勝負事において、負けることが今後に役に立つこともあるが、やはり勝つことを上回るものはない。初代王者でありながら、そのことを一番感じたのは赤坂ドリブンズ・村上淳(最高位戦)かもしれない。9月30日に控える「Mリーグ」2019シーズンの開幕前にインタビューを受けると「負けていたら、チームから外れている可能性もあったと思う」と、神妙な顔つきで答えた。自身の不振を「優勝」で救われたと考える男が、唯一許された連覇への道を走り出す。
トップクラスのプロ雀士として知られる村上の目に光るものがあったのは、ぎりぎりの4位で進出したファイナルシリーズで、自らトップを取った時だ。レギュラーシーズンの個人成績は、21人中16位の▲162.0。「レギュラーシーズンで苦しくなったのは、自分がマイナスしたからというのは、誰が見ても明らか」と、責任を強く感じていた。一時は個人首位を快走していたチームメイトの園田賢(最高位戦)が途中から下降線を辿ったことについても「僕の負担が大きかったから」。もう一人の仲間、鈴木たろう(協会)も含め、2人へ迷惑をかけているという思いに、ずっと苦しんだ。
苦悩の反動か、ファイナルでは自ら「ツイてました」と話すように、麻雀の神に愛された。「そんなにいい麻雀でもなかったのに、ただただ恵まれていました。2人の調子もよかったし、そういう雰囲気にそのまま乗っかれたのかもしれません。あの雰囲気が優勝するムードなんですかね」と、一時の苦しみが嘘のように、勝利者だけに訪れる独特の空気感に包まれていた。
今年は連覇も目指しつつ、新加入でプロ2年目の丸山奏子(最高位戦)を育成しながら戦うというのが、赤坂ドリブンズのチームプラン。この点についても、村上は勝利が必要だという。「勝てば全てが本当にうまくいくと思うんです。どのプロスポーツでもそうだと思うんですが、僕自身もファイナルで勝てたからよかったですけど、負けていたらチーム外れている可能性もあったし、もっと暗い言葉しか出なかったかもしれない」。開幕からチームの調子がよければ、3人だけでなく丸山も、1試合の負けにめげることなく前向きに戦えるだろう。ただ、連敗続きで下位に沈むようであれば、育成どころか目先の1勝に執着せざるを得なくなる。ただでさえ連覇を阻もうと、他チームからの研究対象になっている中、「育てて勝つ」ことは並大抵のことではない。
全てを好転させる「優勝」という2文字。村上は今年も、この1点だけを見つめて邁進する。
◆村上淳(むらかみ・じゅん)1975年4月10日、東京都生まれ。B型。最高位戦日本プロ麻雀協会所属。主な獲得タイトルは第35・39・42期最高位、第5・9期最高位戦Classic、第8期日本オープン、第14回モンド杯、第10回モンド王座、麻雀駅伝2018、第2期新輝戦、Mリーグ2018初代王者他多数。著書は「最強麻雀 リーチの絶対感覚」。
◆Mリーグ 2018年に発足。同年10月から7チームによるリーグ戦を行い、初代王者の赤坂ドリブンズが優勝賞金5000万円を獲得した。2019シーズンから新たにKADOKAWAサクラナイツが加入し、全8チームによるリーグ戦に。各チーム3人ないし4人、男女混成で構成され、レギュラーシーズンは各チーム90試合を行う。上位6チームがセミファイナルシリーズ(各16試合)、さらに上位4位がファイナルシリーズ(12試合)に進出し、優勝を争う。





