合成麻薬「MDMA」を自宅で所持していたとして、16日に逮捕された沢尻エリカ容疑者。世間に大きな衝撃を与えたが、ネットでは「政府のスキャンダル隠しだ」という陰謀説が相次いでいる。
沢尻容疑者の逮捕を受け、タレントのラサール石井氏は「政府が問題を起こし、マスコミがネタにし始めると芸能人が逮捕される。これもう冗談じゃなく、次期逮捕予定者リストがあって、誰かがゴーサイン出してるでしょ」とツイート。すると、5万件近くリツイートされ、14万件以上の“いいね”がついた。
一連の疑惑で、野党から徹底追及を受けている「桜を見る会」。メディアで大きく取り上げられたタイミングで沢尻容疑者が逮捕されたが、ラサール石井氏は政府が抱える問題から目をそらすための“火消し逮捕”があるのではと主張している。これに反応したのが、実業家の“ホリエモン”こと堀江貴文氏。ラサール石井氏のツイートに対し、「こいつ頭にウジ湧いてんな笑笑」と辛辣なツッコミを入れた。
ネット上では、陰謀論を信じる人たちとただの偶然とする人の間で議論が起こっている。政府に都合の悪い問題が起きた時、注意をそらすために新たなニュースを大きく取り上げることは、俗に「スピン報道」と呼ばれる。ネット上でスピン報道が疑われている過去の事例には次のようなものがある。
・2014年5月15日、当時の民主党から反発を受けていた解釈変更が伴う集団的自衛権の行使容認について、安倍総理が会見。2日後の17日に大物歌手が覚醒剤取締法違反の疑いで逮捕。
・2016年1月21日、週刊誌で甘利大臣(当時)の“口利き疑惑”が報道。2月2日に元プロ野球選手が覚醒剤取締法違反の疑いで逮捕。
・2019年2月24日、沖縄の県民投票で辺野古埋め立てに反対する人が7割を超え、玉城知事が安倍総理に辺野古への移設断念を求める。3月12日にミュージシャンがコカイン使用の疑いで逮捕。
これまでもスピン報道は冗談も交えて度々指摘されてきた。しかし、最近は真剣に政府の陰謀だと訴える人が増えてきている。例えば、鳩山由紀夫元総理もその1人のようで、「沢尻エリカさんが麻薬で逮捕されたが、みなさんが指摘するように、政府がスキャンダルを犯したとき、それ以上に国民が関心を示すスキャンダルで政府のスキャンダルを覆い隠すのが目的である」とツイートしている。
タレントや元総理までもが唱えるようになった、政府の陰謀説。政治と芸能人逮捕の因果関係が注目されるようになった要因について、臨床心理士で心理カウンセラーも務める明星大学准教授の藤井靖氏は、「安倍政権は長期政権ということで、支持している人も多い一方で支持していない人も根強くいる。支持していない人の中でどのようなことが起こっているかというと、心理学で“認知バイアス”というが、安倍政権に対して不満感を持っている人はなんとか解消したいという心理になる。解消するために安倍政権に関するネガティブな情報を集めようとするが、政権というのは自分にとってコントロールできない対象で、その傾向はさらに強くなる。物事を客観的にみるというよりは、いろいろな情報を主観的に判断して必要なものだけを自分に取り入れる『選択的抽出推論』という認知バイアスにあたるのでは」と分析する。
さらに、その状態が続くことでの懸念点があるといい、「欲求不満の解消だけで収まるといいが、根拠に基づかない見解を信じ込むというのは、さらにその人の主観性を強めていく。結果として物事の本質を見失って、本当に考えなければいけないことに対する意欲や興味を失っていき、発信者のみならず情報を受け取って巻き込まれた人もそういう形で本質を見誤るということにつながっていく」と指摘した。
BuzzFeed Japan記者の神庭亮介氏も、ネットの陰謀論に警鐘を鳴らす。「根拠を示して下さいという話で、鳩山氏のような元総理が不確かな情報を拡散するのは非常に問題。ネット上では “フィルターバブル”といって、泡の中で自分が見たい情報ばかりを見ようとする人も少なくない。『政府の陰謀であってほしい』という願望が先に立っている」と指摘。
「点と点を結んで、複雑な事象を一気に単純化できる陰謀論には独特の快楽がある。映画や小説などのエンタメで楽しむ分にはいいが、現実世界でも陰謀論に傾斜し始めたら要注意。陰謀論は面白いだけに、用法用量を守って正しく扱うことが必要」と話す。
神庭氏はまた、沢尻エリカ容疑者が出演予定のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』について、署名サイトで「収録分を予定通り放映してほしい」という動きがあることに注目する。署名はすでに2万人以上(19日21時時点)が集まっている。
「芸能人の不祥事がある度に『テレビに映すのはけしからん』『降板させて録り直し』ということを繰り返しているが、あまり建設的ではない。こと薬物事案に関しては、制裁を与えてスッキリするよりも、『事件前に収録したものです』と断ったうえでそのまま放送し、注意書きに薬物の相談窓口でも載せた方が依存症対策になる。再撮影にかかる受信料も節約できるのでは」との考えを示した。
そんな中、NHKは覚醒剤所持の疑いで田代まさし容疑者が逮捕されたことを受けて非公開にしていた『バリバラ』内の企画「教えて★マーシー先生」の番組サマリー記事を、15日に再掲載した。その理由について「薬物依存症と向き合う番組のメッセージや姿勢は変わらず大切なものだと考えているので、一部の表現を修正したうえで再掲載することにした」と説明している。
このNHKの対応に、神庭氏は「英断だと思う。番組の中で田代さんは薬物依存から立ち直ることの大変さを繰り返し述べていたが、実際に逮捕され、その言葉を身をもって体現してしまった。今こそ放送する価値のある番組だと思うし、動画は非公開のままとはいえ、まずサマリー記事だけでも再掲載したことは評価できる。大河への対応も含めて、線引きをどうするか考え直す時期にきているのではないか」と述べた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)
▶映像:沢尻容疑者、MDMAを粉末状で所持「手慣れた手法」
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