山梨県の中学校に通う3年生の A 子さんは、1年半前に自殺未遂に追い込まれた。5年間に渡るいじめとの孤独な戦いについてA子さんは「学校に入る瞬間、自分は何をしているんだろう……それしか頭になくて。生きることに疲れた」と明かす。
小学3年生の時に山梨県の学校に転校したA子さんに対するいじめが始まったのは、中学1年生の時だった。転校のきっかけは、2011年3月に発生した東日本大震災。福島県の南相馬市から移住した先が、山梨県だった。A子さんの母は「中学1年の3学期が始まって、突然『もう限界です』と言われた。そのときはすでにボロボロだった」と話し、A子さんから初めていじめを告白された時のことを振り返る。
5年間、一人でいじめに耐え続けたA子さんは活発な子だったという。それが一転していじめの対象になると、次第に口数は少なくなっていった。
「無視され、仲間外れにされ、物もなくなった。自宅に家族がいない早下校のときには自宅まで押しかけてきて、羽交い締めにされ、蹴られたり、ボールをぶつけられたり……」
陰湿ないじめの結果、A子さんは母に伴われて精神科の「思春期外来」を受診し、学校にも相談した。しかし、具体的な対応を求めた二人の要望に対する学校側の対応は、まるで学園ドラマのような驚くべきものだったという。A子さんの母は憤りを隠せない様子で続ける。
「校長先生に“チームA子”で頑張ろう、みんなで写真を撮ろうと言われた。こういう時は手と手を取り合って、みんなで頑張って、A子さんの結婚式の時に『こんなこともあったね』と出しましょうと言われて、娘の命を軽く見られ、バカにされているようにさえ感じた」
■「死ななくてよかった」女子生徒のいま
「学校は区切りをつけたがる」
年間800件のいじめ相談に取り組む「特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の阿部泰尚代表は、校長の言動に至った理由についてそのように指摘すると「(いじめ対策を)やりましたよという実績だけつくりたい。学校はそれで『解決しました』とするが、文部科学省から出ている『いじめ解消の定義』には、いじめの被害を受けた子が、心身の苦痛を感じていないこととある。つまり、この子の心身の苦痛が無くならない限り、いじめは解消していないということだ」と話し、学校の対応を非難した。
去年、A子さんのいじめに対して第三者委員会が設立されたが、今年9月現在、調査の進行状況に関する回答はないという。学校の対応に不信感を抱いた母はA子さんを一時的に入院させ、その後、山梨県内の別の中学校に転校させる処置をとった。
将来、管理栄養士になる夢を持つA子さんは、友だちが増えた転校後の学校生活について「めっちゃ楽しい」と打ち明けると「運動することは苦手だが、クラスメイトがフォローしてくれるからやりやすい。自分を支えてくれた人、家族に感謝したい」と笑顔で語る。さらに「死ななくてよかった」と漏らしたA子さんは「イヤな大人っていうと言葉が悪いかもしれないけど、人の気持ちを理解できない大人たちがいる一方、いい人もたくさんいるということも知ることができた」と前向きに話した。
■いじめ解決は教師の「評価対象」ではない
「大人たちにできることはないのか」
このテーマに共感を示したノンフィクション作家の小松成美氏(57)は「大人としてできることはある。学校とは違う場所、先生とは違う指導者が世の中にはたくさんいて、たくさんあるということを教えるのは学校の中ではなく、学校の外にいる私たち大人の役目。同じ苦しみを抱えていて、すぐに分かち合える人々もいるという情報をSNSなどで伝える機会を、一般の市民がつくっていくべき」と私見を述べた。
東京大学大学院卒で元日経新聞記者の鈴木涼美氏(36)は「いまではiPadで学校の先生より頭のいい人、面白い人の授業を見ることができる。友達もSNSでつくれ、顔の見えない状況の方が心を打ち明けやすいこともある。何もなかった時代の学校の制度に縛られている生徒であり、先生であり、親なのではないか」と持論を展開した。
そんな中、「なぜ、学校の教師はいじめ解決に消極的なのか」という問いに対するユース・ガーディアン・阿部氏の「評価対象ではないから」という答えが紹介された。教師の評価はクラスにおける成績優秀者の人数がその対象であり、いじめを一つ解決しても評価してもらえない。仮に中学であれば、3年間見て見ぬふりをして、該当生徒が卒業していくのを待つというのが教育現場の実態としてあるという。
文科省が2017年に発表したいじめ被害の件数は、41万件以上にのぼる。先月8日には、「教育委員会は大ウソつき」という言葉をノートに書き残し、埼玉の県立高校に通う小松田辰乃輔さん(15)が川口市の自宅マンションから飛び降りて死亡した。小松田さんは中学生の頃にいじめ被害に遭って以降、3回の自殺未遂。その間、いじめを訴える手紙を何通も書いていたが、学校側がSOSと受け止めていなかった。事態を重く受け止めた川口市教育局は一昨年になって第三者委員会を設置したが、一部報道で母親は第三者委員会の設置の説明や聞き取り調査を受けていなかったと主張しており、学校側もなかなかいじめを認めないなど、事態は平行線をたどっていた。自ら命を絶った小松田さんが最後にノートに記した言葉は「いじめた人を守ってウソばかりつかせる。なんのために生きているのかわからなくなった」であった。いま、いじめに向き合う大人たちの素質が問われている。(AbemaTV『Abema的ニュースショー』)
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【映像】中3女子の母、学園ドラマのような学校のいじめ対応に怒り
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