10月13日に東京両国国技館で開催されるONEの日本大会『ONE: CENTURY 世紀』に日本を代表するグラップラーの青木真也が出場。「舐めんなよ、ジャパニーズMMA」のテーマを背負ってフィリピンのホノリオ・バナリオと対戦する。今年3月、ONE日本初上陸となった「A NEW ERA-新時代-」では当時ライト級王者のエドゥアルド・フォラヤンを1R２分34秒、肩固めで締め上げて２年4カ月ぶりとなるONEライト級のタイトルを奪還した青木はその後、5月のシンガポール大会『ENTER THE DRAGON』で若き天才・クリスチャン・リー（シンガポール）との対戦に敗れ、わずか2カ月で王座陥落の憂き目にあった。
今回ONEの100回記念、さらに日本大会という舞台で日本MMAの顔として負けられない再起戦を1週間後に控える青木真也の本音に、UFC番組の司会を務めるなど格闘技好きで知られるお笑いタレント・チュートリアルの福田充徳が迫った。2009年末のDynamite!!のリングでファンに衝撃を与えた出来事。さらにヒールターンの理由など、青木ワールド全開となった対談の後編である。
福田 今の格闘家は「巧い」けど「金を払う対象がいない」というのはなぜ？
青木 自分も今の格闘技を見ていたら「格闘技をやりたい」と全く思わなかったはず。別にただのスポーツを見たいわけじゃない。ストーリーと物語を見ている。試合しました、勝ちましたというのを見せられても……「小銭稼げてよかったね～」くらい。結局、今の指導者の多くがインディー出身。メジャーな格闘技を経験した指導者がいないんです。だから発想がインディー。そこに僕らが憧れた「ジャパニーズMMA」の文化はそこにない。
福田 「ジャパニーズMMA」の文化は、どの世代くらいまで残っていますか。
青木 僕らが最後じゃないかな。北岡、川尻……川尻にあるかはわからない。川尻がアメリカから帰ってきたときに、楽しくなっていっちゃって負ける。それがショックで。川尻は「ショッパイことを芸事にまで昇華させた」選手。“ショッパイ”っていう芸なんですよ（笑）。それを変えちゃったときに崩れた。その点、RIZINに戻ってきてからはショッパイを貫いている。貫くことは大事。
福田 確かに“すべり芸”でもやり続けることで芸になる。若手選手の中で、気になる選手いませんか？
青木 そこはジェネレーション・ギャップもあるのかもしれない。技術レベルは満遍なく上がっているけど。
福田 どうしたら盛り上げるんですかね？ 日本人選手は出てきていますが、もっとメディアに取り上げてもらわないと競技人口増えないですよね？ 他のメジャースポーツを見てもそうですが。
青木 日本以上に、世界はもっと上がっている。でも普通に考えたら、この島国の競技人口では頑張っている方だと思うけどな……。難しい事なんですけどね、格闘技がスポーツになって欲しくない。芸事、表現の手段であり続けて欲しい。佐藤ルミナが「格闘技をオリンピックに」と言ってるけど、本当にバカだな……って思う。本当にダメ。修斗が突き抜けないのはソコ。競技レベルが上がればプロなの？ プロフェッショナル・アマチュアみたいな状況でイマイチでしょ。
■「格闘家である前に、勝負師であれ」
福田 青木さんは試合の勝敗と自分がやりたい（表現したい）こと、どっちが大事だと思いますか？
青木 ジャパニーズMMA用語で「勝敗を超えた」っていうのがあるんだけど……そんな勝負はない。対戦する二人が勝敗に徹底的にこだわるから、その結果として勝敗を超える。徹底的にこだわるから感情が揺さぶられるんですよ。「格闘家である前に、勝負師であれ」。勝負師で無いと、勝負事には勝てない。
福田 試合中に「アレ？ こんなはずじゃなかった」みたいな展開。焦ることってありません？
青木 ありますよ。
福田 どうするんですか？
青木 我慢する（笑）。格闘技って相手をただやっつけるものじゃない。基本的には我慢するもの。だって、やっつけようとしたら、スキができますよね？ 「一本取る」ではなく「一本もらう」と考えている。ミスを誘発させるゲームだと思っています。
福田 青木さんは「世界一」を口にしませんけど、理由ってあるんですか。
青木 僕はMMAでもグラップリングでも、「世界で強い」とされている人にとりあえず触っている。だからこそ、世界とか世界一とか曖昧な状態で口にしないようにしているんです。これは、僕なりの格闘技に対する真摯な気持ち。軽く口にしている人って、そもそも触ったことないでしょ？
福田 「触れてもない奴が、よくそのワードを出せるな」ということですね。
青木 引っ張り出すためにテメェのタニマチに向けた言葉でしょ？ 僕は初めから「世界で一番になることはできないけど、自分の可能性を最大限使うことはできる」と思っている。そこは他の選手と違う。
福田 実際、青木選手から見て、他のメジャー団体と比べるとONEのレベルってどのくらいなんですか？
青木 見りゃ、わかるでしょ（笑）。
福田 いやいや（苦笑）。いやいや（笑）ただ個人的にはリングとゲージを統一して欲しい思いがあります。僕は統一してゲージがいいな。
青木 わかります。でもお金をもらうお仕事だから。レベルに関しては、ガクッと差があるよね。やっぱり世界で一番強い団体はUFCですよ。ビジネス規模からして全部違う。
福田 （ONEは）ギャランティめっちゃいいでしょ？ 修斗やパンクラスの選手がONEと契約して「やっとこれで生活できるようになった」みたいなコメントありますよね。やっぱり夢はあるのかな？
青木 小童どもにとってはね。でも、飯食えるから格闘技みたいな考えなら「さっさと辞めちまえ」と思っちゃうんだよね。そんな恥かしいこと言ってるようじゃ。金さえもらえば変わるような人生だったら、これじゃなくていいだろって。ONEでも格闘技でもある必要がない。結局、自分のやること、格闘技を通じて伝えたいことに主義主張がない。確かに銭をもらえることで競技力も上がるだろうし、やりたい人が増えることはいいこと。でも、「テメェの実力じゃない」とか思っちゃう。俺のダメなところなんだけど……。
福田 どういうことですか？
青木 プラットフォームに乗ってるだけじゃんって。
福田 ONEと契約してもらえるところまで頑張ったということにも意味はあるのではないかと。
青木 ただ勝っただけでしょ。いかに物語（ストーリー）を見せるかだと思うから。ONEのCEOのチャトリが「俺たちはファイトを売ってるんじゃない。ヒーローを作ってるんだ」ってよく言うんですけど。日本人に分かりやすく言えば「ファイトではなく、物語を売っている」ということ。ONEというのは、物語を売っている団体だということ。成り上がりや女性の解放など様々なストーリーがある。それがONEの強み。
福田 感情移入はしやすいですよね。僕はプロレスが好きで入った人間だから、そこから入って好きなファイターを探していた。今はファイターが多いから、軸が定まらなくてよく分からない。誰がセンターなのか。例えば「長州が好き」だったら、「マサ斎藤という師匠がいるのか」と物語が繋がっていくけど。
青木 今は見方が難しいですよね。
福田 感情移入できるファイターがいることによって、大会を気持ち入れてみることができる。今回、青木さんと話してみて、ぶっ飛んではいますけど（笑）色々なファンがいる。
青木 アンチもファンだから、もし僕が負けて会場で涙してくれたら、それはそれで僕の勝ち。感情が揺さぶられたわけだから。
福田 トラッシュしかけるファイターは好きじゃないんです。だからマクレガーとかもあまり。ただ、つい試合は見てしまう。エンターテインメントとしてそれが無いと、忘れてしまう。それと似ていますね。
■来たれ「ジャパニーズMMA」を受け継ぐ若者
青木 最近、「青木経済圏」じゃないけど、廣田とかマッハとか、なんだかんだ言って、みんな回っているでしょ？ 同世代のファイターがリンクして回っている。これはとても幸せなことじゃないかなと思うことがある。
福田 まぁ、「腕を折られて幸せ」は無いと思いますけどね（苦笑）。
青木 こうやって受け継がれ、回っていくのが、ジャパニーズMMA。ただ宇野薫が「俺に勝っても若手が（ストーリーを）引き継いでくれない」って言っていた。これでは宇野さん自身も「ただ負けた」という事実が刻まれるだけ。これは勿体ない。ストーリーは受け継がれていくべきなんです。僕は桜庭さんのを受け継いだつもりでいるから、どこかで返さないといけない。でも着地場所がない。
福田 それをもらってくれそうな後輩は？
青木 います？ ストーリーがあって、気合が入っていて。5月に戦ったクリスチャン（・リー）は良いかなと思ったんですけどね。
福田 そんなことまで考えて試合してるんですね。
青木 物語にならなければ勿体ない。いま53戦だけど、多くても60、70戦。限られた試合数でいかに、どこに繋がっていくかは大事。
福田 （13日の対戦表を二人で眺めながら）なるほど、では青木さんのストーリーを拝見させていただきます！
(C)AbemaTV
【映像】青木真也、試合後のパフォーマンスは健在
▶映像：ONE Championship日本大会 生中継中
