慰安婦を象徴する少女像などを展示したことに対する脅迫を含めた抗議が殺到し、わずか3日で中止となった国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」内の企画展、「表現の不自由展・その後」。
文化庁は26日、同展に警備上の混乱が予想されることを把握しながら事前に説明がなかったとして、補助金7800万円の全額交付を取りやめることを決定。萩生田光一文部科学大臣は記者団の質問に、「残念ながら文化庁に申請があった内容通りの展示会が実現できていない。また継続できていない部分があるので、これをもって補助金適正化法等を根拠に交付を見送った」と説明した。
この決定について、あいちトリエンナーレ実行委員会会長でもある大村秀章愛知県知事は怒りを露わにし、「円滑な運営ができないから、そのことについてちゃんと報告しなかったからというだけのことで、この4月25日の採択決定が覆る合理的な理由はないと私は思っている」と主張。さらに「憲法21条の表現の自由を最大の争点として今回、速やかに法的措置、裁判でもって文部科学省の見解をしっかりただしていきたいというふうに思っている」とも述べている。
しかし菅官房長官は27日、「補助金申請の手続きに関して不当な行為が認められたことによるものであり、展覧会の具体的な内容に関係ないというふうに承知をしている」とコメント。萩生田文科相も「今の問題意識を決して否定するものではなくて、今後そういうことが前例になって大騒ぎすれば展示会をやめられて、そして補助金がもらえなくなるような仕組みにどんどんしていくことはまったく思っていない」とした。
一連の問題について27日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、大村知事と、企画展に作品を出品した造形作家の中垣克久氏を招き、話を聞いた。
■大村知事「内容が気に食わないから外すということだとしか思えない」
大村知事はこれまでの流れについて詳細に説明した上で、「色々な条件整備をした上で展示を再開できないか、という思いで検証委員会を立ち上げ、一連の事実経過を検証して、整理して頂いた。そして25日には条件を整備し、安心・安全が確保できれば再開を目指すべきだという提言を頂いたので、ハードルは高いかもしれないが、再開のために最善の努力をしたいと申し上げた。その途端、翌日の26日に突如として全額不交付が決定し、いきなり通知を送ってきた。手順が、という理由には無理があるし、やはり中身が良くないから弾くんだ、再開はけしからんというような思惑が入っているのではないか。協議する場はもう裁判しかない。本当に寝耳に水で驚いた。もし内容がいけないというのなら、それは憲法21条が定める表現の自由の侵害に当たると思うので、裁判では文部科学省さん、文化庁さんとしっかり争うというより、その点を質していきたい」とコメント、助成金の7800万円という額についても、「大きい小さいではない。国が芸術祭に対して採択決定をしたにも関わらず、抽象的な理由だけで全額不交付決定をしたことについて合理的な理由がないと言っている。合理的な理由がないのなら、それは内容が気に食わないから外すということだとしか思えない」と強調した。
さらに「萩生田さんは事実誤認をされておられる。"4月の段階で愛知県職員は知っていて、警備・安全について警察と協議していたのに報告しなかった"と言っておられるが、そのような事実はない。県の事務方が知ったのは5月のことで、通常の芸術祭のための警備等々の相談も常にあった。また、問題になったのは少女像について私が知ったのは6月だったので、直ちに津田芸術監督を通じ"これはなんとかならないか。写真、SNSの投稿は禁止できないか"といったことを申し上げた。ただ、愛知県知事である私は公権力者だ。その私が会期前に"内容に色々問題があるから止めろ"と言ってしまえば、まさに検閲になってしまうので、強い要望、希望は申し上げたが、それ以上は"なんとか警備を"ということで協議をした。もう一つ、昭和天皇と思われる方の肖像画を対象にしたような映像作品も大きな批判の対象になっているが、これは残念ながら事前に県庁の方には教えて頂いていなかった。突然入ってきたということなので、これはまた契約上どうかという別の問題になると思うので、やられた方々、不自由展の実行委員会の皆さんとはしっかり話をしないといけないと思っている。その上で、我々は手順、手続きはしっかりと踏んできたと思っている」とした。
■元官僚が分析…政治家の判断?文化庁の本音は違った?
これに対し、元経産官僚の宇佐美典也氏が「結論からいうと、私は手続き上の瑕疵はあったと思っている」と異論を挟んだ。
「補助金の交付までには、採択することが決まる、つまり"内定"のようなフェーズと、交付が決まるというフェーズがある。今回は元々交付の決定までは至っておらず、その交付の決定はしないという判断だ。愛知県は補助金交付の申請を5月30日に出していて、本当はそれを30日以内に審査して交付を決定しなければならなかったが、それをしないで延ばしていたので、この点は文化庁側にも問題がある。ただ、展示が始まって炎上し、事業の中身が変わったということがある。一部の開催を中止したということは、金額の変更も出てくるだろうし、津田芸術監督が重要な展示だったと言っている以上、全体のコンセプトが変わる可能性もあったわけで、少なくとも文化庁に説明があるべきだ。役人の感覚からすると、事業内容が変わる時は文化庁に対して相談が必要だし、当然、申請書類の出し直しも必要だ。文化庁はそれが一切なかったと言っている。もちろん金額を変えるのが正しいと文化庁も思っていると思うが、一部出すという時に、いくらが適正かという判断が難しいので、現実の選択肢としてあがらなかったのだと思う。なかなか難しい決断だったと思うが、ここで一度全額なしにして争うという判断を文化庁はしたのだろう」。
その上で、「おそらく今回は文化庁としては全額出す、一部出す、全額出さないという3パターンを上げて、政治家が決めたんだと思う。また、前例が無いことなので、起案してから判断を下すまでには1週間程度はかかったはずだ。そのタイミングで再開すべきだという報告書が出たというのは、検閲だと言われてしまう文化庁としては痛恨だったと思う。あまり言いたくはないが、クビが飛ぶ人も増えているし、官邸が人事権を握っているので、霞が関がものすごく保身に走らざるを得なくなっている。昔のような裁量もないし、役人が国全体のことを思って、自分の判断でちょっと融通を効かせるというようなことをする時代では無くなっていることは確かだ」とも指摘した。
これに対し、大村市長は「文化庁の様式、要項に基づいて申請をしていきたし、記載した事業内容の通りにやってきている。中身についても、我々は3月に出そうとしたが、文化庁は外形的に要項に示したものだけでいいということだったので、その通りにやってきている。不自由展を安全上の理由から3日で中止にしたということも、翌日には文化庁に報告している。また、表現の不自由展は、106ある企画のうちの1で、全体12億円の予算のうち400万円、0.3%分という小さな企画で、あいちトリエンナーレ2019そのものの内容は変わっていないし、非常に高い評価を頂いている。前回よりも2割増の40万人を超える方に来て頂いてもいる。文化庁は芸術祭について一旦採択決定したものを全額取り消した例はないと言っている。この整合性を質していきたい」と反論した。
■中垣氏、萩生田大臣は「"この目は信じられないな"、という方だ」
ここまでの議論を受けて、中垣氏は「こういうことを新しい自民党の政権がやっていることにびっくりした。政府のやり方は暴挙だ。人間性を逸脱してしまっている。我々の税金を勝手に私物化するなと言いたくなるほど、やり方が非常識だ。検閲ではないと言ってるんだから、"もう1回、手続きをやってよ"と言えば済むことだ。106のうちの一つで、若干のアレンジなんていいではないか。官僚には、やさしさというか、文化に対するリスペクトがない。逆に言えば、文化庁長官がどういう人は分からないが、文化庁の中に芸術の分かるやつがいない。文化を知っているやつがいない。多分、芸術に無知なやつらの集団ではないか。そして、萩生田大臣の言葉は信じられない。僕は彫刻家だから、顔をよく見る。目つきを見る。"この目は信じられないな"、という方だ」とコメント。海外の方からは、開発途上国か、先進国ではない、という言い方をされた。私もそう思う。海外では、金は出すが口は出さない。日本はものすごく官僚主義で閉鎖的で、多様性を欠いている。大村知事も津田監督も苦しんでいると思う。間違った方向に持っていかないようにしないと恥ずかしい」とした。
また、先月12日には、海外作家11人が「表現の不自由展・その後」の中止を批判する声明を出し、「アーティストと表現の自由を守ることは、あいちトリエンナーレの責任」とし、企画展が再開されるまで自作の展示中止を求めたこともある。
中垣氏も「なんで僕らに相談がなかったのか、ということは何回も言ったし、津田監督からは"申し訳なかった"と素直な返事があった。緊急だったので、我々のところまで相談が来なかったということで納得した。ただ、中止ではなく、"一旦中止"と入れておけば良かったのになと思った。夫婦喧嘩でも、"出てけ!"ではなくて"ちょっと出ていってくれる?"みたいな。その結果、今回の補助金打ち切りという問題に発展してしまった。こんなに小さな国の中でそんなにいがみ合うことはない」と話す。
大村知事は「中垣さんが言われたように、一旦中止というニュアンスでも良かったかもしれない。ただ、電凸、"ガソリン携行缶を持ってお邪魔する"というテロ予告のFAXまで来た。翌週には犯人が逮捕されたが、そういうことにまでなれば事態を収拾しないといけないし、芸術祭を安全・安心にやらないといけないという責任があるので中止にさせて頂いた。このことは憲法上も検閲には当たらず、安全安心を守らないといけないからということで、検証委員会でも整理いただいた。ただ海外アーティストの間では、これが安全安心に名を借りた検閲ではないか、これ以上日本の芸術祭には出展できないという声もどんどん広がっている。我々の芸術祭などでも、芸術・美術の専門家が中身を決めていく、チェックしていくことをもう一度整備し直さないといけないのではないかということをひしひしと感じている」と説明。「条件を整備して、なんとか10月14日までの会期中に再開を目指したい。不自由展の関係者、作家の皆さん、学芸員、キュレーターの皆さんで相談、協議を始めている。協議が整えばということになる。精力的に協議をしている」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶動画:大村知事を招いての議論の模様(期間限定)
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