1日、東京オリンピックのマラソン・競歩の札幌開催が正式決定した。その一方、IOCのコーツ調整委員長は「IPC(国際パラリンピック委員会)からは会場を札幌に移す見込みはないという意向を伝えられた」とコメント、東京大会組織委員会の森会長も「パラリンピックのマラソンについては東京開催の方針を改めて確認をした」と明かした。
東京オリンピックは来年7月24日に開会式が行われ、7月31日~8月8日に競歩、8月2日に女子マラソン、8月9日に男子マラソンという日程になっている。一方、東京パラリンピックは8月25日に開会式が行われ、9月6日にマラソンとなっている。また、今年の気温のデータでは、8月の札幌の気温がおよそ22℃なのに対し、9月の東京はおよそ28℃となっており、札幌よりも、パラリンピックが行われる9月の東京の方が暑いのだ。
2012年ロンドン大会で日本人最高の5位入賞を果たし、現在は日本パラ陸上競技連盟副理事長を務める花岡伸和氏は、1日の発表まで、パラリンピックの選手たちの間にも不安はあったと話す。「決定については、本当に数えるほどの人間しか関わらなかったんだろうなというのが実際のところだと思う。平たく言えば、“相当上の方で決まったんだな”と。IOCの動きの後も、IPCからは何もなかったので、おそらくパラリンピックは“ほったらかし”だったのではないか。パラリンピックも札幌だと言われたら、それはそれで我々も混乱したと思う。直接全ての選手の意見を聞いたわけではないが、やはり招致が決定してからの6年間、“東京でやるんだ”というモチベーションで選手たちは歩んできた。とは言え、暑いところで激しい運動をしてはいけないということはオリンピックであれ、パラリンピックであれ、変わらない。選手の健康を考えると場所の変更もやむなしと個人的には思う」。
パラリンピックのマラソンには、視覚障害(男女)、脳原性まひ以外の車いす(男女)、上肢切断・上肢機能障害(男子)の3つの種類がある。パラスポーツを取材しているライターの瀬長あすか氏は「脊髄損傷の障害のクラスなど、障害が重いほど体温調整が難しい選手が多い。車いすマラソンの鈴木朋樹選手は“熱い風呂に入る”など、暑さ慣れの訓練もしている。ただ、パラスポーツは “競技の掛け持ち”も多く、現実的に札幌は難しい」との見方を示す。
また、同じくパラスポーツを中心に取材しているスポーツライターの星野恭子氏は、視覚障害の競技について「選手自身も暑さに備えて数年前から東京で戦うための準備をしてきた」「ただ、“伴走者”は選手よりも走力が必要」「遮熱対策に加え、補給場所の増設、沿道のミストなどの工夫」などと指摘している。
この点について花岡氏は「車いすのランナーは足で走るランナーほど暑さによる危険性は高くないと考えている。というのも、時速に直すと平均31.8kmというスピードで走っていて、男子のトップだと1時間20分台でフィニッシュするので、競技時間が短い。また、世界のマラソンコースの中でも長くて勾配がきついボストンマラソンの下り坂では、時速が80kmくらい出ている。それだけ風を受けて走ることになるので、体温の上昇も抑えられる。車いすの場合、マラソンに出る選手もトラックの競技に出場しているケースが多いので、移動面やコンディショニングを考えれば、このまま東京やるのが望ましい」と話す。実際に観戦した経験のある作家の乙武洋匡氏は、「マラソンを沿道で見るときには“頑張れ~!頑張れ~!”というペースで声をかけられると思うが、車椅子マラソンの場合は、声をかけようとしたら“あー、行ってしまった!”いうくらいのスピード感だ(笑)」と話す。
花岡氏はその上で、「発汗の機能に障害のある選手の場合には必ず遮熱対策を行っていかなければいけないし、視覚障害の女子になると3時間を超える場合もある。危険性は時間の長さとともに上がっていくものなので、そこは途中でやめる勇気も大事になるかもしれない。いろんなものを背負って出場するオリンピック・パラリンピックの場での葛藤は、想像以上の選手に苦しみを与える。そこはやはり、“辞めてもいいんだよ”というスタンスを周りが持つことも大事かもしれない」と指摘した。
一方、パラリンピックのマラソン競技が東京で実施されることの意義について、「パラリンピックという言葉は周知されたと思っているが、どんな競技をやっているのかはまだまだ知ってもらわないといけない段階だ。アウトドアスポーツ、特にロードレースの良いところは、関心がない人たちも通りすがりで見ることができる。今回、どの競技もチケットをとるのに非常に苦労している中、ふと“車いすがすごいスピードで走っているな”と、その魅力に気づいて、“2024年のパリ大会でも気にしてみようかな”と。そういうところにも繋がるのではないか。また、これから選手になるであろう、障害のある子どもたちなどへの普及にもつながる。こればっかりはやってみないと、良かったのか・悪かったのかというのは分からない。そして、僕らは来年が“スタート”だと思っている。そのためには選手の安全性が第一で、事故が起きてはダメ。その上で、付加価値として何ができるのかまだ考える時間はある」と、都市の持つ発信力に期待を寄せた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:花岡氏による解説
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