開催中の芸術祭「あいちトリエンナーレ」の企画展「表現の不自由展・その後」が展示中止になった問題で、文化庁は26日、決定していた約7800万円の補助金について不交付を決定した。
この決定について萩生田光一文科相は愛知県側が4月の段階で混乱を想定していたにも関わらず文化庁に伝えていなかったことなどを挙げ、「残念ながら文化庁に申請があった内容通りの展示会が実現できていない。また継続できていない部分があるので、これをもって補助金適正化法等を根拠に交付を見送った」とコメント、「今後も芸術展は色んな所でやると思う。申請通りに出して頂いて、それを実現して頂ければ補助金はきちんとお支払いすることになるので、検閲には当たらない。中身については、まったく文化庁は関与していない」とも述べた。
一方、あいちトリエンナーレ実行委員会の会長でもある愛知県の大村秀章知事は、文化庁から求められた手続きに不備はなく、4月から愛知県が混乱を想定し警備の相談をしていたというのは事実誤認であると反論。「こういう抽象的な事由で一方的に不交付が決定されるということについて、我々は我々は承服できない」「裁判できっちりとただしていきたい」と怒りを露わにした。
あいちトリエンナーレの予算総額は約12億円で、内訳は、愛知県から約6億円、名古屋市から約2億円、そして文化庁の補助金「文化資源活用推進事業」から約7800万円、その他となっている。入場料収入は約1.9億円を見込んでおり、問題となっている「表現の不自由展・その後」の関連費用は約420万円となっている。
26日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した前東京都知事の舛添要一氏は「慰安婦像が展示されたのはけしからんというのが本音だろう。また、嫌いな展覧会だからと電話をかけてギャーギャー言ったり、デモをしたりすれば警備上の事由で止められるし、補助金も出なくなるということになれば、あらゆる芸術を潰すことができてしまうので、ものすごく嫌な思いだ。逆に韓国のように政権交代が起こってひっくり返ったら、逆のことが起きる可能性もある。だから政治家や権力者は芸術の中身について絶対に文句を言ってはいけない。そのことを分かっているからこそ、中身ではなく、手続きを理由にしたのだろうし、本当に手続きが理由なら、全部ではなく、該当する部分のカットでいいと思うし、継続することになったら改めて交付してくれるのか。ちょっと乱暴過ぎる」と指摘。
「結局、見る人が判断して、"嫌なら嫌だ"と、どこかで言えばいいこと。だから何でも見せちゃえよと思うし、力で潰すというのは良くない。私が思い出したのは、ナチスドイツが抽象絵画などを"退廃芸術"と呼んで、それらを集めて展示会を開いた。それと同時に、自分たちの好きなものを集めた「大ドイツ芸術展」というのもやった。そうしたら面白いことに、マティスやルオー、ピカソなどが一度に見られるとあって、退廃芸術展の方に人が集まった。私はナチスやヒトラーが大嫌いだが、そうやって見せただけ今回よりもマシだ。脅迫したやつは捕まったが、こうやって圧力をかけていれば、民主主義は無くなってしまう。自分と主義主張がまったく違う展覧会をやるくらいの心のゆとり、太っ腹なところがほしい」。
25日に出た「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」の中間報告では、「展示は主催者の趣旨を適切に伝えるものと言い難い。キュレーション(展示実施)に多くの欠陥」「芸術監督(津田大介氏)には多大な権限。判断ミスなどを抑止する仕組みが用意されず」と指摘する一方、「抗議電話対策や作品に解説を加えるなどした上で『表現の不自由展・その後』は再開すべき」と提言している。
報告を受け、津田氏は「最初から最後までずっと難しい舵取りを強いられている(その帰結が検証委の『あいちトリエンナーレ2019の芸術監督は割に合わない仕事である』)し、外から見える以上にその複雑さは深刻なので今更大概のことでは驚かない。『これで難しくなった』とかない。ずっと難しい状況が目の前にあるだけのこと」とツイートしている。
舛添氏は「津田大介さん本人も認めているが、色々ミスというか、甘かった感じはする」としつつも、「では、文化庁はどういう目で見ていたんだ、ということだし、通した人の責任はどうなるんだとなる」と指摘。「企業やスポンサーとの仕事と違って、公の仕事は何も考えなくて済むし、なんでも言えるはず。だから文化に公金を出す意義がある。そうでなければ、みんなビクビクしてしまって芸が成り立たない。こんなことをやっていると、日本は不自由だし、出品して叩かれるなら最初からやめだといって、海外のアーティストが来なくなってしまう」と警鐘を鳴らす。
慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「津田さんがジャーナリストだということは最初から分かっていたはずだし、そういう人がチャレンジングなことをするということも分かった上で交付を決定したのだから、文化庁の審査にも問題があったと思う。内容の問題ではなく、手続きに不備があったというなら、よほどの不備ではなければ全額カットはあり得ないと思うし、本音を言うとまずいから建前の理屈をつけているのだろう。文化庁は墓穴を掘った気がする」と批判。
その上で、「インパクトが強すぎて、昭和天皇の肖像を燃やす作品についてはテレビ番組でも解説の報道すらしにくくなっていると思うが、元々は昭和天皇にまつわる作品の展示ができなくなり、その図録が燃やされてしまったということに対する怒りを表現した、逆説的な文脈のある作品だ。文脈があれば全てがOKだとは言わないが、多くの人は、なぜあのようなアートが存在しているのか、理由を知らない。反対意見が集まるのは当然だったと思うが、ただちに打ち切るほど乱暴な表現だったのか、議論の余地はある。そういうことを丁寧に見て、きちんと展示で説明をしないなら補助金をあげないというなら分かるが、ゼロかイチかで判断し、0円にしてしまうのはどうなのか」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶動画:舛添氏による解説(期間限定)
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