写真家の大西暢夫さんは月に一度、長く“閉ざされた世界”と言われてきた精神病院を訪れる。“精神科病棟の現実を知らせたい”と、自分なりの方法を模索してきた。この日たずねたのは、千葉県習志野市にある三橋病院。統合失調症など、精神疾患がある約80人が入院している。
撮影は原則、二日がかり。「基本的に無理はせず、その場で成立したところでシャッターを切っている」という大西さん。患者に話しかけるも、なかなかシャッターを切らない。撮りたい瞬間が、あるからだ。「初日に頑張って顔合わせをして、二日目の午前中が勝負って感じです」。患者に積極的に声を掛け、病室を案内してもらう。「両親は医者だった」「発病は早い?」「30歳代前後かな」「30年くらいなりますね、長いですね」。この病院に入院して11年。帰る家はないという。家族の写真を見せてもらいながら会話を進め、そしてカメラを構えていた。