたくさん輸出しているので、イラン製の兵器というだけでイランからやってきたと断定することは難しい。また、イランから飛んでくるものは弾道ミサイルであるという想定で防衛していたが、ドローンはそれよりもはるかに低い高度を飛んでくるので、どこから飛んできたのかが分からない。加えてフーシ派は10機、サウジは18機と言っているので、誰が本当のことを言っているのかも分からない。今のところ、誰がやったのかということについてははっきりしない」と話す。
その上で、「イランが関与した可能性は高いと思う。ただ、イランとしてはサウジと直接紛争状態になるというのは避けたいので、自分たちが当事者であるということは示したくない。そこでイエメンの内政に介入したサウジアラビアと直接戦っているフーシ派からの反撃だというストーリーにし、それを守りたい。それでも今回狙われたのが石油施設ということで、もし何かあれば狙えるソフトターゲットがいっぱいあって、こんなに正確に当てられるんだぞということをデモンストレートしたと考えられる」との見方を示した。
米ハドソン研究所研究員の村野将氏は「アメリカ軍は宇宙空間から赤外線センサーを使って監視しているので、弾道ミサイルを撃って数秒後にはどこから撃ったかが分かるようになっている。関係国にそれらの情報を部分的に開示し、"これが証拠だ"と主張することもできる。ただ巡航ミサイルやドローンの場合は発せられる熱量が非常に微弱なので、常続的に特定の基地やランチャーを監視していないと分からない。また、レーダーの覆域に入ってくればどこから侵入してきたかは分かるが、巡航ミサイルやドローンは飛翔コースを変えられるので、理論上360度から侵入可能だ。特にサウジは国土が広く、守るべき場所が複数あるので、その"守りにくさ"も災いした」と説明する。
さらに今回の兵器については「少なくとも巡航ミサイルの方はイランにオリジンを持つものだと分かる。また、従来フーシ派が使っていたドローンは事前に飛行プログラムを設定し、GPSに沿って飛行するタイプのものだと言われているが、今回のものはドローンは新しく出てきたもの。形状はイスラエルが開発、あるいは販売しているドローンに似ているが、それがはっきりどこで作られたかということは分からない。アメリカ軍は数か月前にイランのドローンを電波妨害によって撃墜してもいるが、一定の自立性を持っているドローンに対してそうした通信を遮断することは難しい」とした。
■攻撃と防御の"非対称"により、迎撃コストの問題も
迎撃ミサイルが1発300万ドル(3億円)程度であるのに対し、"貧者の兵器"とも呼ばれるドローンは1機あたり1~2万ドル(約100~200万円)だ。そもそも迎撃ミサイルは使えない上、撃ち落とすこと自体が割に合わないという、攻撃と防御の"非対称"が表面化している。そんなドローン攻撃に対しては、すでに米軍が実用化済みの電子的攻撃や、同じく米軍が5~10年以内に実用化するとみられるレーザーでの撃墜、軍用ドローンによる抑止が考えられるという。
鈴木氏は「ドローン技術は大きなラジコンを作るようなところから始まっているので、軍事的な専門技術というよりは汎用性のある技術の組み合わせでできている。それなりの静寂性、爆弾の積載量に特化していくものを作っていくのは可能だ。そして、攻撃する側のコストが非常に安く、防御する側のコストが高いのも間違いない。ただ言わばコンピューターが飛んでいるようなものなので、撃墜するよりも操縦不能にするとうことが考えられる。たとえばGPSで飛んでいるものであれば偽の信号を送ることで違うところへ飛ばしていくというスプーフィングは行われている。通信が暗号化され、周波数も変わるようになっている軍用ドローンがあるのは、まさにそのためだ。一方、軍の活動としてはドローンの妨害のために公共電波が止まっても構わないかもしれないが、我々の生活には大きな影響があるのが難しいところだ」と説明。
村野氏は「ドローンを使うことによって何を達成したいのかにかかってくるが、人口が集中している場所を核兵器等で攻撃する可能性を示すことによって日本を脅すという目的であれば、やはり弾道ミサイルと核兵器の組み合わせがいいことには変わらない。それでも仮に北朝鮮がドローン技術を持った場合は、空中からセンサーを使って広範囲に渡って監視して、どこから接近してくるのかを見て、それに対応することが重要。ただ、迎撃のコストは高いので、防衛省も昨年から低コストな迎撃方法についての実証実験を始めている」。
■現時点ではアメリカも手詰まり状態?
では、今後のアメリカの対応について、どのようなことが考えられるのだろうか。
鈴木氏は「当面はトランプ大統領の対話路線が基本になるが、とにかくなんでも会話をして最終的な合意を得たいというよりは、アメリカの圧力に屈するかたちでイランが謝れば対話してやるというスタンスだ。その意味ではポンペオ国務長官、タカ派の共和党グラハム上院議員といった人たちが"イラン嫌い"を主張しているので、戦争にはならなくとも、言葉の上の対立関係はヒートアップしてるのが現状だ。今回のような攻撃を受けて、アメリカとしてもなんらかの形で決意を示さなければならないが、制裁する余地もほとんどないし、会話の可能性がなくってしまうことにもなるので、トランプ大統領としても実際は何もできない」と、手詰まり状態にあることを示唆。
村野氏は「どこから攻撃されたのかが分かっていれば、軍事的、あるいは別の手段を使って報復することによって、"こういうことをやったらどうなるか分かるか"というメッセージングをし、エスカレーションコントロールをするのが基本的なフォーマットだ。再び別の場所でサウジが攻撃されるようなことをさせないためには、少なくとも軍事関係者はなんらかの措置をとって、アメリカのリゾルブ(決意)を示さなければならないと強く考えているはずだ。ただ今回の場合、イランの関与についてどのくらいの確証を得ているかが分からないし、それをどういう形で示すのか難しいところだ。発射された場所が分かるのであれば、その基地を叩いたり、サイバー攻撃をすることで一旦手打ちにするということも考えられる」とした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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