「災害情報の何をテレビで流し、何はネットで流すのが最も価値の高いメディアミックスだと考えているのかと、誰か国会でNHKに質問してほしいよ。多分そういう考え方をしたことがまったくないんだと思う。テレビvs.ネットじゃないんだってば」。これは台風19号が接近しダムの緊急放流が報じられていた12日夜、ブロガーのちきりん氏がTwitterで発信した問題提起だ。台風情報を含む、災害時のテレビ報道はどうあるべきなのだろうか。14日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、特にネットとの連携、そして役割分担について議論した。
台風19号が接近していた時、長野県軽井沢町に滞在していたという慶應義塾大学の夏野剛特別招聘教授は「停電が起き、テレビが見られない状態になった」と明かす。
「そうなるとネットしかないが、古い情報や信憑性の低い情報も多い。これから災害がますます増えて激甚化していく中、ネットでの情報発信はさらに重要になっていく。テレビ局の経営陣も芸能事務所も"ネットは敵だ"などと言うが、少なくとも災害時はそういうことは言ってはいけない。3.11の時もNHKと民放2局がネットでサイマル配信を行ったことで情報が得られたという人もいた。今後は根本的に考えを変えて、テレビ局にネットを使うことを強制し"やらないところには放送波はあげない"くらいのことをしないといけないし、できたことなのにやらなかったことは何なのかを検証してほしい」。
この提案に、幻冬舎・編集者の箕輪厚介氏も「YouTubeやTwitter見られるようにすればいいのに、テレビをつけないと見られないようにするということが、そもそも時代遅れなのではないか」と応じた。
カンニング竹山は「東日本大震災の時にも思ったことだが、テレビは地方で起きたことを東京のキー局が受け取って、それをもう一度地方で発信しているような形になってしまっている。そんなことをしていたら、いま情報を知りたい人に伝わらない。地方局にも必ず報道部門はあるので、様々な事情はあると思うが、東京からのキー局の放送は止めてでも、それぞれの地域の情報を放送したほうが地元の人にはありがたいはずだ。そうすれば"あそこでゴミが捨てられる"といったことも分かるようになると思うし、"まだ隣の県のことをやってる。早くこっちをやってくれないかな"というような事態は割けられる」と指摘。夏野氏は「番組の内容についてはその通りだ。確かにキー局の番組の中に時々ローカル局の中継が入る。一方で、ローカルの局には放送を持続できるだけのコンテンツ量が制作できない。それでも"L字"テロップやデータ放送は完全に地域ごとにカスタマイズされている。その点はかなり役立ったし、役割を果たせている。ただ、自分のところが停電になるまでは"傍観者"なので、"ここであんなことが、ここでこんなことが"、として観ているが、自分が当事者になると知りたい情報が変わってくるので、その両方を相手にしないといけないテレビは大変だ」とした。
一方、AbemaTVのAbemaNewsチャンネルのケースについて、テレビ朝日の平石直之アナウンサーは「テレビ朝日の系列局による特番をそのまま流し、静岡に台風が接近しているときは静岡朝日放送、その後は長野朝日放送、という具合に移していった。つまり、AbemaTVの視聴者は、ローカル局の番組を全国で観ている状況だが、こういう災害の時は非常にいいと思うし、テレビ局もネットと地上波の棲み分けについては何とかしようとしているが、まだまだ意識が足りないと思われてしまっている。一方、私は12日の土曜日には地上波を担当したが、民放はやるべきときはやるが、そうでないときは情報を蓄え、整理することをしているので、どうしても放送としてはまばらになる。その点、NHKはずっとやりつづけられるだけの体力がある」と話した。
ちきりん氏のTweetに反応、「同感。ローカル局でも『僕たちのライバルであるネットが…』という話が出る。役割が違うし連携すればパートナーにもなる。自己の価値と役割を再認識することが必要。災害時の放送とネットの役割分担については党の情報通信戦略調査会で検証し改善します。アクセス集中で落ちる行政のサイトも問題」と投稿したのが、自民党の小林史明衆議院議員だ。
「皆さんは地域の交通インフラや河川の情報をリアルタイムで知りたいと思うはずだが、放送の場合は多くの人にリアルタイムで一斉に知らせるという機能に集中しなければいけない。そして、これは業界の方に考えていただきたいことだが、"これから何をしたらいいか"を伝えてほしい。例えばボランティアの話についても、大きな被害が報じられると、"あそこはこれだけ大変なんだから、うちがこんな浸水でボランティアを要望するのは申し訳ない"と我慢してしまうケースがある。そういう人たちに対して、"我慢しないで下さい"といったことを、特に情報にアクセスしづらいシニアの方や避難所にいない方対して放送は伝えるべきだ」。
その上で、「AbemaTVはテレビ朝日が撮ってきた映像を流せるので、いわばテレビ朝日は地上波とネットの両方の出口を持っていることになる。これが進めば、テレビは"放送会社"ではなく、"情報流通事業者"ということになってくるし、そちらの方向に頭を切り変えた方が良い。このままテレビ局が放送だけしかできない、しないとなると、届けたいものが視聴者の皆さんに届かなくなってくる。これからNHKのネット同時配信が解禁されるが、夏野さんの指摘した問題は、NHKと民放が役割分担で揉めているという問題にも繋がってくる。民放の皆さんは、NHKの同時配信に反対し、"NHKがネットにまで出てくると視聴率が奪われる"と主張し続けてきた。しかしその議論からはそろそろ脱して、"ネットは当たり前"にした方がいい。それと同時に、もう一歩、NHK改革を進めるべきだ。例えば災害の現場に各局がカメラを出すのではなく、基本的にはNHKが撮ってきて、その映像を民放各局が共有して使えるようにするとか、場合によっては民放同士で映像を分け合うということにすれば、こっちは千葉、こっちは神奈川、というように業界内で分担することもできると思う。また、全国の話をずっと流すのはNHKだけでいいのかもしれない。また、NHKのニュース防災アプリのクオリティが非常に高いと評価されているが、これこそがNHKの役割だと思う。行政はむしろ情報をどんどん出していき、それを吸い上げたメディアが編集し、伝えるのがいい。とくにNHKは情報のプラットフォームで皆が共通利用できるように整理した方がいいと思う。NHKには普段から色々な批判があるし、実際に肥大化しすぎている部分もある。確かに地上波の2チャンネルは1チャンネルでいいと思うし、衛星放送も縮小し、災害報道などに特化していく必要があると思う。そのために皆が受信料を払っているわけで、公共財としての役割に集中していただくよう、我々も改革を進め、そしてNHKと民放の役割分担をもっと整理していけば、国民の皆さんに安心な情報を提供できると思っている」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:小林議員、夏野剛氏、カンニング竹山らによる提言(期間限定)
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